「届ける」だけでは解けない物流課題~“受け取る側”から考えるラストマイル

私たちの暮らしにとって、宅配便はもはや欠かすことのできない社会インフラである。
スマートフォンから商品を注文すれば、早ければ翌日には自宅に届く。食品や日用品から衣類、家電まで、必要なものを必要なときに購入できる便利な暮らしは、物流によって支えられている。
一方、その「当たり前」を支える物流の現場は、大きな転換点を迎えている。
いわゆる「物流の2024年問題」を契機に、ドライバーの労働環境や人手不足、輸送能力の確保といった課題が社会的にも広く認識されるようになった。
しかし、2024年を越えたからといって、問題が解決したわけではない。
むしろ、人口減少による担い手不足が今後さらに進むことを考えれば、問われているのは「今ある物流をどう効率化するか」だけではなく、限られた人員と輸送能力で、社会に必要な物流をどう維持していくのかという、より構造的な問題だ。
国土交通省も、物流を地域の住民生活や経済活動、地方創生を支える重要な社会インフラと位置づけ、荷主企業、物流事業者、一般消費者が協力して物流を支える環境づくりを進めている。
便利になるほど「物流」は見えなくなっていく
ECの普及によって、購入から受け取りまでの利便性は飛躍的に高まった。欲しい商品を、場所や時間を問わず注文し、短期間で受け取れることは、今や多くの生活者にとって日常の一部となっている。
一方で、その商品がどのような経路を通り、何人の手を介し、どれほどの距離を移動して自宅まで届いているのかを、生活者が意識する機会は少ない。
言い換えれば、物流が高度化し、便利になればなるほど、その裏側にある物流の負荷は生活者から見えにくくなっているともいえる。
注文する側から見れば、「送料無料」「翌日配送」「時間指定」はサービスの一部である。しかし、その一つひとつの利便性の裏側には、倉庫で商品を準備する人、拠点間を輸送する人、そして最後に一軒一軒の玄関まで届ける人がいる。
これから物流を持続可能なものにしていくためには、物流事業者の努力だけでなく、こうした「見えない物流」と生活者との距離をどう縮めていくかも重要な論点になる。
物流を利用する生活者も含めて、その仕組みを考え直す必要がある。
「届ける側」だけでなく、「受け取る側」から物流を考える。
そこにも、これからの物流課題を解く一つの可能性があるのではないだろうか。
約50億個の宅配便を誰が届け続けるのか
ECの普及は、私たちの消費行動を大きく変えた。
経済産業省の調査によれば、2024年のBtoC-EC市場は全体で26.1兆円、物販系分野だけでも15.2兆円規模に達している。これに伴い、宅配便の取扱個数も2024年度で約50億個(国土交通省調べ)となっている。
商品を購入する側からすれば、「自宅まで届けてもらう」という行為は非常にシンプルだ。
しかし、物流側から見ればそうではない。
物流センターから地域の配送拠点へ運び、そこから一軒一軒の住所へ届ける。特に最後の「ラストマイル」は、多数の届け先に対して人が移動しなければならず、効率化が難しい領域だ。
さらに、届け先に人がいなければ再配達が発生する。
大手宅配事業者を対象としたサンプル調査によれば、2026年4月時点の宅配便再配達率は約7.6%。改善傾向にはあるものの、宅配便の取扱量そのものが巨大である以上、依然として大きな負荷である。
再配達は単に「もう一度届ければよい」という問題ではない。
ドライバーの労働時間、車両の走行距離、燃料、CO₂排出など、さまざまな負荷を生む。国土交通省も再配達を、CO₂排出量の増加やドライバー不足の深刻化につながる重大な社会問題の一つと位置づけている。
再配達率の数字だけでは見えない負荷
再配達率は、物流課題を示す分かりやすい指標の一つである。しかし、ラストマイルの負荷は再配達だけではない。
例えば、一度で配達が完了したとしても、100個の荷物を100軒の住宅へ届けるのであれば、ドライバーはそれぞれの住所まで移動し、車両を停め、荷物を運び、受け渡す必要がある。
