稲盛和夫氏に学んだ経営の哲学と戦略

私どもは、Fbeiホールディングスを持株会社として、事業会社が3社あり、事業母体の株式会社福岡情報ビジネスセンターは、福岡に本社とクラウドセンター、東京に拠点を構えるIT企業として7月には28期目を迎えます。また、グループ企業の株式会社ケイエムはラベルプリンター日本一シェアのサトーホールディングスの関連企業で4月に第37期目、フードギフト事業の株式会社サンリッチは6月で第35期目となります。
【稲盛和夫氏との出会い】
経営者として駆けだしの2006年11月に、私が住んでいます佐賀県にて稲盛和夫塾長が講話をされる盛和塾佐賀市民フォーラムが開催されることを知り参加させていただきました。その後、盛和塾福岡塾へ入塾させていただきました。例会に参加すると、塾長や先輩塾生の凄まじい経営への努力を知り、徒手空拳でやってきた自分の稚拙さを知らされました。
・自分自身、全従業員の為に、誰にも負けない努力をやってきたのか?
・経営者として覚悟を決めて、私心無く、ど真剣にやってきたのか?
・素直な心で善きことを想い、恨みや妬みを抱いたことが無かったか?
・卑怯な振る舞いが無かったか?
日々、反省ばかりでした。
稲盛塾長から「経営の12ヶ条」の通りにやれば経営は必ず善くなりますよと言われ必死に頭に叩き込み、実践していきました。
【経営12ヶ条】
1.事業の目的意義を明確にする
(公明正大で大義名分の高い目標を立てる)
事業をやる意義を一緒に働く従業員が心から受け入れてくれる公明正大な大義名分が必要です。
2.具体的な目標を立てる
(立てた目標は常に社員と共有する)
必ず達成しなければならない目標として周知徹底しなくてはなりません。
3.強烈な願望を心に抱く
(目標の達成には潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと)
心の底からその現実を描き、潜在意識にまで浸透していくような願い。そうなれば、思わぬところで神様からの啓示とも思われるようなヒントが与えられ成功へと近づいていきます。
4.誰にも負けない努力をする
(地味な仕事を一歩一歩堅実に、弛まぬ努力を続ける)
物事を成就させようとするならば、努力を積み重ねる以外に方法はありません。地味な努力を一歩一歩堅実に行い、弛まぬ努力を続けることで、必ず目標は達成できると信じています。
5.売上を最大限に、経費を最小限に
(入るを量って、出ずるを制する。利益は追うものではない。利益は後からついてくる)
売上を少しでも増やすように、日々創意工夫を重ね、また経費を少しでも減らすように一つひとつの経費科目を見直し、経費削減に努める。
6.値決めは経営
(値決めはトップの仕事、お客も喜び自分も儲かるポイントは一点である)
お客様が喜んで払ってくれる最高の値段はいくらか。それを見い出すことが経営者の仕事です。値決めは、経営者自らが責任を持って行わなければならない。
7.経営は強い意志できまる
(経営には岩をも穿つ強い意志が必要)
どのような事態になろうと、言い訳をせず、必ず目標は達成するのだという強い意志が経営者には必要です。
8.燃える闘魂
(経営にはいかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要)
経営はまさに真剣勝負です。
9.勇気をもって事に当たる
(卑怯な振る舞いがあってはならない)
いささかでも卑怯な振舞いをすれば、従業員との信頼関係は一瞬のうちに消え、企業全体のモラルも急速に失われてしまいます。
10.常に創造的な仕事を行う
(今日よりは明日、明日よりは明後日と常に改良改善を絶え間なく続け、創意工夫を重ねる)
偉大な創造とは、一日たりとも現状に満足せず、絶え間なく改良改善を続けることによって生まれるのです。
11.思いやりの心で誠実に
(商いには相手がある。相手もハッピーであること)
商いの法則は、売って喜び、買って喜ぶということです。自分だけが利益を考え、相手を泣かすような商売は、一時的には成功しても、決して長続きはしません。
12.常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて素直な心で経営する
全ては善きことしか起こっていないと信じ、すべてを素直に受け入れ、明るく思うことで、その心が本当に幸運を呼び寄せます。経営者は決して物事を否定的に見たり、批判ばかりしてはなりません。
<盛和塾第19回世界大会>
次に、生きていくための要諦だと説かれ、「六つの精進」を実践してきました。
【六つの精進】
1.誰にも負けない努力をする
2.謙虚にして驕らず
3.反省の日々をおくる
4.生きていることに感謝する
5.善行、利他行を行う
