物流作業の生産性が上がらない理由 〜その2
物流の計画が実現できない
計画が遅れる理由には、ポジティブ・フィードバック現象が背景にあります。きちんと組み立てた計画でも、実行にあたって予想できない事態や外部環境が入り込み、せっかくの計画に漏れが隠れていたことが影響しているからです。化学実験では法則がありますから、成分を間違えなければ、そして手順を正しく行えば、実験結果は同じような状況が再現されます。実験室とはそのような条件を固定化できるからです。社会や私たちの生活、職場はそうは行きません。
ポジティブ・フィードバックとは
A→B→C→D という連鎖や出来事の流れは誰もが当然のことと考えられてきました。それぞれが独立して起きて、終わってから次に繋がること当たり前のように習ってきました。それがPDCAサイクルという考え方です。
「それぞれが」「独立して」「順番に」「つながっていく」のであれば、成果は予想できるでしょう。計画が成功する時の条件は、連鎖がきちんと繋がることです。これを計画制御と呼ぶのですが、実態としては制御不能に陥っています。
現実の世界では、それぞれの出来事が終わる前に次につながり、それぞれは決して独立していることはほとんどありません。むしろ、Aが始まってはいるが、終わる前にBが始まり、その途中でCも始まり、更にDも連動してしまう。つまり、ABCDが直列ではなく、並列状態で進んでしまうことがよく起きています。
独立して順番につながることを「線形である」と呼びます。グラフが直線で示される状態です。世界が線形でできているなら、事件や事故、突発的なことはなく平穏な時間が過ぎてゆくことでしょう。予防や事前対処が有効的に働き、完全にカバーできているからです。
PDCAでは、P(計画)が完成してから、D(実行)され、その途中でC(チェック)が行われれば、A(アクション)は適切に進むことでしょう。でも現実ではPの不足部分がDの最中に発覚し、Cを行うことなくAが連動してしまうことはほとんどです。その際もPに立ち戻って再びDを行えば良いのですが、そうはできません。
いったん流れが起きると、それを急に止めることはできず、次々と計画していなかった(予測できていなかった)ことが連鎖して発生し、CもAも成り行きでやらねばならなくなり、果たして混乱が生まれます。もちろん予測が外れてしまうことも当然です(計画制御は成功しないからです)。
PDCAの繰り返しがきちんとされずに、新たなPDCAが紛れ込む事態が起きるのは、経験的にも良くあります。これをポジティブ・フィードバック(動的反応の結果のカオス)と呼んで、混乱することを指しています。
PDCAを非常に短時間で、超高速で繰り返していれば避けられる事態ですが、複数の人や部門、承認命令というスタイルがある限り、手待ち時間が発生して、その結果がカオスを生むことを避けることはできないのです。
世界が私だけのひとりであれば、時間の流れを遅くして対処が可能でしょうが、関与する人が増えれば増えるほど時間を止めることはできずに流され、カオスとなるのは想像できるでしょう。問題はカオスの程度であり、コントロールできるならカオス状態をカオスとは呼ばないですね。
時計は針を車で連動しているから正しい時を刻むのですが、もし歯車がなければどうなるか。私たちの世界は歯車のない時計のようなものなのです。調和も同期も無関係に様々なことが起きています。先が読めない不確実性の時代と呼ばれたのも、事実から観察できる現世なのでしょう。これって、アナログとデジタルの違いになっています。アナログ処理がいったんカオスに陥ると、手の施しようがないほどに混乱するのがこの理由なのです。
世界はカオスで溢れている、と言えば恐ろしくも感じますが、「規則法則と混乱」は表裏一体で、どちらも同時に起きています。どちらかだけが正しく、それが法則であるなら、カオスへの対応ができるでしょう。規則正しく並んでいる水の分子も、時間とともに分散、拡散、蒸発してゆく。自然は規則と混乱が同時に起きています。そのような真理の中で私たちはどうするのか。計画制御は不能であり、待っているのはカオスだけ。と覚悟を決めれば次の打ち手が見えてくるのです。
サイバネティクスって何?
いろいろな解釈や理論がありますが、微調整を繰り返して到達できる技、とでも言いましょう。目をつむってテーブルの上のりんごをつかもうとする時、私たちは目で見て、腕を伸ばし、指で掴みます。その時の脳と筋肉の情報処理は膨大なものになっているはずですが、いとも簡単にできます。それは、脳も筋肉も微調整を繰り返してる、高速処理を行っているからです。プログラム言語で書こうとすると、IF~THENのループがどれほど必要になるか、とにかく大変です。
システムをデータで制御するために、read→ write→ edit→ delete では済まないので、センサー→レスポンド→アクションという自律反応が必要になります。
予測や計画ではなく、臨機応変ということになるのですが、今までの考え方のPDCAとは明らかに異なることに気づいてほしいです。
トライ→イベント→フィードバック→チェック→アクション という微小活動による斬新的遂行とでも言えなくないです。
スタート方法を変えましょう
計画ではなく直観で何かを手掛ける、すると何かが変化する、そして反応を見て、次の手を打つ。それを繰り返していくことで、目標達成や進化を続けることになるという考え方です。
カイゼンには終わりなし、だったけれど計画は破綻し、予想外の出来事が突然起きるポジティブ・フェードバックが当たり前に起きるのなら、完全活動とはサイバネティクスという数学、物理学、心理学、科学、行動経済学、モラル、動機、向上心と総力戦で臨まねばならないはずです。
今まで考えられ、行われてきた、業務改善の手法が通用しない時代になっていること。これこそが不確実性の時代の本当の姿であることを再確認し、根源的な対策を考えなければなりませんね。次回です。
この記事の作者
花房賢佑
ロジスティクストレンド