物流塾

物流不動産コラム連載12回 詳解 物流不動産法令(改正リース法に備えて)

物流不動産連載12回 詳解 物流不動産法令(改正リース法に備えて)

第1回 法令違反の予防(再発防止策) 

最近の規制緩和は新たな法令登場と交代に行われているようです。

 かつての不動産バブルでは、短期売買を禁じたり、売却利益課税が強化されたりしました。

 酒税に至ってはメーカー努力による新商品ビールが登場するたびに、アルコール税が新設されるなど、ビジネスが規制のスキマを埋めようとすると、新たな規制が登場するといういたちごっこが続いているようです。

 それなのに今年の入社式では、ずべての経営者が新人に向かって『当社の姿勢はコンプライアンス最優先』と宣言しています。ビジネスで法律を守るのは最低限のルールであるし、さらにどんどんルールが追加されていく以上、「何を、どこまで守るのか?」という素朴な疑問も湧いてきます。私たちの知らない新しい法律がどんどん生まれてくる、いわば押し寄せる法規制に場当たり的な対応では、いずれモレや忘れが生じるに違いありません。

 また専門家として頼りにしたい弁護士や学会も、ビジネス実務家としては専門バカと言いたくなる様な解釈と講義に終わっていて、適切な解説やアドバイスを求めることが難しいのではないでしょうか。

 そもそも法律家は法の解釈と訴訟に備えた交渉人で、訴訟が有罪と無罪に紙一重の差で争うことから、絶対的な無罪=コンプライアンスというのも現実的ではないのかもしれません。

 コンプライアンスを宣言することは、実は事件の予防であり、再発防止を確実にするための取り組みでなければなりません。人間の欲望に押さえが効かないように、法を犯したいとう動機は、倫理観の欠如や無知、無謀の為せる技ではないからです。事故や事件の原因を究明して対策を打っても、別の犯人が類似の事故と事件を起こすのもいたちごっこで再発防止に役立っていません。詐欺事件や契約違反による搾取が横行するのも、日本人の勧善懲悪の価値観が薄れたのではなく、ある人にとっては悪魔の呼び声が聞こえているからです。
 
 ビジネスにおいて法規制の知識を正しく最新のものにすることは当然として、私たちはコンプライアンスがもつ予防、再発防止策の具体案を知ることから始めたいと思います。

 事件や事故はなぜ再発するのでしょう。犯人や当事者を断罪することで再発は予防できるのでしょうか。まったく類似の事故やミス、事件が再発している現実を見る限り、実際には不可能です。犯人を特定したり、その動機を分析したとしても再発できないなら、どうすればよいのでしょう。(続く)

第2回 ノーアクションレター制度(行政手続き) 

コンプライアンスを主張しなくてはならない背景に、世間の事件多発という事実があります。新手の経済犯罪や企業不祥事などで、再発が繰り返される現実に対処しなくてはなりません。「当社では予防と再発防止策が万全である」という主張こそがコンプライアンスなのです。

 過去の事件を反省に動機や犯行の背景を分析してきましたが、再発を防止することができなかった。重大な作業ミスも頻発していますし、事件も繰り返されています。確かにその犯人や当事者は排除されましたが、研究は役に立っていません。なぜでしょう。

 事故や事件はTPOがあります。タイム、プレース、オケージョン、昔おしゃれのコツとして言われた時刻・場所・場面のことです。従来の研究ではこれらの視点が抜けていました。犯人や当事者、動機ばかりに注目していて、TPOを参考程度にしか研究材料にしてこなかったのです。

 事件や事故は「ある特定の条件が整った場合に、発生する」というのは事実ですから、予防や再発防止にはこのTPOを排除することのみが効果的なのです。動機やよこしまな人物を絶対に排除することは不可能です。