6.感性的な悩みをしない
盛和塾での学びで、胸に突き刺さる言葉や自問が次々に出てきました。
・因果応報の法則
・幸せになる義務がある
・成功と自己犠牲
・成功は純粋な心から
・気の毒なほど働く
・義を求めれば利は自ずとついてくる
・百術は一誠に如かず
・至誠の感ずるところ天地もこれが為に動く
そして、最も感銘を受けたのが
『人生(仕事)の方程式:人生(仕事)の結果=考え方×熱意×能力』
熱意と能力があっても、正しい考え方が無ければ善き人生や、善き仕事にまで到達できない。仕事を愛し、仲間を愛し、善き事を想い善き事を行うことで初めて人生を好転させることができる。その方程式は、他のどんな格言よりも、シンプルで絶対的な人生の方程式でした。
力任せの仕組みがあれば、会社は伸びるものだと思い込んでいた未熟な私にとって、見るもの聞くものすべてが私に欠けていた事ばかりでした。これこそが経営なのか、本当の働くことの意味を学ぶ機会を頂きました。そして全従業員とこの学びを共有しみんなの為に、会社を良くしていきたいと強く思うようになりました。
仕事上での判断をするときには、フィロソフィに照らし合わせて考えるようになってきました。ブレの無い指針を持つことで、迷いが少なくなり決断が早くなりました。
かつてのリーマンショック、そして今回のコロナショックの時期には、いかなるときも経営者は決してボヤいてはいけないとの教えを守り、稲盛塾長のご指導の通りに不況の時の5つの対策をさっそく実行して参りました。
【不況の時の対策】
1.社員との融合
2.あらゆる経費の削減
3.営業に全力をあげる
4.新製品の開発に力を入れる
5.あらゆる面に創意工夫する
これらの塾長に教えて頂いた不況の時の5つの対策を素直に実践することで不況をチャンスに変えることができました。いずれの不況時においても最高の経常利益を更新しています。稲盛経営哲学の実践においては、不況はチャンスだと言えます。
【ケイエム社との出会い】
ケイエム社との出会いの3カ月後には、経営をやってくれないかと相談が来ました。
幹部たちの意見もこのままでは会社が倒れてしまうと危機感があり同様の意見でした。私は、塾長だったらどう振舞うだろうと考えながら、企業価値を評価し経営リスクを洗い出すために、デューデリジェンスをさせて頂きました。
『長期借入金残高をEBITDA(営業利益+減価償却費)で除した年数は80年と算定され、現実的に返済不能と思料される。資金不足は深刻で現在の収益力では有利子負債の返済は困難であり、大幅なリストラ、所有資産の売却など大幅な経営改善を実施しない限り、企業の存続は困難と思料される』
弊社の顧問軍団からは、もはや経営継続が危うい会社を引き継いで何になると言われました。しかし、一人ひとりのエンジニアは誠実であり、不平不満を言わずに愚直に一所懸命に働いている姿を見て、働く環境を善くしてあげなければ、このエンジニアたちの苦労が報われないではないかとの思いでいました。2017年8月に株式の70%を取得し、弊社の子会社にして、私は代表取締役に就任しました。さあ、再建スタートです。再建にあたって、まずはビジョンシートを描いて社員全員に、みんなで会社を立派にしようとの思いを話しました。
フィロソフィ手帳を配布してフィロソフィの勉強会に参加してもらいました。次に収支を明らかにすべく、週次の収支会議に出でもらい、アメーバ経営の管理会計による数字を全社にオープンにしました。そして、1on1によるコーチングを含む、公明正大な人事評価制度を構築し、デジタルによるDX化を推進しました。
借金の返済に追われ多重債務となり、キャッシュが底をついて賞与も払えない瀕死の状態だったケイエム社は、経常利益10%を常に超え、現在無借金となり、社内留保も蓄積され、美しい決算書となりました。ケイエム社が再建できた要因は、やはりフィロソフィの浸透とアメーバ経営の実践、そして公明正大公平無私な人事評価制度の構築は見事に機能して、されに、必然に迫られてのバックオフィスのDX化だったと思います。
しかし、それに加えるに、誠実に働いているエンジニアであれば必ず報われて良くなると信じてもらうように語り続けたこと。事案に対して率先垂範する姿を見て気の毒に思い、守られている安心感を得てくれたこと。そして、心を開いて信じてくれて明るく上を向いてくれたこと。これも併せて業績が好転した要因だと思います。
この2年半はほんとうにあっという間でした。再建を終えた6月の株主総会で私は共に奮闘してくれた一回り年下の現社長に代表交代を告げました。
ケイエム社に6年ぶりに新卒の社員が入社してくれ、社内では結婚する社員、家を購入する社員、家族が増えた社員が次々と出でしました。会社の健全な状態になり、会社の業績が良くなって、さらには、社員に善き事が起こり始めました。