都市部では駐車場所の確保が難しいケースもあり、マンションではエントランスから各住戸まで移動する時間も必要になる。反対に地方では、一軒から次の一軒までの移動距離そのものが長くなる地域もある。
つまり、「再配達をなくす」ことと「ラストマイルそのものを効率化する」ことは、似ているようで同じではない。
再配達削減はもちろん重要だ。しかし今後、宅配需要が高い水準で推移する一方、配送を担う人材が限られていくのであれば、「一度で届ける」だけでなく、「一度に、より多くの荷物を届けられる仕組み」まで考える必要がある。
だからこそ、配送ルートの最適化と同時に、「どこへ届けるのか」という配送先そのものの設計も、これからのラストマイル改革の重要なテーマになると考えている。
つまり、荷物は増える。しかし、届ける人は増えない。
この構造を前提として、これからの物流を考える必要がある。
「物流事業者が頑張る」だけでは限界がある
物流業界ではこれまでも、さまざまな効率化が進められてきた。
倉庫の自動化、配送ルートの最適化、共同配送、DX、AI、ロボット、ドローンなど、技術によって物流の生産性を高める取り組みは今後も不可欠だ。
一方で、ラストマイルについて考えると、一つの疑問が生まれる。
「届ける側」だけを効率化することで、本当に十分なのか。
例えば、一人のドライバーが100個の荷物を持っていたとする。配送ルートを最適化し、より効率的に100軒を回ることはできるが、そもそも100軒を一軒ずつ回る必要がある構造そのものを変えることができれば、物流のあり方は大きく変わる。
これは「配送をどう効率化するか」という問いとは少し違っている。
「荷物は、本当にすべて玄関まで届けなければならないのか」という問いだ。
「届け方」から「受け取り方」へ
もちろん、自宅配送が必要なケースは数多くある。
高齢者や子育て世帯、外出が難しい人にとって、自宅まで荷物が届くことは重要な生活インフラである。
しかし、すべての人が、すべての荷物を、必ず自宅で受け取りたいわけではない。
仕事帰りに駅で受け取りたい人もいれば、買い物ついでに商業施設で受け取りたい人もいる。自宅に置き配することに防犯上の不安を感じる人も多くいる。
つまり、生活者のライフスタイルが多様化しているにもかかわらず、物流の基本構造は依然として「指定された住所まで一つずつ届ける」ことを前提としている部分が大きいのである。
ここに、物流改革の余地があると私たちは考えている。
政府が2026年3月に閣議決定した『総合物流施策大綱』でも、消費者が宅配ボックスや置き配などの多様な受取方法をより一層選択しやすくなる環境の整備が掲げられ、その利用率を2030年度までに50%程度とする目標が設定された。
2026年4月時点では31.0%であり、今後さらに利用を広げる必要がある。
置き配、宅配ボックス、コンビニ受取、駅の宅配ロッカーなど、すでに選択肢は増えている。
重要なのは、「どの方法が正解か」ではない。
生活者が自分の暮らしに合わせて受取方法を選び、その選択が結果として物流負荷の軽減にもつながる環境をつくることだ。
物流は「企業だけの問題」ではなくなった
ここに、物流のもう一つの大きな変化が見ある。
これまで物流は、物流会社やEC事業者、荷主企業など「企業側」が考えるものという認識が一般的だった。
生活者は、注文した商品が届くのを待つ「受け手」。
しかし、再配達一つを考えても、生活者の行動と物流負荷は切り離せない。
確実に受け取れる日時を指定する。
置き配を利用する。
宅配ボックスを利用する。
自宅以外の受取場所を選択する。
こうした一つひとつの選択が、配送効率に影響する。つまり、これからの物流では、生活者も物流を構成する一人のプレイヤーとして考える必要がある。
これは、生活者に「物流のために我慢してください」という話ではない。
むしろ重要なのは、生活者にとって便利で、お得で、使いたくなる選択肢をつくり、その結果として物流も効率化される仕組みを設計することだ。
「善意」に頼らない行動変容
社会課題を解決するサービスを考えるとき、「社会のために協力してください」というメッセージになりがちだ。
しかし、それだけで多くの人の行動を継続的に変えることは簡単ではない。
物流も同じだ。