 違反や事件がおきる場面を想定して、空間を隔離したり、監視の目を行き届かせなければ、作業や手続きはダブルチェックによってポカミスを防がねばなりません。どれほど従業員に声を荒げても、決意させても、また意識を変えさせようとも、これらのTPOを事前把握しておかねば再発防止にはならないのです。次回は法令違反の事前チェックができる制度について解説します。(続く)

法や規則、ルールを知らねばならない。「知りませんでした」が通用しない時代なのです。新手の規制や法律も知らないところで生まれているかもしれません。自社のビジネスにどんなルールがあるのか、確認する手段を持たねばコンプライアンスは弱体化します。

 すべての監督官庁は欧米に倣って法令事前確認制度=ノーアクションレター制度というものを導入しています。狙いは、新規事業及びビジネスの各局面で該当する法令に遵守しているかどうかの事前照会です。指定の文書(各省庁HPからダウンロード可)に、予定している事業プロセスと該当すると思われる法令条文を記入すると30日以内に回答を得られるという制度です。

 <ビジネスで◎◎という取引は、公取委指導事項の△条に該当するか?>
という質問に、OKorNOの回答をもらえます。コンプラ不安がある場合には有効なアドバイスがもらえるというものです。

 弁護士や会計士は会社法その他に精通しているとはいえ、実務経験が少ないので正直言って頼りにならない、経験や業界に偏りがあるからです。そのとき、当の官庁が直接回答してもらえるこの制度はバッチリ役立つこと請け合いです。

 コンプライアンスが宣言だけでなく、予防や再発防止の具体策を伴わなければならない以上、当事者である監督官庁に直接紹介できる制度を使わない手はありません。電話照会では具体的な回答をもらえることが少なく、憶測やうわさに左右されていてはビジネスのスピードが落ちてしまいます。

 さらに良くわからないから、ということで足踏みするようではチャンスを棒に振ってしまいます。法を知ることも大切ですが、便利な制度もしっかり活用したいものです。次回は不動産関係法の新しい動きについて解説します。(続く)

第3回 関係法令入門(不動産法令)

不動産とは土地とそこに定着した離しがたいもの、ということで建物や樹木が代表です。不動産でないものは動産と呼びますが、船や飛行機も不動産に準ずるものだそうです。

 土地と建物は定着していて離せませんが「登記」では別々に行うのが日本の特徴です。この登記関係では最近、大改革が行われています。電子政府の施策一環として、登記手続きのオンライン申請が認められるようになり(地域法務局の整備状況に依りますが)権利証(登記済み証)制度がなくなりました。

「借金のカタに権利証をよこせ」という会話は無くなりつつあるのです。不動産の所有権も、不動産投資信託(REIT)や特定目的会社(TMKとかSPC)によって、証券化などが登場しています。

 デジタル化された登記簿は不動産番号が付けられて、その体裁も一変しました。公図と呼ばれる図面も通称「法17条地図」や「第14条地図」など形態が分かれています。不動産取引に欠かせない「重要事項説明書」の項目には、土壌汚染状況、アスベスト使用事実、耐震構造、防災地域の可否など、次第に不動産そのものの説明責任が増えてきています。

 不動産の特徴は現地現物を見ることができますが、その実際は登記簿や図面によって初めて権利関係や地積や境界線が分かるものです。これらの調査手続きを経ないで、目前にあるものだけを信じてしまっては後々のトラブルにつながることが多いものです。(原野商法、というのが代表です)

 物件の特定は専門の不動産業者のサポートを必要とするとはいえ、アドバイスには図面や登記簿、地目(用途)を明示している課税台帳の写しなど、多くの法令に従って整備された書類を整えておく必要があります。

 不動産図面を見ていると、測量当時の道路や水路、目前ではすでに無くなっている道路や境界線の複雑さにびっくりすることがあります。

 目に見えるものだけが真実ではない、という実感は不動産ビジネスでは日常茶飯事なのですね。次回は契約の基本についてです。(続く)

第4回 契約と約束(契約事項) 

