物流2024年は料金値上げの追い風
「運べない物流問題」として、ドライバーの労働時間制限が2024年4月から規制本格化する。働き方改革の一環として今まで猶予されてきたドライバーの超過勤務時間が制限されて、このままではワンマン長距離輸送ができなくなり、積み残し問題が表面化するという。
そもそもトラックドライバーの勤務実態は、運転時間より荷積み、荷降ろし、強制待機時間が問題視されてきた。そこで手積み手降ろし削減のためのパレタイズ対応、パワーゲート付きトラックとカゴ台車運用など、徐々にではあるがざまざまな取り組みが行われてきた。
システム対応では納品センターでの強制待機開放のために、荷積み荷降ろしスケジューリング案内がスマホに届く仕組みやバース待機情報が公開されるまでになっている。
――働き方改革の目的は何だっけ
ドライバーの労働時間制限は業界慣習の撤廃ではない。長時間労働がもたらす悪影響の予防措置が目的だ。労災過労死事案は年間1500件以上届けられている(実際には数倍の事案があるとされている)が、経営者ともどもに改善勧告を受ける労災死亡事案の30%は運輸・郵便事業で発生している。公開されているだけでも毎年500名が長時間労働による過労死でなくなっているのだ。運輸業はまさに3Kの地獄環境にあるといえる。
この状況を打破するために行政も業界も規制を強化して、労働時間の短縮を目指そうというのが規制強化の目的だ。
――いったん自分で運んでみたら
労働時間の制限=運行時間の短縮=荷物が届かないリスク、が業界挙げての大問題とされてはいるが、当のドライバーにしてみれば更に深刻なのは賃金縮小が明らかだからだ。
ドライバーの賃金は業績給ではあるものの、実態は時間賃金とも言える。残業が減ればその分運ぶ貨物が減り、業績も低下することは明らかで、規制強化は賃下げに直結するのは避けようがない。
<運送の生産性を上げろ、待機時間を排除しろ、貨物受取り準荷主の応対監視する等>
運べなくなる危機感で溢れている。世論もようやく引き込まれ始めており、過剰な物流サービスがトラックドライバーの生命を人質にして成り立っていることに気づき始めた。
主管官庁である国交省、農水省、経産省も合同で「持続可能な物流実現」という勝手なテーマでもって、あちこちで有識者会議を開催している。
人が死んでも運ばなければ経済が成り立たない、と言わんばかりの議論が展開されている。この論点、絶対におかしいと気づかねばならない。運ぶ人がいないなら、自助努力でまずはやってみるのが当然であるし、そのための自家用トラックや自家用運転手はおそらく余るほどいるに違いない。
だって、140万台の営業トラック以上に600万台の自家用トラックがあるのだから。
自分たちで運ぼうとすれば社員待遇や労災予防に真剣になるだろう。物流ドライバーの過酷な労働条件にも経験で自覚するだろう。
そして「このままでは物流は持続できない、事業サスティナビリティの危機だ」と真剣になることだろう。
その対策は、ドライバーの待遇改善と新しい人材の流入、制限時間内での輸送問題解決に多くの知見とシステムが欠かせない。まずは投資、そのための運賃値上げ交渉だろう。
――ホールドアップすれば解決策が見えてくる
海を歩け、空を飛べ、1トンを持ち上げろ、3桁の掛け算をすぐしろ、間違えない仕事をしろ、・・・・これは出来ないと決めてから代案、工夫が生まれたのでないか。技術もシステムも社会も進化は困難から始まっている。認めることが大事であって、そこから打ち手を探せるのに、現に物流業界では「金を出すものが強い」という双方平等の契約原則が揺らいでいる。今回の2024年問題も似たような状況だから、今までと同じ条件、料金では運べない問題が荷主側から提起されている。
今までの条件ではドライバーが不足して運べないなら、自家用トラックで自社の社員が運べば良い。売ることはすなわち運ぶことだし、売り手と買い手が出会う現場が物流であるからだ。自分でやってみれば、全てを実感できるはずである。
企業では中枢から一番遠いところに物流があり、だから知らない、気づかない、わからない、で済ませてきた。ところが考えてみれば、顧客市場に最も近い存在が物流であるからここを蔑ろとして、コストのためにアウトソーシングしてきたつけが戻ってきたのだと思わなくてはならないのだ。
双方平等であるビジネス契約原理からは、解除や停止も許される。すると更に安く、品質の悪い代替業者が参入するのではないか、と疑心暗鬼でちゅうちょしながら値下げ競争で生き延びてきた、長年の悪習を崩す時が来たのではないか。
この記事の作者
花房賢祐
ロジスティクストレンド代表