「ドライバーが大変だから再配達を減らしましょう」と呼びかけることは重要だが、それと同時に、「こちらで受け取った方が便利」「買い物ついでに受け取れる」「こちらを選ぶとポイントがもらえる」といった、生活者自身にとってのメリットが必要である。
社会にとって良いことと、個人にとって良いことを対立させない。
生活者が自分のために選んだ行動が、結果として物流にも良い。
この設計こそが、持続可能な行動変容の鍵になる。
必要なのは「物流のため」という動機ではなく、「自分にとって便利だから」という動機である。
ここで重要なのは、生活者に物流課題そのものを背負わせないことである。
物流の人手不足や再配達削減について理解してもらうことは大切だが、生活者が日々の買い物のたびに「物流業界のために何をすべきか」を考え続けることには限界がある。
むしろ目指すべきなのは、生活者が特別に意識しなくても、自然と物流負荷の少ない行動を選べる環境だと考える。
例えば、「帰宅時間に合わせて受け取れるから」「買い物のついでに受け取れるから」「ポイントが貯まるから」という理由で選んだ受取方法が、結果として再配達や配送距離の削減につながる。
社会課題を解決するために生活者の行動を変えるのではなく、生活者にとってより良い選択肢をつくることで、結果として社会課題が改善される。この順番が重要である。
物流を持続可能にするために必要なのは、「協力してください」と呼びかけ続けることだけではない。物流にやさしい選択が、生活者にとっても便利で、お得で、自然な選択になる状態をつくることだ。
ラストマイルを「地域」で考える
さらに、受取方法を変えることは、物流以外の地域課題とも接続する。
街を歩けば、駅、商業施設、オフィスビル、公共施設などに、小さな未利用スペースが数多く存在する。
もし、そうした場所を地域の荷物受取拠点として活用できたらどうだろうか。
複数の荷物を一つの場所へ集約できれば、配送側には効率化のメリットがある。
生活者には、自宅で荷物を待たず、生活動線上で受け取れるメリットがある。
商業施設にとっては、荷物の受け取りを目的とした来店が生まれる可能性がある。
不動産事業者にとっては、これまで価値を生みにくかったスペースを活用できる。
つまり、物流を物流業界だけで閉じず、地域・商業・不動産・生活者まで含めて設計し直すことで、新しい価値が生まれる可能性がある。
「届ける」工程だけではなく、どこで、どのように受け取るのかまで含めて物流全体を捉え直す。
その視点が、これからのラストマイルには必要ではないだろうか。

「誰が運ぶか」から「誰が物流を支えるか」へ
人口減少が続く日本で、物流だけが無限に人手を確保できることはない。
だからこそ、これから問われるのは、「ドライバーをどう増やすか」「配送をどう速くするか」だけではなく、「社会全体で物流をどう支えるか」という問いだと私たちは考えている。
物流事業者だけではなく、EC事業者、商業施設、不動産事業者、自治体、そして生活者。
それぞれが少しずつ役割を持つことで、限られた物流リソースをより有効に使う。
その一つの答えとして、Every WiLLでは「荷物の受け取り方」に着目した取り組みを進めている。
物流を「届ける人だけが支えるもの」から、「社会全体で支えるもの」へ変えていく。
そのためには、物流の最後にいる生活者を、単なる「受取人」ではなく、物流を構成する一人のプレイヤーとして捉え直す必要がある。
そして、その参加を善意や負担によって生み出すのではなく、便利さや経済的なメリットと両立させることができれば、生活者の行動変容を一過性のものではなく、日常の習慣として定着させることができるのではないか。
後編では、国土交通省の補助対象事業として実証・社会実装を進めてきた無人受取拠点「トリイク」と、2026年度に新たに取り組む「自宅deトリイク」を例に、生活者の行動変容を物流インフラにどう組み込むのかを具体的に考えていきたいと思う。
この記事の作者
石戸 智美 伊東 夕佳
株式会社Every WiLL ( https://everywill-jp.com/company/ )