 日本にも契約社会が訪れています。何より弁護士の数が増えました。さらに増やそうというのが国策で、法科大学院を卒業しなくては司法試験を受験できない制度が始まっています。昨年の合格率は何と50%、ただ問題が易しくなったと言うわけではありませんのでご注意を。

 弁護士といえば訴訟と契約が代表的な職業のネタですが、彼らの虎の巻は実は過去の判例、(便利なことにネットやCDROMで過去の事件や裁判所の判断事例DBがあるのです)自身の判断ではなく、先輩の歴史なんです。

 そこで優秀な弁護士とは何か、というと多くのスタッフを抱えてDBの検索技術が優れているということもあるのです。TVでは颯爽と法廷で主義主張を述べる姿や、法律事務所で法廷闘争の戦略を練り上げるイメージがありますが、現実はもっと地味なモノと言っては叱られるでしょうか。

 契約は自分と相手の約束です。なぜわざわざ文書にするかというと、経済行為はお金を払う側がどうしても強くなる原則がありますね。すると、客の立場を使って「イヤなら払わないぞ」という恫喝が頻繁に起きてきたからです。

 いわば契約は弱者のための保身術なのです。さて、不動産取引の場合にはもっとやっかいで、代金を払うのはこちらなのに所有者は不動産の権利関係や地積、面積や道路事情などを詳しく説明することを避けようとします。不動産の価値そのものを過大に評価したがります。所有の喜びを相手にも理解させようと必死で、時として見えている範囲だけを協調して小さなウソを隠そうとするのです。誤解なきように繰り返しますが、不動産契約は見た目以上に書類の確認が重要です。権利、境界、用途、制約条件などはすべての書類に明記されています。弁護士さんや司法書士さんにはこのあたりの解説を充分にしてもらいましょう。

 契約は平等取引の第一歩です。読み慣れない表現や記載事項に気づいたら、過去DBを参考にしてもらい徹底的に調べてもらいましょうね。

 代金持参の当日に初めて読む、なんて事のないように備えておきたいモノです。あなたの立場は強弱どちらにあるか、そのことを平等に確保するのが契約書の条文なんです。次回はハンコの意味です(続く)。

第5回 文書と効力(責任と義務) 

日本法令という会社があります。文具事務器に代理店を置き、黄色の看板で「法令書式販売」を手広く行っています。契約書の代表格といえば、会社の設立や金銭貸借、駐車場やアパートの賃貸借、住宅の請負工事や私たちの給料計算など、およそ4000種類の契約文書のプレ印刷版を販売しています。

 購入してきて空欄を埋めれば立派な契約書やビジネス文書の出来上がりで、ホチキスの止め方や提出先の役所・出張所の住所まで付録が付いています。

 ビジネス上の取引や約束を交わすときには便利な会社です。ところが今時は手書きのメモも使わず、ワード文書で契約書や取引条件を相手に渡すでしょう。電子メールもホリエモン事件や村上ファンドの時には立派な証拠になりました。

 かつて、ロッキード事件では名刺の裏に書かれた「ピーナッツ」が決定的な収賄の証拠になりましたし、民社党の偽メールは議員辞職につながりました。

 昭和初期には手形の詐欺に髪の毛を挟んで偽実印を使った光商事事件というのもありました。

 文書とハンコは事件や裁判の時には非常に重要な証拠になります。逆を言えば、口頭ではどんな会話や録音があっても証拠にはならず、文書こそが強力な事実となるのです。不動産を売買する、賃借する、期限を決めて利用するなどの権利関係のやり取りには、文書と意思表示のハンコが重要です。口頭での契約が有効なのは現物と代金の交換などにしか、有効ではありません。

 不動産では代金の精算までに時間が掛かりますから、予約や仮契約という手続きを踏むことがあるのですが、この場合にはハンコの有無で意思表示が確定します。ハンコと署名は同じ効力を持っています。

