物流塾

平成を乗り切り、主人公はどう振る舞うか

1.平成時代を振り返る

バブル経済の崩壊を期に平成時代は答えのない問いを続けるだけで、景気低迷から脱出する機会を見逃してきたと言えよう。設備、供給、人員の3過剰を言い尽くされてデフレからの脱却も終えずに新時代を迎えた。

図1にまとめた10のトピックスは平成の30年間が、物流にとっては大改革の連続だったことを示している。規制緩和による大競争時代の幕開けから、ECブーム、巨大物流施設の爆発的な連続開発、そして未曾有の大災害によって露見した、主力産業のSCM断絶問題。     

急激な輸送需要の拡大と供給アンバランス、情報セキュリティシステムのダウン、業界が抱える構造的な労働集約の果に、運べない物流の現実を目の当たりにすることになった。もはや昨日までの物流サービスは継続できない事態にまで至っている。

図1

図1物流トピックス

昭和の高度経済成長から平成バブル崩壊まで、物流は産業界、実体経済の黒子役であり、製品付加価値を産まないとして、営業経費や製造付属経費としてしか認められてこなかった。

産業構造としても規制緩和によって、適者生存の強制力が働くことが想定されたが、運輸企業はますます小規模化して現在も営業トラック120万両強に対して64000社が零細企業群を占める構造から脱出できていない。

唯一国際商品価格と連動している海運運賃、バルチック海運指数も1985年基準値1000が、造船供給や昨今のホルムズ海峡喧騒などによる影響があるものの、現在でも30年相場を大きく越えることはなかった。

図2 バルチック海運指数(1985年を1000、現在は2000近傍)

このように物流は常にコスト問題と背中合わせではあるが、最近になってようやくトラックの積載率や待機時間、倉庫の稼働時間と設備投資の関係性から、共同化や24時間運用などの積年の展望構想がようやく緒につき始めていると言える。数えて運ぶ、しかも必要なものだけを、という前提がどれほど強く意識されてきているかを問えば、過剰在庫や廃棄・返品問題は解消するはずだか、こちらもまだ緒に付いたところだろう。

製造販売活動におけるセルイン、セルスルーとの違いに認識不足があるからだ。

セルインとは商品財貨の取引相手への移動に過ぎなく、確定したかのように見える債権の取り消しや返品、過剰在庫による処分損などが生じてしまう。

本当に必要な物流とは、店頭で購入されるように完全消費されるセルスルー情報を元にした保管と輸送でなければならないはずだが、接続する事業者同士のSCMが機能不全のためにまだ無駄な物流が生じている。

2.物流に期待できるものは何か

物流活動は付加価値を産まない、という評価軸は平成時代に大きく変化した。それは、ECの登場と巨大物流施設(物流施設は自社開発から、他社開発の賃貸契約となることが多く、物流不動産と呼ぶ)、高度に進化したITの影響があるだろう。

流通業では店舗は巨額な経営投資を必要としてきたが、アマゾンに代表されるEC物流は、店舗設備投資を上回る販売力を物流施設が代行することになった。

アパレル通販に必要不可欠な「ささげ(スタジオでの商品撮影、採寸測定、サイトへの原稿登録)」サービスも物流事業者と最新の物流倉庫があっての成功例と言えよう。

倉庫が店舗をしのぎ、インターネットを武器にして立地と品揃えをすべての事業者が手にすることができるようになった。その影響をもろに受けているのが、かつての流通王者百貨店や地域の専門店であろう。「Death by Amazon」などという用語も広まってきている。

製造業でも生産工場と物流倉庫の境界線が曖昧になってきている。
部材のキッティングや検査工程、海外仕向地への包装梱包工程はすでに物流業界のビジネスに進化している。

その他、巨大物流施設(物流不動産)が開発されるたびに新たな機能とサービスが研究され、図3にあるような多機能展開を続けてきている。

図3 物流不動産の解決力

3.これからの経営課題は持続性

物流業界が常に背負ってきたコストダウンの使命は、ドライバー不足、物流危機と言われるこれからの時代にどのような打ち手を描いているだろうか。

経営改善の目的は、かつては成長・拡大・コストダウンと量のみで語られることが多かったが、平成時代の成長鈍化によりこちらも多様化してきている。事実、かつては世界の株式時価総額ランキングでも日本企業が多くを占めていた。NTTを筆頭に我が国メガバンクがトップ10を占めていたが、30年を経た現在、世界の時価総額ランキングはアメリカGAFAに代表される企業群に代わられた。奇しくも本家アマゾンは今年で25周年を迎え、年頭では時価総額世界一となっている。

