4M管理に取り組もう(上) ~物流ではあまり知られていない現場管理手法~
4M管理とは
事業を行っていると4M管理をしっかりとできている会社とできていない会社で差がつくことがわかる。物流関係企業では「4M」という言葉すら聞いたことが無いかもしれない。企業経営では複数の管理技術が求められるが、その中でも基本的な部類にあたる4M管理についてきちんと確認していこう。
4Mとは次の4項目の頭文字のこと。
・ Man 人
・ Material もの
・ Machine 設備
・ Method 方法
物流業務では特に4M管理が重要になってくる。なぜなら4Mのいずれかが変更になると物流品質不良が発生しやすいから。そのために準備しておかなければならないものを「4M変更管理基準」と呼ぶ。皆さんも人が入れ替わったり仕事のやり方が変わったりしたときに間違いが発生したという経験があるのではないだろうか。
人の管理と多能工化
まず「人」についての管理を考えてみよう。物流作業の多くが作業者という人によって行われている。標準作業を設定していない会社では個々の作業者の作業のやり方次第で物流品質に大きな差が出てくる可能性がある。物流作業者のスキルをどのレベルに設定するのか、そのレベルに向けてどのような教育訓練を施していくのかが人の管理のポイントになる。
よく多能工化という言葉が使われる。一人の作業者がいくつもの作業ができることを指すが、これが可能になることで作業編成が容易になり仕事の効率が上がると考えられる。作業編成とは作業を誰にやらせるのか、何時から何時までどの仕事をやらせるのか、一人の作業者が仕事開始から終了までどの作業に就くのかを決めていくこと。一人の作業者が1つの仕事しかできないとその仕事が終わってしまうと残りの時間が手待ちになってしまう。全員がすべての作業をこなすことができれば最少の人員で物流業務の運営が可能となり、効率は最も良くなるだろう
多能工化の第一歩として次の3つを可能にするようにしていこう。これを通称「技能向上3-3-3の法則」と呼ぶ。
・ 1人の作業者が3つの作業ができる
・ 1つの作業を3人ができる
・ 全部の作業を3人ができる
これを実現するだけでもかなりその物流現場の効率は向上するはずだ。人に関しては習熟計画を作って計画的に育成していく姿勢が必要。毎年個人単位にどのような分野を教えていくのかを明確にしていこう。
人についてもう1つ重要なことがある。それはある作業について担当者が変わった時の留意事項をまとめておくということ。なぜならば人の変更時にミスが発生する確率が高まるからだ。たとえば以下のようなルールを考えてみたとする。
- 作業担当者が変更になった場合には作業開始時に監督者が標準作業書に基づき作業を教える
- その作業について作業者から説明させ理解度を確認する
- 何サイクルか実際にやらせてみて作業観察を行う
- 仕事のアウトプットを確認する
作業を教える際には「その作業の急所」について強調して教えることが重要。間違えると致命的なポイントを明確に教え込むことが大切なことは言うまでもない。実際に作業をやらせて作業観察し、その中で気づいたことをその場で作業者にフィードバックする。アウトプットをチェックし補正が必要であればそれを実施しなければならない。
多くの会社がこのプロセスを飛ばしてしまい不良を流出させてしまう。その理由に「忙しさ」を言い訳のように挙げる会社があるようだ。ただしこの業務プロセスは監督者の重要業務。会社としては監督者がこのようなコア業務をしっかりとできる環境を整えてあげることが必要なのだ。もし他の業務とかぶる場合は当業務が優先であることを意識させることも必要だろう。さらに監督者が一人である場合にはこのような業務を実施できるスタッフを作っておくことも求められる。
新製品立ち上げ時の対応
作業量が大幅に増えた時や欠勤者が出た時には別作業者や応援者に仕事を実施してもらうことがある。特に普段その職場にいないスタッフが作業応援に入った時にリスクが高まる。常に人が変更になったらリスクあり、と考えておこう。
新製品が立ち上がる時などは人の習熟が重要であることは言うまでもない。新製品なのですべての担当者が初めての仕事になるからだ。新製品立ち上げに向けた人材育成についてきちんと計画を作成し実行していくことが望まれる。まずその製品についてどのような仕事が発生するのかについて整理しよう。
- その製品の特性は?
- 品質上特に注意すべき点は?
- 梱包仕様をどのようにするのか?
- 保管における条件はあるのか?
このようなさまざまな物流条件について1つひとつ整理していく。そして条件に見合った物流作業の仕方についても検討していくことが重要。そうすると実作業を行う際に「作業上の留意点」が明確になってくるはずだ。その点についての事前勉強会を開くという方法もあると思われる。これは会社の会議室の中で行うことで問題はないだろう。
物流作業訓練道場でのトレーニング
一方で物流倉庫の中に「物流作業訓練道場」を設け、そこで実作業のトレーニングを実施することも考えられる。作業訓練道場は工場では一般的だが物流倉庫ではあまりなじみが無いかもしれない。新人作業者が入ってきた時に基礎的な作業については実際に現物を目の前にして訓練していくことが望ましいことは間違いない。
作業訓練道場ではハンディーターミナルの操作方法、段ボール梱包の訓練、簡単な組立作業訓練、フォークリフトによる荷扱いなど、会議室の中ではやりづらい実作業について教えていく。訓練結果については作業者ごと作業ごとにその習熟度を把握し、それを訓練道場の壁に掲示しておこう。作業習熟の見える化を図ることで「人」について何が足りているのか何が不足しているのかが瞬時に把握できることになる。
この新製品立ち上げ時には計画的に「同一作業を複数名が作業できる」環境を作り上げていこう。このような環境を整備しておくことで自社が安心して仕事を進められることは当然として、顧客もその状況を把握し安心することにつながるのだ。
もし物流事業者が顧客の荷物について作業を行うのであれば上記のような取り組みは顧客から言われる前に実施しよう。そうすることで顧客の信頼を得ることにつながるからだ。顧客によっては発注先である物流事業者の準備状況を評価することがある。評価があるからあわてて対応するのではなく、ぜひ計画的に自ら取り組んでいくように心がけよう。
この記事の作者
仙石 惠一
・物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。
・自動車メーカーでサプライチェーン構築や新工場物流設計、物流人財育成プログラム構築などを経験。
・著書 「みるみる効果が上がる! 製造業の輸送改善~物流コストを30%削減~」
・日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術など連載多数。
http://www.keinlogi.jp/ 無料メルマガ 「会社収益がみるみる向上する!1分でわかる物流コスト改善のツボ」 https://www.mag2.com/m/0001069860