 直筆であれば、約束を交わした証拠になり意思の確認をしたことになります。パスポートにサインすることがありますから、日本の書類もだんだん欧米型になってきたのですね。

 ビジネス文書を作ってサインやハンコを押すとき、その瞬間に出来事を振り返ることが大切です。どんな条件だったのか、なぜサインすることにしようと思ったのか、このハンコがどんな義務をもたらすのか。瞬間の迷いが身を守るのです。次回は、間違った契約、交渉についてです(続く)。

第6回 無知と無謀(都合と交渉)

ビジネスの基本は不都合の解消です。顧客の問題を解決する、とも言いますし、「これからはソリューション(解法)だ」とも言われています。確かにニーズやウォンツを探し出して、ピッタリとあてはめれば双方納得の商談が成立します。

 よく考えると、サービスを売り込みたい=売らねばならない都合 と現在困っている不都合のすり合わせが商談成立になるわけです。何が困っている問題かというのは双方にあるわけで、問題点を明確にできれば解法は自ずと見つかります。「何が何でも売りたい」という身勝手は、納得先を探すのに時間が掛かります。けれども自社の都合を明らかにして、その都合を受け入れてくれる先を探すのがビジネスでしょう。時間と手間とご苦労を厭わなければ、いつかはマッチングできるかも知れません。効率次第ですね。

 自社を知り、顧客を知らねばビジネスにならないこと、4000年前の論語にも登場するように為しがたいことです。

 祖母は物心ついた私に、「無学は笑っても、貧乏は笑うな」と諭してくれました。学ぶことは必ず実り、一時の不遇は続かない。花に三日なく、人に千日ない、というのと同じなんですね。

 不動産が第5番目の経営資源になりました。土地持ち金持ち資産持ちだけでなく、不動産を生かして活用してビジネスを高める知識が必要になっています。

 自社の不都合を他社の都合にすり合わせる、このことが交渉のスタートです。
『顧客は1/3インチの穴がほしいのであって、ドリルを買いたいのではない』
ブラックアンドデッカー社長のマーケティング訓話です。

 『物流倉庫を探している』、その背景にある顧客の不都合を知り、学び、交渉を通じて理解することがビジネスです。物流不動産の価格や条件をストレートに交渉条件にする前に、顧客の不都合を知ることなくては無謀な交渉になってしまいます。

 顧客の事情、背景、本当のニーズを知ることが交渉で優位に立つための秘訣と言えるでしょう。次回は日々新しくなってゆくビジネス法律です(続く)。

第7回 六法とビジネス(ダメな交渉、良い交渉)

法律を代表する六法というのは、「憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法」を示しています。古くはフランスナポレオン法に由来しています。

 法律は国家社会の規範という最低限度のルールを定めたものであり、政治で話題の改憲とは、憲法の安全保障に関わる条文を改良しようという動きです。

 ビジネスは損得という利害関係を進めてゆくことですが、商法(会社法も含む)によって大きなルールが規定されています。たとえば、売買の期日を守る事、商品に不良があった場合には交換すること、などの本当に基本的な事が記載されています。万一、このような基本ルールを守らずにどちらかに経済的な損害が生じた場合には、「民事訴訟法」によって裁判所が損害賠償や裁判所命令を発効することができるのです。

 法律を守ることを主張することが流行でコンプライアンスと呼びますが、「最低限度のルール」を拘泥することには意味がありません。守らねば追及されるし、処罰が待ち受けているからです。コンプライアンスは紛らわしさからの決別であり、違反発生の完全防止であると考えられています。

 取引が商法違反や訴訟法違反、その他の法律に違反しないように手続きを万全に進めることがコンプラであって、法律知識を深めることではありません。

 ビジネスは相手があってのゲームのようですから、勝つか負けるかの交渉が前提のようにも見えます。訴訟法もまた被告、原告という勝負の立場での細かな手続きを定めています。ビジネスが戦争に例えられるように、多くは勝負であることは否めませんが、双方勝利のWIN-WIN 取引というものも存在します。

