物流塾

RCEPは日本に何をもたらすのか

本題に入る前に、そもそもRCEPとは何かということについて少し話しましょう。
毎日のように新聞に書かれているにもかかわらず、RCEPを知らない人は意外に多いのですが、誰しも興味がないものにはあまり目が向かないものですから、知らない人が多くても何ら不思議なことではないのかもしれません。

この言葉、2021年の年末から2022年の初頭にかけて、毎日のように新聞に何度も登場するでしょう。聞いたことがない、と言うようなことが無いよう、今から知っておきましょう。

日本がEPA/FTAを締結している国と地域

日本のEPA・FTA等の現状 (2021年1月現在)

発効済・署名済▶21 :シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP12(署名済)、TPP11、日EU・EPA、米国、英国、RCEP(署名済)

交渉中▶3 : トルコ、コロンビア、日中韓

出典:外務省

RCEPとは

ASEAN加盟国10カ国に、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、日本を加えた15カ国での超大型の包括的経済連携協定のことです。この協定には、世界人口の約30%が関わっていることになり、15カ国合計のGDPは世界全体の約30%にも及びます。ちなみに、当初はインドも含めた16カ国で話し合いを行っていましたが、最終的にインドは署名しませんでした。

(ASEAN加盟国:インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)

出典:外務省

RCEPは何をもたらすのか、もたらさないのか

某メディアでは、『RCEP参加国全体での関税の撤廃率は品目数で見ると91%となりました。99%以上のTPPと比べるとやや低い水準となっています』と報じられていますが、そもそもTPPと比較するべきものではありません。それに、RCEP全体で比較するのもナンセンスというものです。

なぜかというと、日本はRCEP加盟国のほとんどの国と、すでにEPA(FTA)を締結しています。加えて、日ASEAN・EPAでは、ASEAN加盟国全てと締結していることになるため、ほとんどのASEAN加盟国と二重に協定を結んでいるのです。また、オーストラリアやニュージーランドはTPP加盟国であるため、日本とすでにEPAを締結しています。

では、日本はRCEPに加盟する意味がないのではないかというと、そんなことはありません。RCEPには『中国』と『韓国』が加盟しているからです。日本は今まで、これら両国とEPAを締結していませんでした。2012年11月に日中韓FTAの交渉が開始されましたが、政治的な問題からなかなか進まず今に至っています。日中韓FTA締結に向けて交渉は継続するということですが、RCEPがあればほとんど必要ないことでしょう。

RCEPで重要なのは

『日本―中国』、『日本―韓国』間の無税品目が次のように著しく増加することだと言えます。

◆ 中国への輸入:無税品の割合が 8%から86%へ (主な物品 :電気自動車用のモーターの一部、リチウムイオン蓄電池の電極・素材の一部、プラスチック押出造粒機、熱延鋼板の一部)

◆ 韓国への輸入:無税品の割合が 19%→92% (主な物品 :自動車の電動化に必要な電子系部品、ゴム製タイヤ、エアバッグ、電炉用炭素電極、ブタンガス)

関税率が低くなることはコスト削減につながるため、とてもうれしいことです。しかし、RCEPにより輸入国の内需が拡大に寄与することになり、賃金上昇につながります。すると、結果的に、関税以外の部分ではコストが上がることになるという側面もありえます。

ネガティブなことだけに目を向けていても成長はありません。

RCEPで得られるメリットを少しでも早く享受することが重要だと言えます。

【参考】 RCEPでお酒が安くなる

出典: 財務省

上記は下記のHPでも読むことが出来ます。

物流・貿易研究所 メールマガジン (logi-trading.com)

 

 

 

この記事の作者
コラム記事のライター
木村 徹

物流と貿易のコンサルタント | 物流・貿易研究所 http://logi-trading.com/
・物流と貿易、関税関係のスペシャリストであり、・国内物流と国際物流の知っている数少ない物流コンサルタントの一人。
・物流企業、輸入卸等での幅広い知識と経験を基に、コンサルタント以外にも、セミナー講師等幅広く活動中。また、多くの著書がある。
・著書 『物流実務の基本と仕組みがよ~くわかる本』、『ロジスティクス・オペレーション3級過去問題+解説集』、「物流がよーく分かる本』、『2時間で丸わかり物流の基本を学ぶ』、『速習!重要事項35でマスターする貿易実務』、『いますぐ現場で役立つ物流実務のノウハウ』、他連載多数。

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