物流作業の生産性が上がらない理由 〜その1
生産性が上がらない理由
様々なシゴトがつながっており、それぞれのシゴトには忙しかったり、ひまだったりするばらつきがあると、全体のシゴトは予定通りには終わらないことがほとんどです。予定はそれぞれのシゴトの生産性に影響していますが、シゴトごとに最適なこなし方(ベストの生産性を発揮する)をつなぎ合わせると、シゴトの合間、つなぎ目、一段落した時には手待ち時間が生じてしまいます。その発生箇所は毎回変わり、無駄な時間がどこに出現するかの目処は立たないものです。
結局、どんなに頑張っても予定した時間が過ぎてしまうのは、手待ち時間が影響していることが主な原因です。
手待ち時間が多くないか
物流に限りませんが、シゴトは多くの要素で構成されています。調べる、読む、見る、書く、検査する、出力する、連絡する、反応を待つなど、一人のシゴトが一人で完結することはなく、相手がいるために待つことが増えてきます。
どんなに集中して作業を進めていても、シゴトが他の人につながるほど延べの待ち時間は膨らむことが、経験的にも理論的にも証明されています。冗長性の特徴(確実さよりあいまいさが主流)、エントロピーの原則(まとまりは経過時間とともに分散する。噂が広まるのはそのせい)、余裕の拡大(保身のためにそれぞれが余裕時間を確保)、予防保全の確保(稼働時間が伸びると事故が増える)など、理由は様々ですが、人のシゴトには自然界の法則や物理特性の原理原則が影響していて、二人以上のシゴトが連なるときには「待つ」ことを排除できません。その意味で自動化は人が関わらないという、それだけの理由で時間が短縮されるのです。
この表は物流工程で自動化の対象となるもの、人でなくてはできないシゴト、およそ全部のシゴトを並べたものです。それぞれが順番に実行されて、初めて物流が完了することになるものです。
工程のつながりに原因がある
多くのシゴトが物流には含まれるので、それぞれのシゴトを効率化しよう、流れをよどみなく整流化しようという試みがいつも行われていますが、なかなかうまく行かないものです。繋がりの中での「待ち時間」排除をしないと、つながりの隙間に待ち時間が膨らむのです。
全体を部分に分けて、それぞれの部分を最適化して、それらを再度組み立てるという「要素還元法」は業務改善の通常のアプローチです。時計を分解して、それぞれの部品をメンテナンスし、再度組み立てるという分解清掃法とよく似ています。おもちゃや時計は分解しても、元に戻すことはできるでしょう。掃除機のごみ取りやホースの点検もできるでしょう。自動車のエンジンやコンピュータはそうは行きません。分解して更に組み立てても、思うようには動かない。そんな経験は誰しもがあるものです。部分最適を積み上げても、全体最適にはならない例と言えます。
それは一体どんな理由があり、どうすればそのような苦労を避けることができるのか、業務改善に今までよりも良い手法は無いものかを、これから3回に分けて考えてゆきます。
キーワードは計画制御の難しさ、ポジティブ・フィードバック、全体最適の評価です。
初回は「計画制御の難しさ」を取り上げます。
計画は実現できるか
社会主義体制は計画経済で運営されてきました。旧ソ連の崩壊と共に資本主義経済の勝利が謳われたのは、つい35年前の1991年でした。果たして資本主義体制が本当に優っていたのでしょうか。人々の生活環境に「格差が拡がった」のは、決して勝利ではなかったはずです。先進諸国は総じて資本主義経済で運営されていますが、混迷と混乱が続いているのは事実ですし、資本主義の計画運営が順調とは言えず、不確実性やVUCAなどの不確定要素が拡散しているのが現実です。
私たちのシゴトやプロジェクトも計画どおりに終わったことは殆どありません。遅延、新たな悪影響、成果不明など、計画の評価はほとんど芳しくはありません。それは、なぜだか考えたことがありますか。いつも話題に上がる運営手法にPDCAなどのマネジメントスタイルでも計画が最重要視されているのに関わらずなのです。
計画がうまく進まないのは、近未来が予測できないからだと言います。昨日の続きに今日があり、今日のことが明日も続くと考えることを「線形思考」と呼びます。状況をグラフ用紙にプロットして、先々を過去のプロットから予測する最小自乗法という数学を無意識のうちに利用しているからです。
予想は当たることより、外れる確率は遥かに高く、それでも予測を続けることの意味があるでしょうか。計画とはこのような線形手法や思想、観点に基づく、古い常識に囚われたステレオ思考が影響しているのです。
数学は軌道学として戦争中の砲弾着地計算から生まれました。とはいえ、一発で計算通りの目標を捉えることはできず、何度も軌道修正を繰り返すのが通常です。月ロケットも打ち上げ時点で軌道を計算して、一発で月面着陸などは不可能です。繰り返し軌道修正を行うことをサイバネティクス(舵を取る人)と呼びます。机の上のりんごを取ろうとして腕を伸ばす時、私たちは無意識のうちに筋肉を使い分け、指をりんごに近づけてゆきます。もしこの時、目をつむっていて、歩かないと届かない離れたテーブルの上にりんごがあるなら、絶対にりんごを掴むことはできません。
前提にある予測の不能
計画は外部環境が時々刻々と変化する要素に左右され、たとえ1ヶ月の目標ですら、軌道修正しなければ達成することは不可能です。それなのにPDCAとは笑止なのです。実際にも計画立案に大半の時間を掛け、実施やチェックにはほとんど注意をそえないで失敗することが多いですね。(不十分な計画でも非常に短いサイクルでPDCAを回すことは理にかないます)
21世紀は混迷の時代、予想できない事態が次々と降りかかる、変化の時代なのです。計画制御(計画して、実現を目指すこと)が本当に難しいのです。
ライオンが小動物を捕獲するのに走り回り、緩急自在に速度や方向を変えるサイバネティクスが真理なのです。
物流工程のそれぞれで生産性改善活動を行うと、全体としての効率はむしろ計画値よりも下がる、待ち時間が増える、仕掛り作業が膨らむなどの実態が必ず発生します。工程の改善は行えても、別の工程が効率を阻害することのないように、細かく見ながらバランスを取るというサイバネティクスアプローチが重要になるのです。
次回は、改善すれども効果なしとなる実態をポジティブ・フィードバックの理論から紹介しましょう。
この記事の作者
花房賢佑
ロジスティクストレンド代表