 たとえば、市場取引で需要が多くあり、供給が少ない場合には水産市場でも良く見られるように、本マグロの値段が高騰してしまい買い手が付かなくて鮮度が落ちてしまうような状況があります。株式市場でも「買い気配」「売り気配」が続き、市場が膠着する場面があります。

 ビジネスを交渉と勝負、という見方で進めるとマーケットが流動性阻害を引き起こすことがあるのです。協調や双方メリット、流動性のために妥協するという「法律では想定していない」取引も実際には多く存在します。WIN-WINもしくはナッシュ均衡と呼ばれる現実的なビジネステクニックです。次回は法の執行機関としての行政を見てみましょう(続く)。

第8回 行政との関わり(相談、打診と届け出) 

刑法の執行機関は警察や検察ですし、独占禁止法の執行は公正取引委員会が行います。六法に限らず多くの法律や政令、省令は行政機関が掌握していますので、施行と執行は行政に委ねられています。

 私たちにとって悩ましい税金については国税庁と税務署が執行していますが、不服審判所や相談という交渉の機会が与えられています。

 ノーアクションレター(第2回参照)では事前に各省庁や行政機関に該当する法律の解釈について、打診と相談ができる制度が確立しています。

 ビジネスが国際化して、取引にも外国人や外国通貨を利用したり、取引の対価として有価証券や債券を利用する場面が登場してくると、貨幣交換とは全く異なる次元での問題や手続きの不安が生じるものです。

 特に不動産という高額物件での取引では、公図や許認可制限事項、取引に当たっての商法上の制約、決裁手段における金融情報や税の処理についてなど、様々な場面で法律が関与してきます。

 法の専門家は多くありますが、ビジネスの専門家は私たちでなくてはならず、どんな取引でも裁判を覚悟したようなチャレンジはできません。裁判は費用と時間が多額な損失につながることが多いからです。

 市区町村には商工部門という相談や助成事業を担当する部門があります。最低限の関連法規や行政での指導事項を網羅したアドバイスを担当していますから、不安のある取引や万全を期したい場合には積極的に活用すべきでしょう。

 公官庁は平日しか開庁していなので、使いにくいと思われていますが、その反面情報開示やホームページでの情報提供は素晴らしいものがあります。民間企業以上に情報化されているといっても過言ではありません。

 関係省庁は14の省庁をトップにして、多くの機関がそれぞれホームページを準備していますので、情報検索や相談窓口を知ることができます。

 許認可や申請のための各種届け出制度も、電子化の計画が進んでおりインターネットで情報収集から申請までが終えられる、シングルウィンドウ化を目指しているのが行政機関なのです。次回は、ニュービジネスのチャンスについてです(続く)。

第9回 専門バカと破壊者(ニュービジネス) 

ブルーオーシャン戦略というのが話題になりました。W・チャン・キム先生が競争の全くない事業戦略確立を事例を挙げて紹介しました。逆に既存の事業市場は、すべて競合が存在しているレッドオーシャンと呼んでいます。

 任天堂は花札印刷メーカーから、アイデアと著作権ライセンスビジネスの大手となり、ゲームマシンDSは脳トレ、百マス計算、ヒアリングソフトで「遊びから学習」、Wiiはすぐに遊べるマジックハンドを導入したことでユーザーを幼児から老人まで一気に広げました。ゲーム業界の立役者でもあった任天堂ですが、初期の頃にはやはり競合が存在していました。強気のライバルであったソニーはプレイステーションにセルという超高速CPUをオリジナルで開発し、そのために製造赤字の状況でマーケティングには苦戦しています。ずば抜けた技術力と高性能をもってしてもユーザー開拓に苦労しています。

 任天堂は知的財産に関わるフランチャイズやブランドの販売という法律を熟知して戦い、ソニーは電子技術や特許権で戦おうとしました。どちらに勝敗があるかどうか、これからも様々な作戦で競走して行くわけですが、いずれも最新の法令を基盤にしていることは確かです。

