物流塾

物流という社会インフラを死守するために(下)

管理技術としての物流管理

もっと若い人たちに物流の魅力を知ってほしい。物流に携わる誰もがこのように望んでいる。しかし現実問題として物流そのものの存在が周知されていない以上、この望みを叶えることは簡単ではない。では私たちはどのような取り組みを実施していったらよいのだろうか。

皆さんは「管理技術」という言葉をお聞きになったことはあるだろうか。わかりやすくするために簡単な事例を挙げてみよう。たとえば「標準化」という言葉がある。仕事を誰が行っても同じ結果が出るように「型」を作ることをいう。この型の通りに仕事ができるように作業指導を行い皆その通りに実行する。武道における型と同じ考え方だ。ISOの取り組みはこの標準化がベースとなっていることにお気づきのことだろう。会社はルールを決め、それに従って実行することで秩序が保たれる。物流も同様だ。製造業ではこの標準化がほぼ完璧に導入され実行されている。だからこそ一時期、日本の製造業は世界一の座を占めることができたのだ。

一方で物流はこの標準化が遅れている。どの仕事も大まかな進め方こそできてはいるものの、細かい点は作業者任せになっている。その結果として品質にばらつきが出るとともに、低生産性から脱せないでいる。物流の弱点はここにある。だからこそ物流にはきちんとした管理技術(図1.)を導入し、SQDC管理と4M管理(図2.)をしっかりと行うことが求められる。

必要性をまず私たち物流に携わる人が認識しなければならない。物流管理というものを確立する必要があるのだ。この物流管理の確立が優先課題にはなることは間違いないだろう。しかしこの狭い範囲だけでは物流の真の効率化にはつながりづらい。皆さんも経験されていると思われるが、物流以外の要因で物流ロスが発生することがある。たとえば調達。まとめ買いすれば安くなるということで一気に大量のものを調達することで起きる置場不足。製造現場がまとめ作りすることで発生する物流容器不足。営業が顧客にかっこつけたいために無理な配送サービスを約束することで発生する物流コスト。いずれも物流に悪影響を及ぼす要因だ。各部門は悪気があってこのような行為を行っているのではなく、物流への影響を認識していないだけである。

だから私たちが本当に考えなければならないことは「オペレーションズ・マネジメント」だろう。つまり材料を調達し、それを使って生産を行い、お客様へお届けするまでの一連の流れの管理だ。これを物流管理とセットにしてトータル的管理技術として認識していくことが望ましい姿だろう。

大学での物流講座の重要性

この管理技術をぜひ大学で若い人たちに伝えていきたい。欧米や中国の大学では「オペレーションズ・マネジメント」がきちんと確立されており、その学科の卒業生は各企業の物流幹部として活躍していると聞く。日本では物流学科が極めて少ないことも事実。その理由についていくつかの話を聞く。「①その道の専門家がいない」、「②物流といっても学生が集まらない」、「③大学側が物流そのものに意識がない」。この内②と③は事実だ。でもそれを言っても始まらない。ここは私たちの行動次第。①は誤解だろう。もちろん大学教授の中で物流を専門に研究している人は少ないかもしれない。しかし企業の中にはたくさんいる。そう、私たちのことである。物流人材を育てたいと思っている私たちが率先して学生たちに教えていくしかないのだ。

大学で講座として実施していくには欧米スタイルの「オペレーションズ・マネジメント」の建付けが望ましい。よくサプライチェーン・マネジメントと言われるがほぼ同義語だ。もしかしたら物流のスペシャリストでも調達管理や生産管理、販売管理の領域に明るくない人がいるかもしれない。その部分はその道の専門家に任せればよい。特に製造業には調達部や生産管理部、営業部が確立されているので、その部門の人たちの助けを借りればよい。

エンジニアリングとしての物流

管理技術と同様に重要なことが物流技術だ。物流はエンジニアリングである。物流の効率はその設計段階で決まってしまうことにお気づきだろうか。拠点間を離して設計すればその間の運搬は永遠に発生し続ける。ものを運搬するために荷姿が必要になる。人も必要になるし在庫や管理も発生する。地理的には仕方のない部分はあるが、工場の中も同様。工場の工程設計次第で物流が決まってしまう。つまりこの物流設計をきちんと行えるかどうかが重要なのだ。これを実行していく手法が物流エンジニアリングだ。

具体的には拠点設計、拠点内のレイアウト設計、荷姿設計が3大エンジニアリングと考えられる。これらを支える機能として物流設備設計や情報システムもあるだろう。IE(Industrial Engineering)も必須だ。先ほど述べてきた管理技術とは別の技術として会社内に位置付けていきたい。たとえば物流技術部という部門があってもよいのではないか。その部門には管理工学や機械工学などの理系の学生を採用し、誇りをもって仕事をさせる。

さらに一歩踏み込んだ仕事の仕方として開発段階への物流の噛みこみを考えてみたらどうか。一例をあげると「荷姿効率を低下させる製品形状の是正」についての提案を行うこと。製品にほんのわずかな突起があるだけで荷姿効率が半減してしまうことなどざらにある。結果的に会社の物流コストを上昇させることになる。このような視点で見ることができるのが物流エンジニアの人たちだ。物流に悪影響のある製品設計を設計開発の人たちにフィードバックする。実際に製品設計を是正できればベストだが、このような視点を設計担当者に刷り込むだけでも効果があるだろう。

物流関係者の心構え

私たち物流当事者はあらゆる機会を通して物流人材を育成していく責務を負っている。世の中が物流を空気のような存在ととらえている以上、誰も助けてはくれない。これからの物流という社会インフラを死守するのは私たち自身にかかっているのだ。ただし周囲への働きかけを怠ってはならない。たとえば物流に悪影響を及ぼす調達や販売については関係者にその事実関係を伝え是正を促す。大きな視点では運送業への外国人労働者の参入を認めるよう国に働きかける。国の物流政策については積極的に意見を述べていく。このような愚直な行動が今後の物流維持に寄与することは言うまでもない。

一方でぜひ控えていきたいことがある。それは「被害者意識」による発言だ。たとえば運送における適正運賃について次のような発言がある。「運送会社は荷主から適正な運賃を収受できておらず、これは直ちに是正する必要がある」。運送事業は規制産業ではない。運送事業者が顧客である荷主と相対で取引価格を決めることになっている。そこで合意した価格が「適正価格」だ。納得できない価格であれば取引しないはず。自分たちで合意しておきながら荷主を悪く言う運送事業者を見かけるが、情けない気がしてならない。不満があるなら自ら価格是正をすること。それができないのなら愚痴を言うことはやめること。このような行為が物流の地位向上の妨げになるのだ。

私たちは何も卑下することはない。物流の地位が低いというのであれば上げていけばよいではないか。堂々とプライドを持って仕事をしていきたいものだ。私たちは社会を支えている重要機能を担っているのだ。そしてそれを死守するためにさまざまな取り組みを行う責務を負っていることを忘れてはならない。要は心構え次第なのだ。

この記事の作者
コラム記事のライター
仙石 惠一

Kein物流改善研究所
・ 物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。
・ 自動車メーカーでサプライチェーン構築や新工場物流設計、物流人財育成プログラム構築などを経験。
・ みるみる効果が上がる! 製造業の輸送改善~物流コストを30%削減~
・ 日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術など連載多数。
・ http://www.keinlogi.jp/

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