物流塾

情報と通信の活用でロジスティクスの進化を進めよう

物流からロジスティクスへ

 湾岸戦争で米国が勝利したとされる要因がロジスティクスの成果として持て囃されて久しい。当時、日本国内ではロジスティクスが戦略的物流と翻訳されて高く評価されていたことを思い出される方も多いだろう。専門分野の諸先輩達も兵站という言葉とロジスティクスを同義として論評していた。日本国内はバブルが崩壊し始めた頃のことだ。兵糧攻めという言葉からしても、物流が戦争の勝敗に大きく寄与していることは言うまでもない。実物経済の範疇であるビジネスでも競争している限りは、戦争と同様に戦略と物流がものを言うことになる。

 物流という言葉も比較的新しい言葉だと言われている。物的流通が語源だということだが、単純に考えれば漢字の意味からして、物の流れであり、製造でも流通でも実物経済を支える基盤として如何に重要な機能であるかは言うまでもない。

 昭和初期までは今でいう物流は荷役と運搬という言葉で表現されていたが、現在では、物流=ロジスティクスということでとりわけて戦略的と明記せずに同義語として使われている。

物流と情報との結合

 私が情報システムの業界から物流システムの業界へ移籍した1990年は、まさに物流からロジスティクスへと変化していた時代であった。しかし、物流システムでは旧来の荷役・運搬、あるいは保管系と搬送系のハードウェアが主役であり、情報というソフトウェアは未だ脇役でしかなかった。まさに物流情報システムが漸く台頭してくる黎明期であった。物流情報システム会社の営業担当として物流関連のお客様に営業に出かけても、情報システムは本社の社長室の配下にあって、経営情報処理が主たる任務であり、物流情報処理はその一部としての位置づけで、お客様の情報システム担当と物流担当との間には深くて広い川が流れているように思われた。

 物流現場の方々は情報システムが印刷した伝票や出荷指示書を片手で持って、それを読みながら該当する物を探して一生懸命に作業している姿が痛ましく感じられたものだ。一生懸命に物流を支えているにもかかわらず、会社にとって物流センターはコストセンターと揶揄され、出荷ミスが発生すれば、すべて物流担当の責任にされていた。私は物流情報システム営業担当として、全国津々浦々の物流センターに訪問して、物流作業の効率化のために寄与しようと改めて思い立った次第である。

 ロジスティクス=戦略的物流を実現するために情報が如何に重要な要因であるかについて理解が深まるまでには様々な業界紙誌を通じて喧伝された。併せて、情報システム機器は日進月歩の進化を遂げていた。そのようなことから、物流の情報化が不可欠であるとの常識が徹ようになるまでに5年もかからなかったと記憶している。

 情報システム室が跋扈していた時代の主役であった大型汎用機が、オフコンからワークステーションへと進化し、更にワークステーションからパーソナルコンピュータ(PC)へと移行することで、利便性の向上と併せて設備投資額が低下することで、PCが次第に主役の座を占める時代になったのである。

 1990年に私が物流情報システム機器としてPCを薦めていた当時、ほとんどの情報システム担当はPCでの提案はあまり評価していなかった。大手マテハンメーカーはワークステーションか専用コンピュータで物流機器を制御するのが常識であった。私の勧めるPCでは貧弱な玩具のように見られていて、非常識とも言われたものだ。

 私自身もお客様からの要望ではじめの2年ほどは、オフコンに制御用ルーチンを特別に作成したソフトウェアを販売したし、ワークステーションに制御プログラムを組み込んだシステムを販売したことを覚えている。情報処理と制御を司るにはPCではユーザーが安心して利用できないという。一方で、漸くPCがビジネスに使われ始めた黎明期であった。

 2003年以降はPCの能力が向上し、ビジネスユースのPCも販売されるようになり、物流と情報との間のギャップはなくなり、物流の情報化は広く認知され、物流情報システムが一気に進化を始めることになった。