 物流業界では話題になったビジネス特許で、輸配送業務を請け負うことはあっても、事業そのものがSCMというような高度な技術と理論に拠っているものの、法令防御策を構築したという事例はまだ聞きません。専門性を高めてゆくことは事業家の義務ですが、その先には価格のたたき合いと言うレッドオーシャンがあるものです。マーケットを離れる覚悟をどこかの段階で意思決定しなければ、ブルーオーシャンは見つけられません。

 たぶんそんな大局面では「馬鹿げている、不可能だ、無謀だ」という意見に追いかけられるでしょう。

 抜群の事業アイデアは法令という最低限度の義務や責務をクリアすることができれば、前途洋々たる競合のないビジネスに発展するかも知れません。物流業が単位事業では低迷を続け、規模の拡大にも障害が見えてきた現在、範囲の経済性を追うことが必要なのです。「物流を含めたビジネス・プロセス・アウトソーシング」がこれからの物流業界のブルーオーシャンなのでしょう。
 次回は、ビジネスチャンスとマーケットの許しです(続く)。

第10回 法と倫理(チャンスとパーミション) 

マックス・ウェーバー著『プロテスタンティズムと資本主義の精神』は学生時代に読まれた方もあるでしょう。「資本家や事業家というカネの盲信者であっても、倫理という誠実さが欠かせない信仰という奉仕観が無ければ大成しない」とあったような、なかったような。薄覚えなのですが、倫理と誠実という不安が200年も昔から論破されていた点に、現代を見据えていたとは驚きです。

 税法にしろ会社法にせよ、事業展開の最低ルールを定めているものです。国家が国であり続けるためには、美しい国語を守り、国民の常識を高めてゆくことが大切、そのための教育改革だったのに阿部さんは敵前逃亡のような退陣をしてしまいました。臨時国会の意味や演説と組閣組み替えの“社会科教科書的な解説”が子どもにできなくて往生しています。

 法は社会の倫理を定めるモノですが、法のすき間を狙うビジネスも実際には許されます。たとえば銀行が最近注力を入れて販売している投資信託やファンド商品、これは預金や国債とは別物で「元本保証」していません。証券会社が株式よりも低リスク商品として併売してきたものです。

 顧客ニーズの展開によって、「ハイリスク・ハイリターン商品」「ローリスク・ローリターン商品」の中間を行くのが投資信託やファンド商品群です。

 きちんとした商品説明を行えば、顧客にリスクを理解してもらい、納得してもらうという<パーミション>が事業の幅を広げます。

 銀行が証券会社と商品群で重なっている現在、顧客は銀行に納得感をもっているのでしょうか。預金というローリスク商品とファンドというハイリスク商品の区別を、同じ店舗の同じセールスマンから本当に納得して、理解して購入できるのでしょうか。低金利時代が長引き、銀行ユーザーの不満が高まっているから、新商品としての高金利商品を品揃えするのは順当なビジネスです。

 しかし、自社と顧客にとってどれがチャンスで、どんなことがパーミションの洗礼を受けなければならないのか、倫理と誠実がそれを裏付けることになるのでしょう。

 この9月、金融商品取引法が完全実施されました。我が国では法律の抜け穴にファンドビジネスがありました。次回はそのあたりを解説します(続く)。

第11回 争いと交渉(ネゴシエーション) 

9月に「金融商品取引法」が施行されました。この法律は、上場企業への新たな責務としての『内部統制評価』を組み入れたものでしたから成立前夜から多くの話題を集めていました。

 旧証券取引法を拡張、拡大した法律で、表記の通りに株式と先物取引、商品ファンドや話題の投資ファンドも対象にしています。そこで、不動産の流動化に重要な位置づけを占める投資ファンド会社にも大きな影響を与えています。

