営業利益率0%台からの脱却 ― 配車のブラックボックスを開ける

私はかつて、シンクタンクで官公庁向けに物流政策の提言をまとめる仕事をしていた。データを整理し、あるべき論を描く。
だが提言を重ねるほど、ひとつの限界を痛感するようになった。
変革の主役であるはずの運送会社が、その輪の外側に置かれたままなのだ。外から「こうあるべき」と論じても、現場は動かない。
ならば運送会社を主体とした変革の仕組みを自分たちの手で作るしかない——そう考えて2020年にアセンドを創業した。
以来、全国の運送会社の経営者と数多く向き合う中で、共通する現実が見えてきた。
多くの会社が、ギリギリの利益で走り続けているということだ。
実際、全日本トラック協会の経営分析報告書(令和4年度決算版)によれば、トラック運送事業全体の営業損益率は0.0%。とりわけ車両10台以下の事業者では、約6割が営業赤字に陥っている(注1)。
利益が出ないなら運賃を上げればいい、と外野は言う。だが現場はそう単純ではない。国土交通省と全ト協の調査では、運賃の見直し交渉で成功するのは「2割前後」という回答と、「ほとんどうまくいかない」という回答がほぼ拮抗している(注2)。
交渉のテーブルにつくこと自体が難しく、ついても満足な結果を得られない会社が大半なのだ。

なぜ、これほどまでに利益が上がらないのか。私は、その真因は「日々の業務が繋がっていないこと」にあると考えている。
一台のトラックが荷物を届けるまでには、受注・配車・運行・請求・労務管理、そして管理会計という一連の業務がある。
ところが多くの現場では、受注は電話メモやFAX、配車はホワイトボードと担当者の頭の中、運行は紙の日報、請求は会計ソフト……と、情報がバラバラの場所に散らばっている。業務が繋がっていないから、同じ情報を何度も転記する無駄が生まれ、配車は特定のベテランに依存してブラックボックス化する。
そして最も深刻なのは、これでは「管理会計」が成り立たないことだ。どの荷主の、どのコースの、どの車両が、いくらの利益を生んでいるのか——それを示すデータが揃わない。
結果として経営は“どんぶり勘定”にならざるを得ず、運賃交渉に持ち出すべき根拠すら手元にない。利益が見えないまま走り続ける。これが、多くの運送会社が抜け出せずにいる構造なのである。

しかも、この構造を放置できる時間はもう残されていない。「2024年問題」に象徴されるドライバーの時間外労働規制、深刻化する担い手不足、燃料費の高止まり。運送会社を取り巻く環境は、かつてないスピードで厳しさを増している。
人手も時間も限られる中で、これまでのように現場の頑張りだけで利益を絞り出すやり方は、もはや限界に近い。だからこそ今、業務のあり方そのものを見直す必要がある。
配車と管理会計を、同時に高度化する
では、この構造からどう抜け出せばいいのか。私の答えはシンプルだ。「配車」と「管理会計」を、同時に高度化することである。
この二つは別々の課題に見えて、実は分かちがたく結びついている。日々の配車の一つひとつが、そのまま利益を生む単位だからだ。誰に、どの車両を、どのコースに充てるか。その判断の積み重ねが会社の損益を決めている。にもかかわらず、配車が現場の勘に、利益計算が経理の後追いになっている限り、両者は永遠に噛み合わない。
鍵は、業務を「繋ぐ」ことにある。受注から配車、運行、請求、労務、車両管理までを一つの流れとしてデータで繋ぎ、一元管理する。そうして初めて、日々の配車結果がリアルタイムで利益として可視化される。利益が見えれば、どの仕事が儲かり、どの仕事が赤字かが分かる。赤字のコースは運賃交渉の対象になり、交渉には「御社の案件は、この時間帯では採算が合っていません」という具体的な根拠を持って臨める。勘と度胸のどんぶり勘定から、データに基づく経営への転換である。
たとえば、長年付き合いのある大口の荷主がいるとする。取引量が大きいから、当然「優良顧客」だと思い込んでいる。
ところが業務を繋いで採算を可視化してみると、その案件は待機時間が長く、車両の稼働効率が悪いために、実は赤字だった——ということが珍しくない。逆に、目立たない小口の仕事が高い利益率を生んでいることもある。
数字を見て初めて、経営判断の前提が覆るのだ。どの仕事を残し、どの仕事の条件を見直し、どこに営業力を振り向けるか。事業ポートフォリオの舵取りは、データがあって初めて可能になる。
運送業に特化した運送管理システム「ロジックス」
こうした考え方を形にするために私たちが開発したのが、運送業に特化したクラウド型の運送管理システム「ロジックス」だ。
ロジックスの特徴は、バラバラだった業務を一つのシステムで繋ぐことにある。受注・配車・請求・労務・車両管理から収支管理まで、これまで複数のツールや紙、担当者の頭の中に分散していた情報を一元化する。これにより、大きく三つの変化が生まれる。

