物流塾

物流管理監督者の仕事を見直せ(下) ~マネジメント型管理監督者が会社を救う~

管理監督者は現場作業の延長線にあらず

 管理監督者は作業員という職種とは異なるものである。ここを勘違いしている会社が多い。一定の年限が来たから管理監督者に昇格させようという会社がほとんどではないだろうか。その際に「管理職」に転換させるための教育を実施していない。だから管理監督者は実際に何をしたらよいのかわからない。結果的にスーパー作業員のような管理監督者が大量に生まれてしまう。これはその管理監督者のせいではなく会社の責任だ。

そこで会社として管理監督者の役割を明確化するとともに、その育成計画を確立しよう。今すぐは難しいとしても、3年後には本当の管理監督者を社内に置けるようにしていければよいではないか。

物流管理監督者の5つの役割

 

 それでは物流における監督者の役割について確認していこう。それは図1に掲げる5つである。1つずつ解説していく。まず「作業の標準化」だ。これはあえて言うまでもないことだが、実際には多くの物流現場でできていない。物流業界に標準化という意識が薄いことが要因のようである。その理由を推測するに物流作業は自由度が高いからではないか。多少手順が違っても同じ結果につながることがある。つまり作業のプロセスに複数のやり方が考えられるということだ。ただし作業者によって手順が異なると処理スピードと結果品質に差が出る可能性がある。だから物流監督者は作業を標準化し、作業のプロセスと結果が常に同じになるように仕向ける必要がある。

 2つ目は「作業指導と定着化」だ。標準化した作業を部下にしっかりと教え、それを定着させることだ。時々作業観察を行って間違った作業を見つけたらその場で修正させなければならない。

 3つ目は「標準作業の改善」だ。標準作業とは現時点で考えられる最良の方法であって未来永劫それが不変というわけではない。つまり物流現場作業は常にさらに良い方法を模索し続けることが求められるのだ。その結果が標準作業の改善ということになる。

 4つ目は「異常時対応」だ。異常は日々発生している物流現場もあるかもしれない。物流にはいろいろな外部要因の結果があらわれるという性格がある。営業の読みが外れれば余剰在庫が物流現場にあふれかえることになる。生産が遅れれば出荷現場での残業と緊急便輸送という追加コストが発生する。購買が発注を間違えれば欠品や余剰在庫で物流現場が混乱することがある。このような「異常」に対して影響を最小化するために物流現場の監督者が采配を振るうことになるのだ。

 5つ目は「4M変更管理」だ。聞きなれない言葉かもしれないので4Mの意味について説明しておこう。4Mの語源は以下の言葉の頭文字である。

・ Man   (人)

・ Material (もの)

・ Machine (設備)

・ Method  (方法)

 物流を構成するこれら4要素である4Mのいずれかが変更になった時にトラブルが発生しやすい。例えば作業員が変わったとたんに不良が増えた、などはよくあること。だからこそ4Mそれぞれが変更になった時の対応について物流監督者は事前にまとめ、ルール化して職場に徹底する必要がある。このルールはポケットサイズの冊子にまとめ、作業員全員に所持させるようにしたい。

 

 物流監督者はこの5つの役割以外に日常管理として目標SQDCMの達成というタスクを負っている。安全、品質、デリバリー、コスト、マネジメントについて会社から課された、あるいは顧客と握った目標があるはずだ。それを日々達成できているのか否かについて確認し、未達成の場合はそのリカバリープランを作成して実行していく。標準化の延長線で人財育成や継続的改善の実行があることは言うまでもない(図2)。

さらに会社と合意したプロジェクトがあればその推進が求められる。たとえば現場改善を行って労働生産性を20%向上するというプロジェクトがあったとする。目標を達成するためには改善チームを組んで着実に実行していかなければならないだろう。

これだけ見ても物流監督者にはやるべき業務が多々あることがわかるだろう。つまり前回書かせていただいた「現場入り」などは行っている余裕などないはずだ。監督者は本業であるマネジメントで手いっぱいのはずだから。

物流管理者の役割

 物流管理者は単なる現場リーダーという立ち位置ではなく、会社経営の立場で仕事をする役割を持つ。最も重要な役割は会社利益に貢献することだ。これは当たり前のことのように聞こえるかもしれない。でも実際に会社利益に貢献できている管理者はどれくらいいるだろうか。物流会社でよく耳にする話として、顧客別の収支が不明だという話がある。笑い話のようではあるがこれは事実。つまり管理者が本来の仕事をしていないからこのような結果になってしまうのだ。

管理者のもう一つの重要な役割はずばり人財育成だ。監督者は現場作業員の育成に取り組むが、管理者はさらに監督者や間接スタッフのリーダーまで含めキャリアディベロップメントを実行する責務を負っている。たとえば新入社員が最初に営業の職に就いたとしよう。その社員の5年後、10年後をどう考えるのか。これは直属の長である管理者が考えなければならないことだ。各社員のCDP(Carrier Development Program)を作成し、計画的な育成を実行しなければならない。ここがしっかりしていないとその会社を希望する人は増えていかないと思われる。残念ながら物流業は人気職種とは言えない。背景に人財育成のシステムが不十分だと言わざるを得ない。管理職が自分事としてしっかりと人を育て活かす取り組みを心がけたいものだ。

この記事の作者
コラム記事のライター
仙石 惠一

・物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。
・自動車メーカーでサプライチェーン構築や新工場物流設計、物流人財育成プログラム構築などを経験。
・著書 「みるみる効果が上がる! 製造業の輸送改善~物流コストを30%削減~」
・日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術など連載多数。
http://www.keinlogi.jp/ 無料メルマガ 「会社収益がみるみる向上する!1分でわかる物流コスト改善のツボ」 https://www.mag2.com/m/0001069860

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