計算機械から情報機械への進化

 私は、学生時代に当時の大型汎用コンピュータを使って科学技術計算をして遊ばせていただいた。当時はまだ研究室では多機能電卓も購入できず、タイガー計算機という機械式計算機を使っていたが、文部省の助成金と大手コンピュータメーカーの支援もいただいて、大学としては贅沢な大型汎用コンピュータを導入した。私にとって、それは何日もかかる計算を数時間でこなしてくれる計算機械であった。

 社会人になって暫くしてから、米国に留学した友人からの手紙でPCが我々にも手に届く価格で販売されていることを知り、日本でも発売された初期のPCを何とかして手に入れて、帰宅すると毎日深夜遅くまで遊んでいたものだ。

 当時のPCだから、気の利いたソフトウェアもなく、自分でプログラムを作って通信と制御のアプリケーションを試行していた。電話回線で当時の電電公社の大型汎用コンピュータに接続して、リモートコンピューティングを試したり、他人のPCと接続して情報交換と情報共有ができることに大きな関心を寄せていた。インターネットが使える前からいわゆるパソコン通信を利用する技術に傾注した。その時代に、私はコンピュータの本性は計算機械としてだけではなく、情報伝達の手段として大きな役割を持つようになったことを認識した。PCが個人の情報伝達の道具として活用できる時代が来たことを私は眼から鱗の感慨で受け入れた。このことが、マイクロメディア研究所を設立して情報民主主義を標榜する動機であった。

物流・情報・通信の融合

 話しを物流に戻そう。物流は実物経済の基盤であり、私たちの生活を支える動脈と静脈として不可欠の機能である。物流を無駄なく無理なく効率よく動かすためには、戦略的であろうとなかろうと、情報が欠かせないものであることは言うまでもない。水道や電気のように私たちの生活を支える物資=商品が必要に応じて私たちは手にすることができるようになっている。そして、消費した結果としての廃棄物も回収という物流の機能で合理的に廃棄処理されるべきである。

 これらの機能を実現する物流こそが実物経済の基盤であり、キャッシュフローの源泉であることを私たちは改めて認識すべきである。物流を無理なく無駄なく効率よく動かすことの重要性を鑑みて、物流情報システムから更に物流情報通信システムへと進化していることを考察してみたい。

 私はいま、研究所の外の喫茶店で煙草を燻らせながらノートPCでこの原稿を書いている。原稿が完成したらデータをWebにメール添付で送ることになる。昔だったら編集者が原稿を取りに来たり脱稿が遅れた言い訳と一緒に出版社へ届けるなどの煩わしさから解放されたことはありがたいのだが、少し寂しくもあるのは何故だろうか。

 PC1台で原稿を書いたり送信したり、計算機械であるコンピュータが情報と通信の機能の融合によって人類の新しい道具として使われ始めて久しい。

 物流センターでも情報処理機能と同時に通信機能が統合されて利用されていることは周知のとおりである。PCはもとより今ではスマートフォンやタブレットなどの移動できるモバイルPCも広く普及している。情報と通信の高速化が物流作業の更なる効率化を進めている。そして何時でも何処でも誰でもが利用できる道具としてますます活用の場を拡大していくことになる。

情報通信革命が招来するもの

 情報処理スピードの高速化はプロセッサーというデバイスの進化と併せてメモリーというデバイスの進化によるところが大きい。プロセッサーでは、一度に処理できる情報量と同時に処理速度が2のべき乗で増大してきたわけだ。2ビット、4ビット、8ビット、16ビット、32ビット、64ビット、・・・、KHz、MHz、GHz、・・・と進化してきた。メモリーでは、磁気テープ、磁気ディスク、光磁気ディスク、と大容量化と高速化を進め、いまやメカニカルな可動部のないシリコンメモリーへと進化することで、大規模なデータベースの構築が可能となり、併せて高速検索が可能となっているのである。

 何時でも誰でも利用できるインターネットの発展と、LINE、Facebook、Instagram などのSNSの実用化によって情報民主主義がグローバルに拡大進化を続けていることは喜ばしい限りである。このような状況下で、今後は物流の標準を進めることで、グローカルでもよいので、ロジスティクスプラットフォームが構築されることを期待している。

 

この記事の作者
コラム記事のライター
西原 純

マイクロメディア研究所・ロジスティクスIT研究所・主任研究員

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