企業収益力という本質が、量から質へ、相場に左右される金融からITサービスへと評価軸そのものが変化しているのだ。かつての重厚長大企業から、軽薄短小サービスへの転換が現実となった感がある。生産性競争、付加価値創造企業という量から質への転換が進んでいるのだ。

これからの経営にとって、目指すべき改善テーマはどこにあるのだろうか。それは図4に示される新しいキーワードに尽きると言える。

図4 対処すべき経営課題

特に人手不足とグローバル競争化における、広い意味での経営資源の希少化や枯渇を考慮すると、事業の存続そのものが最重要課題と言えるだろう。誰のための企業か、どのような市場を満足させるのか、という広い視点での事業サスティナビリティに再び注目する必要がある。
まさに国連が提唱しているSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))に沿った経営活動が求められているのである。新たな時代の経営目的は図5に要約できるだろう。

図5 新しい時代の経営目的

図5 新しい時代の経営目的

企業の平均寿命は30年と言われた時期があった。果たして最近では更に短命になり15年とも20年とも言われている。それは、企業の変化対応力によるものだろう。目指すべきは100年越え企業であり、我が国にはまだ多くの3万社以上があると言われている。(帝国データバンク調査報告書www.g-search.or.jp/

事業の継続を最優先に捉え、顧客満足と競争力向上、グローバル化を従えて、従来型の量の経営、売上と利益だけの管理指標だけではない、新たな持続性指標を定める必要があるのだ。
トヨタが自動車メーカーから、モビリティカンパニーへと宣言したように、製造も流通も既存事業の延長線上に正解があるとは限らないことに気づかねばならない。市場と顧客、時代と社会に合わせた自己転換が求められているのだ。

4.ビッグ・ピクチャーを眺める

人類の歴史は猛獣を恐れ、洞窟の暗闇に暮らした千年から、燃える火を手にして情報や文字、協調と連携、紛争と競争の千年を過ごし、これからソサエティ5.0と呼ぶAIとロボティクスがもたらす幸福の千年が始まろうとしている。

企業家は人類の富と健康、幸福の追求にどのような役割を目指すべきなのかが問われている時代なのだ。製造流通業であるならば、自社製品をどのような顧客に浸透させるべきか。販売という方法論を駆使するなら、どのようなチャネルを深めるべきか。

また、高い顧客満足を得ているのであれば、次の商材商品の開発にどのようなグローバルSCMが有効なのかを企画しなければならないだろう。

ビジネスにおけるビッグ・ピクチャーとは、大海原に進むべき海路を描くことに通じる。既存事業、既存顧客、新基軸、新顧客という海と進路をイメージすることだ。

製造も流通も最新の物流技術を用いれば、世界で作り、世界に送り込むことが可能になった。時空を超えたビジネスがインターネットとEC物流によって実現しているのだ。

製造業は原材料の足かせから離れるべきだ。

木工、化成品、金属調理品、ユニーク家電、最大シェアを誇るLED照明まで幅広く手がけてきたアイリスオーヤマは、工場なきメーカーとしてホームセンターチャネルの覇者となっている。市場が求めるニーズに合わせ、マーケット・インを体現した成功例だろう。

流通業は商品開発と同時に付随事業も拡充すべきだ。

アマゾンは4原則に執着することでベンダー、ユーザーからも支持を集めた。

  1. 徹底した顧客志向
  2. 常に発明
  3. 洗練の業務プロセス(有料化)
  4. 長期的視野の投資と競争(資本政策)

自社サーバーをAWSとして販売、FBA(フルフィルメント by Amazon)物流も有料化、巨額資本により商品担保の金融事業まで乗り出している。

令和という新しい時代を、単にビューティフル・ハーモニーというお題目だけに終わらせてしまってはいけない。ものづくりと流通に長けた我が国のすべての産業は、世界有数の巨大家計消費を背景にこれからも成長を止めるわけにはいかない。新たな価値を作り出し、一人ひとりの生産性を高め、企業の存続を図らねばならない。人口減少と高齢化の反面、ますます短命化している産業、企業の存続と持続性を支えるのは、30年の苦難を乗り越えて生まれ変わりつつある物流サービスにあるだろう。

積年の願いであった共同配送・共同物流の成功事例が示されている。24時間運用倉庫も労働力開放のロボティクスによって可能になった。製販統合のグローバルSCMを支える情報システムの実現も間近になっている。

どこでも作れるし、どこへでも売りに出て行けるのだ。出演すべき舞台や演目は自らが決めることができるもの。市場や社会の要望やニーズをどのように先読みできるか、解釈できるかが主人公の力量なのだ。

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コラム記事のライター
花房 陵 ロジスティクストレンド株式会社 代表

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