「グリーンリカバリー=太陽光・風力」の単純発想が陥る落とし穴〜前編〜
脱炭素でアピール不足の小泉環境相
2020年1月、“脱炭素条約””パリ協定がいよいよ本格的に動き出した。正式名は「2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減等のための新たな国際枠組み」。
要するに、地球温暖化の元凶であるCO2などの排出を大幅に抑制し、気候変動による異常気象の発生に歯止めかけようというものだ。
この実現のため、産業革命時(18世紀後半~19世紀)と比べた平均気温上昇を少なくとも1.5℃以下、できれば2℃以下にしようと訴えているのは周知のとおりだ。
日本は2030年までにGHGを2013年比で26%削減と国際社会にコミットした。ちなみにパリ協定の“母体”は、世界約200カ国が加盟する「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約:UNFCCC)。
さらに、同条約の最高意思決定機関として、条約締結国が年1度侃々諤々話し合う場、COP(気候変動枠組条約締約国会議)を設けている。COP25は「第25回同締約国会議」の意味で、2019年12月にスペイン・マドリードで開催。2020年9月16日菅新政権が発足、引き続き環境大臣として続投する小泉進次郎氏もCOP25に参加した。だが、CO2増加の張本人、と国際的批判が高まる石炭火力発電所の削減に、日本は消極的だと非難されるハメに。
EUが89兆円投じるグリーンリカバリー
翻って、「アメリカ・ファースト」をゴリ押しするアメリカ・トランプ大統領は、自国にメリットなしと断言し、パリ協定からの離脱を宣言。
対してEU(欧州連合)はこれとは全く逆で、「グリーンリカバリー」(GR:緑の回復)を宣言。CO2削減目標のハードルをさらに高めようとしている。
GRとは、ポストコロナの経済復興を「脱炭素」で達成するというもの。石炭・石油など化石燃料“がぶ飲み”の20世紀型から訣別し、石炭火力発電を早急に全廃、太陽光、風力など再生可能エネルギー(自然エネルギー)を景気回復の原動力にするのがねらい。EUは同構想に何と7500億ユーロ(約89兆円)を注ぎ込む、と鼻息が荒い。
一方、逆風に危機感を抱いた日本政府。まず、小泉環境相は2020年6月に開かれた気候変動イニシアチブ(JCI)との会合の席上、「緑の回復」というワードを意識的に使って脱炭素への積極性をアピールして見せた。
石炭火力発電所100基休廃止の真実
さらに、これに呼応する形で、翌7月にはエネルギー行政を統括する経産省が、「石炭火力発電所の削減」策を宣言。
現在、国内には約140基の石炭火力発電所が稼働し、うち約110基の低効率型と呼ばれるが、その中でも特に効率の悪い約100基を2030年度までに休廃止するという構想だ。
もちろん、脱炭素を意識した経産省の決断は一定の評価をしてもいいだろう。だが、休廃止する発電所の大部分は2030年時で耐用年数「40年」を迎える代物であり、黙っていても賞味期限切れとなるだけの話。
先の東日本大震災による原発事故で電力供給が逼迫し、本来は火を消すはずの低効率な石炭火力発電所もフル回転させて、全国的なブラックアウトを回避、現在に至る――というのが実態だ。
同様に、石炭火力が大胆な休廃止に乗り出すと、全体の電力供給に占める割合は現在の32%から、2030年度には26%まで圧縮される。
数値だけを見れば、まぎれもなく“脱炭素”への貢献だろう。ただし、この数値を鵜呑みにし、「地球に優しい政策だ」と欣喜雀躍するのはまだ早いかもしれない。というのも、石炭火力の大幅削減による電力不足分の大半を、原子力発電でカバーするというのが政府のエネルギー戦略だからだ。
政府は「電源のベストミックス」(発電方式の最適比率)と銘打ち、「化石燃料8割弱、再生可能エネルギー2割弱、原子力6%」という今の電源構成の姿を、10年後の2030年度には「化石55%前後、再生22~24%、原子力2割強」へと衣替えしたい考えだ。
要するに、石炭を含む化石燃料発電の減少分の大半は、原発の再稼働でカバー、というのが、エネルギー戦略の要諦だということ。
原発の大規模復活についてはさまざまな意見があり、ここで是非を明言するのは避けたい。
この記事の作者
深川孝行
経済・軍事ジャーナリスト