 法律は証券市場や投資家保護のために多くの義務を定めています。特に内部統制評価は上場関連企業に財務報告の適正性を求めており、相次ぐ企業不祥事の防止策としての効果を期待されています。同時にファンド各社にとっては、やはり投資家保護の視点から、投資対象先についての説明責任や元本保証ではないことの説明責任やその方法までも詳しく規定されることになりました。

 リップルウッド社が日本長期信用銀行を国有化後の譲渡先として選定され、10億円の譲渡額が新生銀行の再上場によって2900億円もの譲渡益を確保したことから、ファンドビジネスに色眼鏡が掛けられるようになりました。8兆円の再生資金としての税は1円も回収できずに終わったからです。

 圧倒的な資本力を使って企業買収や不動産開発、ベンチャー企業へのサポートなど、ファンドはすざましいビジネスを展開してきました。

 商法や会社法、銀行法などビジネスにはその活動を規制しようとする法律が立ちはだかるのが当然なのに、ある意味では無法のこの世の春が続いていたのです。金融商品取引法の施行によってファンドビジネスの去就がにわかに話題になり始めています。

 ビジネスが戦闘行為に例えられるように、金融ビジネスは税法とグローバルな法律を駆使した知識産業です。ビジネス相手の商談ではなく、法律を相手にした商談、つまりは交渉と争いといっても過言ではないでしょう。

 多くの企業がコンプライアンス時代を迎えて法務部やリーガルセクションの充実を図るようになっているのは、保守的な遵法ではなく、攻めの法律解釈がビジネスチャンスにつながることを先達の事例から学んだからでしょう。

 うまくすれば濡れ手に粟の大もうけ、こんなことが景気低迷期の我が国でもある日突然起きた事実があるのです。チャンスは常にあるのものなのです(続く)。

第12回 ビジネス&リーガル(法律で負けない法) 

お酒の宣伝で江川と小林が登場しています。20年以上も昔、巨人入団の空白の一日を使ってウルトラサプライズが江川の手法でした。バカを見た小林はコマーシャルの撮影合間でどんな会話を交わしたのでしょう。

 法律の条文や解説文はとても分かりにくいうえに、識者の解釈もまた腑に落ちるモノがありません。刑法や裁判所の判例、というのも歴代裁判官の解釈によって白にも黒にもなり得るのが現実です。

 どれほど法律を詳しく学んだとしても、実務での会社は法律専門家の力が必要です。また、専門家はそれなりの解釈に長けてはいるモノの応用技は苦手です。結局法律を利用するのはビジネス最前線の私たちの知見に掛かっているのです。

 コンプライアンス、ビジネスチャンスの発掘のためには、マーケットに耳を傾けるだけでは叶いません。まさに法律を駆使した、法律を利用した他社を抜け駆けするチャンスこそ大きいのです。

 ビジネスがグローバル化、不動産が外国資本によって右往左往させられている現在、経営モデルにパラダイムシフトを持ち込まねばなりません。ルールそのものを変えてゆく意気込みがこれからのビジネスチャンスを生み出すのです。

 製造業や物流業はどうしても生産性の向上やコストダウンばかりに目が行きますが、それではブルーオーシャンマーケットを生み出すことはできません。

 競争相手のいない、稼げるだけ自由のある市場は、アイデアと法律の知識によって自己保全が可能なのです。

 ヒト・モノ・カネ・情報・不動産、5つ目の企業資産が多くの付加価値を生み出している実態を知るなら、そこにどれほど法律や税法、会社法に関する知見のエネルギーが使われていることを知るべきです。

 金融機関が未曾有の業績を誇示しているのも、片方では免税に近い処遇を受けている現実。これこそが法科社会になっている我が国の姿でしょう。

 政治も経済も新聞を賑わしてはいますが、その実法律解釈や税法や国際法のしくみに後付でしか言及できないマスコミもチャンスの後ろ髪を追いかけているようにしか思えません。

 今一度、リーガルアドバンテージを考えたいものです。 

この記事の作者
花房陵

ロジスティクストレンド代表