頼まれごとは、試されごとです。無我夢中に頼まれた事業再生をやってきましたが、今、振返りますと..「おい、お前!!稲盛経営哲学を実践できるのかやってみい!!」と、試されたのだと思います。
【サンリッチ社とのご縁】
2022年の年の瀬に、事業承継で困っておられた、お客様である株式会社サンリッチ社の経営を譲渡していただきました。サンリッチ社がグループ企業にジョインしたことで、食とITでDXを推進する食に関わるフードプラットフォーマーとしての成長路線にリソースを集中していく事業戦略を練っています。
只今、サンリッチ社ではフィロソフィ勉強会、木鶏会で哲学、道徳、倫理を学んで2年が経ち、人事評価制度のコンサルをしてくれるあしたのチーム様のお力を借りて公明正大な人事評価制度も構築しましたので、今年はアメーバ経営を実践すると宣言しています。
【経済産業省のDX支援ガイダンス検討委員】
2023年11月に経済産業省から中堅・中小企業のDX支援ガイダンスの策定検討委員ヘの要請が来ました。2024年の3月27日に経産省から公表されました。本編70ページ、事例集86ページの力作です。
この支援ガイダンスに、私の前職の会社である創業63年の老舗のFCCテクノ様のDXでの変革とDXを支援した創業140年の老舗の冨健様の事例、そして創業80年を超える大陽製粉様のDX支援での変革事例、そして今回事例追加を依頼した実松製作所様のDXでの変革事例を、中小企業のDX事例として掲載させていただきました。
弊社も全社がDXの本質を学び、かつDXによる成長戦略を策定し、経産省が認定する「DX認定」を頂きました。今後はこの経験を活かして「DX認定」取得の支援サービスを弊社の新規の事業にしていきます。
塾長の言葉に「人生は人との出会いで決まる」というのがありますが、本当にそうだと思います。
2011年(50歳)に稲盛経営者賞を頂き、九州IBMユーザー研究会の会長と全国IBMパートナー会ユーオス・グループの理事長に選んでいただきました。
2017年(56歳)に倒産寸前のケイエム社の再建では稲盛経営哲学の実践を無我夢中にさせてくれました。
2022年(61歳)にサンリッチ社の事業承継では、フィロソフィとアメーバと人事評価を持ち込んで自走型の組織に変える任を頂きました。システムを創る事業からシステムを使う事業へ挑戦する願いが叶いました。
2023年末(62歳)に経済産業省のDX支援ガイダンスの検討委員として参画依頼がき、2024年(63歳)の3月末に公表することかできました。さらにラッシュアップした事例集第二版を今年3月に経産省から公表されました。IBMのテクノロジーと稲盛経営哲学で中小企業のDXを支援することができて今までの学びが生かされていることを実感しています。
今年の2月13日~14日に東京の幕張メッセにて日本最大の食の祭典「スーパーマーケット・トレード・ショウ2025」にて、グループの知恵を懸けて開発した食のDXソリューション「おまからECマルシェ」をお披露目しました。これからは、グループの総力を挙げて、サンリッチ社のDXを推進し、食とITでイノベーションを起こしていく事業に集中していきたいと思います。
<スーパーマーケット・トレード・ショウ2025に出展>
今年の4月には17名の新卒社員が入社しました。Z世代が半数を超える160名ほどのグループ企業になりましたので、若いエンジニアが新しい社会に求められる活動をしてくれ賑やかになると思うとワクワクしてきます。なんとしてもみんなを幸せにしなければならないと経営者として気持ちも昂ります。
45歳の時に前職を離れ、喪失感の中で僅か5人の社員と始めた零細企業でした。2007年、盛和塾入塾時の業績は、売上高5,691万円、何の指針もなく、IT小僧仲間6人が経営の真似事をしている様で、会社経営の体を成していませんでした。
盛和塾での学びを重ねていくと、魔法にでもかかったかのように、何事にも感謝に溢れ、それと正比例して、会社がまるで生き物のように成長し始めました。現在は、売上高約30億円、経常利益2億6千万円を超えるグループ経営をさせていただくようになりました。
<令和7年度入社式>
稲盛塾長と盛和塾のソウルメイトのみなさんとの出会いで人生が好転しました。全てのことは魂を磨いていただくための善きことでした。盛和塾の塾生になれて私は運が良かった。
これからも稲盛経営哲学を会社にしっかりと落とし込み、心を高め、従業員との絆を強め、仲間のために尽くし、感謝に溢れた、徳で治める、悔いの無い会社経営を続けていくことをお誓い申し上げて筆をおきます。
この記事の作者

武藤 元美
株式会社福岡情報ビジネスセンター代表取締役 https://fbicenter.co.jp/