9/12物流塾で詳解 コロナ禍における雇用調整助成金の申請
新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言が解除され、一時は落ち着いた感染者数だが、再び増加しつつあり感染拡大が危惧されている。新型コロナウィルス感染症が収束する条件としていわれていることは、日本人全体の7割の人が感染等を通じ抗体を所持するか、ワクチンによる抗体ができていることである。現在どれだけの人が抗体を有しているかは不明だが、最低でも1年弱はウィズコロナを意識した経営を行うことが余儀なくされるだろう。
現在新型コロナウィルスの影響により、事業活動の縮小が行われ、会社の売上減を引き起こしているケースが多々見受けられる。これら経営難により、従業員の一部帰休等を余技なくされ、休業手当により雇用維持を図っている会社が多い。そのような会社は、雇用調整助成金を是非活用していただきたい。
助成金といえば、「受給する手続きが大変なのでは?」と危惧される方も多い。しかし今は緊急事態ということもあり、手続きは簡素化されている。(令和2年7月27日時点の情報)
●雇用調整助成金の受給要件
雇用調整助成金は、休業期間中に従業員に対して賃金または休業手当を支給した事業主に対する支援のための助成金である。従って第一の要件として、休業手当については、労基法で定める要件(平均賃金の60%)以上支払っていることである。助成金額はこの休業手当に対し、中小企業は10割、大企業は3分の4が支給される。ただし解雇がある場合、支給乗率が減額される(中小企業は休業手当の5分の4、大企業は3分の2)。なお、支給金額には上限(1万5千円)がある。
第二の要件は、生産指数(売上等)が前年同月比で5%以上低下していることである。よくご質問を受けるのは「休業を開始した月は、売上が下がっていないので、受給できない」等である。結論から申し上げると、生産指標は売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近1ヵ月間の値で判断される。具体的には、「①休業した月」、「②休業した月の前月」、「③休業した月の前々月」のうち、いずれかの売上高が前年同月比5%減となっていれば、要件に該当することになる。また生産指標とは具体的には売上額となるが、その他生産量など、雇用の変動と密接に結びつく指標が含まれ、業種により個別に判断される。
第三の要件として、従業員を休業させるにあたり、労使で休業協定を締結することである。休業協定とは、休業期間や対象となる従業員、休業中の休業手当の額(支給率)などについて、あらかじめ労使で協定することだ。協定にあたっては、36協定などと同様、使用者と労働者代表との間で、書面により締結することになる。
第四の要件として、助成金は雇用保険被保険者が対象となる。法人は一定の事業を除き、従業員数にかかわりなく、雇用保険への加入が義務付けられている。よって法的に加入が義務化されているにもかかわらず、未加入状態の場合は助成金を受けることはできないので注意が必要だ。
なお、法人であるが従業員がアルバイトのみで、雇用保険被保険者が一人もいない場合、緊急雇用安定助成金という助成金を受けることができる。中身については、雇用調整助成金とほぼ同様である。
第五の要件として、会社の休業日数が一定以上あるかを求める要件(休業規模要件)である。雇用調整助成金は、判定基礎期間(後に解説)ごとに支給申請を行うが、この期間内の休業等日数が、一定日数以上ある場合にのみ、受給が可能となる。具体的には、判定基礎期間内の休業等日数が、休業対象となる従業員全員の所定労働日数を合計した日数の40分の1(大企業は30分の1)以上であることが求められる。例えば従業員が10人、月所定労働日数20日の場合、分母となる所定労働延べ日数は、10人×20日=200日となる。200日×0.025(40分の1)=5日なので、従業員全員の休業日数(判断基礎期間における)合計が、5日以上あれば受給要件に該当する。
●緊急対応期間について
新型コロナウィルス感染症に関する雇用調整助成金には、特例が設けられている。特例措置の主なものは、①支給乗率の引き上げ②上限額の引き上げ③支給限度日数の特例であるが、特に大きいのは③である。本来、雇用調整助成金には支給限度日数が設けられている(1年間に100日)。しかしながら、緊急対応期間中(令和2年4月1日~令和2年9月30日)の休業について、支給限度日数とは別に支給を受けることができる(上限の100日にカウントされない)。
また、助成金の支給申請書等の提出期限について、本来は支給対象期間の最終日の翌日から起算して2か月以内となっているが、判定基礎期間の初日が1月24日~6月30日までの申請期限は、特例により令和2年9月30日まで延長された。従って、期間経過であきらめることなく、制度活用されることをお勧めしたい。
●支給申請手続き
本来の雇用調整助成金支給申請は、①休業計画書の提出②休業実施③支給申請という段取りを踏まなくてはいけないのだが、先に述べた緊急対応期間について、①の手続きは不要となった(ただし、計画届を提出する際に提出する他の書類は、支給申請時に提出必要)。つまり、適正に休業協定が締結され、要件に該当する休業が実施されたのであれば、事前手続きを経なくとも請求可能ということになる。
ちなみに「要件に該当する」休業とは、その人が一切の業務を伴わない休業であったかということ等である。例えば、従業員に休業を指示したものの、自宅にてテレワークが行われていた等は対象外である。余談ではあるが、助成金の支給を受けた場合、後に当該会社に対し行政の立ち入り検査等が実施されることがある。その際、不適切な休業による支給申請が行われたことが発覚した場合、助成金の返還はもちろんのこと、企業名の公表等、厳しい措置が行われることとなるので、十分に注意されたい。
支給申請は基本的に判定基礎期間ごとに行う。判定基礎期間とは、賃金計算期間(毎月の賃金の締め切り日の翌日から、その次の締め切り日までの期間)と同様である。会社によっては、従業員の部署や職種により、複数の賃金計算期間が混在する場合もあるが、その場合は最も多い従業員の賃金計算期間を判定基礎期間として申請する。
なお支給申請の書類だが、従業員が概ね20名以下の会社は、簡易的な書式が用意されているので、ご活用いただきたい。(休業協定が別途添付不要など、手続きの簡素化が行われている)。
雇用適用事業所の事業活動の状況に関する申出書の添付書類として、生産指標を示す書類が必要となる。具体的には月ごとの売上が明らかとなる売上簿や収入簿、その他システムより算出される帳票等である。
会社によっては、複数の雇用保険適用事業所番号を取得しているケースがあるが、原則として雇用調整助成金はこれら番号ごとの請求単位となる。従って、複数の事業所番号の場合、生産指標もこれら事業所ごとに判断されることになる。よって雇用保険適用事業所番号の取得状況がどのようであるか確認する必要がある。
ウィズコロナが叫ばれる中、われわれ物流事業者はじめ経営者、従業員の皆様はテレワーク等新たな働き方や対応が求められている。助成金も活用しつつ困難を乗り越えてゆきたい。
詳解は9月12日開催のZOOM物流塾番外編で行う。
※厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)」1頁より引用
※厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)」2頁より引用
この記事の作者
野崎律博
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