第一に、転記作業の削減だ。同じ情報を何度も書き写す手間がなくなり、事務作業は最大で半分にまで減らせる。現場の担当者が、本来注力すべき配車の最適化に時間を使えるようになる。
第二に、法令対応の半自動化である。改善基準告示や改正物流二法への対応が、システムを正しく使うだけで半ば自動的に完結する。制度は年々複雑になり、対応が後手に回りがちだが、その負担を大きく軽減できる。
そして第三に、管理会計の実現だ。蓄積したデータをもとに、車両別・荷主別・コース別といったさまざまな角度から利益を即座に可視化する。これこそが、運賃交渉と事業ポートフォリオ見直しの土台になる。

加えて、利益を正しく捉えるうえで欠かせないのが「原価」の把握だ。ロジックスでは標準原価の考え方を取り入れ、車両ごと・運行ごとのコストを算出できるようにしている。
これまで感覚でしか語れなかった「この仕事は儲かっているのか」という問いに、数字で答えられるようになる。
システムは、使われて初めて価値を生む。どれほど高機能でも、現場に定着しなければ意味がない。だからこそ、配車担当者にもドライバーにも無理なく使ってもらえる操作性を重視し、導入時の支援体制も整えてきた。派手な機能を数多く並べることが目的ではない。あくまで、運送会社の利益に直接貢献することを一点に据えて設計している。クラウド型のため、巨額の初期投資をかけずに導入を始められることも、体力に余裕のない中小事業者にこそ意味があると考えている。
現場で起きている変化
実際に、現場では確かな変化が起きている。ロジックスは2022年のローンチ以降全国でご利用いただいており、その中からいくつか例を挙げたい(各社のご事情に配慮し、匿名で紹介する)。
静岡県で車両60台を運行するある運送会社では、ロジックスに一元化したデータをもとに、運行ごとの採算性を分析した。すると、運送部門がほぼ赤字であること、さらには長年の大口顧客の案件までもが、時間帯によっては採算割れしていることが明らかになった。同社はこのデータを根拠に運賃交渉に臨み、運賃アップを実現している。「見えなかったもの」が見えた瞬間、交渉の景色は一変する。
神奈川県で車両20台を運行する会社では、配車・労務・請求がアナログ中心で、過剰な工数と業務の属人化に悩まされていた。ロジックスへの移行後、配車表の作成時間はわずか5分に短縮され、配車と請求が繋がったことで、請求漏れや金額の不一致といったミスも減っている。
東京都で車両200台を運行する会社は、独自システムの開発に一度失敗した後、ロジックスへの全面移行を決断した。結果として、月々のランニングコストを10分の1に抑えながら、配車業務の作業時間も10分程度にまで短縮している。法令対応もシステムに準拠することで、対応にかかる負担がほとんど発生しなくなったという。
福岡県で車両250台を運行する会社では、複数の営業所に散らばっていた配車情報をロジックスに一元化した。その結果、部門をまたいで配車状況を確認できるようになり、配車効率が大幅に改善。現在では日次で数字を締める「日次決算」の取り組みにも踏み出している。
これらは特別な成功例ではない。業務を繋ぎ、データで利益を捉えるという当たり前を実践した結果にすぎない。規模も、扱う荷物も、拠点数も異なる会社が、同じ考え方で成果を出している。
物流業界の価値最大化に向けて
「物流業界の価値最大化」——これが、アセンドの掲げるミッションだ。
かつて外から政策を論じていた私が痛感したのは、業界を本当に動かすのは現場の一社一社だ、ということだった。
運送会社が自らの利益を可視化し、正当な運賃を収受し、持続的に事業を続けられる。その積み重ねの先にしか、物流という社会インフラの未来はない。配車のブラックボックスを開け、どんぶり勘定から抜け出すことは、その確かな第一歩である。
営業利益率0%台という現実は、決して宿命ではない。業務を繋ぎ、利益を見える化すれば、運送会社は必ず変われる。
私たちは、その変革に現場から伴走し続けたい。
運送管理システム「ロジックス」:https://logix.ascendlogi.co.jp/
アセンド株式会社:https://ascendlogi.co.jp/
注(出典)
注1:全日本トラック協会「経営分析報告書(令和4年度決算版)」概要版
注2:国土交通省自動車局貨物課・全日本トラック協会「トラック運送事業の運賃・原価に関する調査 調査報告書」
この記事の作者
日下瑞貴(くさか・みずき)
アセンド株式会社 代表取締役社長










