物流塾

物流進化のための錬金術はココにあった!サプライチェーンマネージャーを育てよう!

日本の物流が進化できないワケ

 最初からこのようなショッキングなタイトルを掲げるとお叱りを受けるかもしれない。しかし敢えて申し上げたい。日本ではなかなか物流が進化できていない。「言われたとおりに運ぶだけ」「指示されたとおりに保管するだけ」といった当たり前のことをやっているだけでは物流は進化しない。物流事業者の場合は他社との価格競争に巻き込まれ疲弊する道を歩むことになる。メーカーに代表される物流事業を本業としない会社の場合、物流を進化させた会社との競争に敗北し厳しい状況に陥ることになる。物流は重要だと言葉で言うことはできても実際にそれに磨きをかけて企業競争力を向上させている会社は多くない。

 ではなぜ我が国で物流が進化できないのだろうか。一つには「物流に対する無関心」が挙げられる。物流は本業ではないのでそこに力を入れることなく今に至るという会社も多いかもしれない。このような古い考え方はサプライチェーン全体を効率化していかなければならない今の時代には即していない。しかしまだまだ物流に関心を寄せる人は少ないと思われる。もう一つは「社内に物流資源がない」ことが挙げられる。その資源とはずばり「物流人財」である。物流の大切さはわかってはいても物流に振り向けられる人財がいない、あるいはどう育成したらよいのかがわからないという会社が多いことも事実。この二つを改善していくことが物流進化への条件となる。今回はこの内後者の「物流人財」の育成についてお話をしていこうと思う。

物流に対する認識

 物流に対する認識の違いも物流進化の妨げとなっているように感じる。物流とは何かと問われると「トラックによる輸送」や「倉庫での在庫保管」を真っ先にイメージするかもしれない。たしかにこれらは物流における重要な機能であることは間違いない。前者を「輸送機能」、後者を「保管機能」と呼ぶ。物流にはこの他に「荷役機能」、「包装機能」、「流通加工機能」がありすべて合わせて物流5機能ということになる。さらに昨今欠かせない機能として「情報機能」が加わり5+1機能と呼ばれることがある。これらの機能はどちらかというとオペレーショナル機能であり、決められた通りにオペレーションしていくことが中心になる。物流現場ではこれら機能を複数こなせる多能工(マルチオペレーター)を育成し業務量に応じて行う仕事を変えていくことが望ましい。ある時は輸送業務を行いある時は入出庫業務を行うといった物流現場での多能工を育てることは重要なことである。

 さて以上の5+1機能はサプライチェーン上の一部でありこれだけをとらえて「物流」であると認識することは正しくない。これらはあくまでもオペレーショナル機能でありそれを正しく動かすための「ソフト機能」が不足しているのである。5+1機能を「点の物流」と呼ぶとするとソフト機能を加えた物流を「線の物流」と称することができるだろう。ではその線を構成するものは何か。その代表的なものが「物流デザイン機能」である。それには以下のような要素が含まれる。まず拠点配置である。工場や倉庫をどこに立地すればよいのかを検討する業務である。拠点配置が決まればその間のつなぎをどうするかを検討する。たとえば鉄道や船舶、自動車などの輸送モードの決定である。輸送する際に顧客への輸送頻度を決定するとともにその際の効率性として積載率や荷姿効率などを検討していく。特に顧客へのサービス水準を高めることが重要になって来るがこれを物流サービス設計と呼ぶ。同時に物流コスト設計も欠かせない。適正なコスト設計を行うことで収益性を向上させていくことが求められるからである。

サプライチェーンという「面」の物流

 以上のように「線の物流」としての物流設計ができれば「点の物流」としての物流オペレーションが可能となる。もし物流設計が十分でない場合、いくらオペレーションを一生懸命やったところで効率的な物流は実現できない可能性がある。なぜなら物流は最初の設計でその効率がほとんど確定してしまうからだ。工場から300km離れた場所に物流センターを設けたとしたらその間の輸送は永遠に発生し続けてしまう。工場の中で工程と工程を離して設計すればその間の運搬はずっと続けなければならない。

 実は日本の物流の弱さはここにあるのだ。物流設計が十分なされていないために「生まれの悪い物流」が発生してしまっている。いくら点の物流を改善してもその効果はたかが知れているのだ。もし皆さんが物流事業者の立場であったとしたら顧客から「効率の良い物流設計」を依頼されたらそれに応えることはできるだろうか。物流事業者以外の業界だとしたら自社の物流は効率的だと胸を張って言えるだろうか。実際にはこのレベルさえも達成できていないケースが多いと推測される。

 しかし今やこの物流設計だけでも十分ではない状況になりつつあるのだ。つまり「線の物流」からサプライチェーンといった「面の物流」が求められるようになってきたのである。サプライチェーンとはサプライヤーから資材や部品を調達し、それを使って生産を行い、適正な在庫管理を行いながら、効率的な物流でお客様のもとへとタイムリーに製品をお届けする一連の流れである。この流れの中には単純な物流にとどまらず、調達管理や生産管理、在庫コントロールなどの機能が含まれる。これらのすべての機能を適切にコントロールしていくことがサプライチェーンマネジメント(SCM)であり、それができる人をサプライチェーンマネージャーと呼ぶ。私たちはこのサプライチェーンマネージャーを育成しなければならない時期に来たと考えるべきだろう。

サプライチェーンマネージャーの必要スキル

 では私たちはサプライチェーンマネージャーを育てるにあたってどのようなスキルを身につけさせなければならないだろうか。それについて一緒に見ていこう。

 ①購買スキル これはサプライチェーンの入り口であるものの調達を効率的に実施していくためのスキルである。調達ロットサイズと調達タイミングを決めるスキルは自社内在庫に影響を与える。コストを上げずに調達ロットを小さくしてジャストインタイムで調達するためには、自らがサプライヤーに「引き取りに行く物流」も運用できるノウハウが必要だ。物流面では効率的な調達荷姿を決められる力量も欲しいところである。もう一つ忘れてならないことが「サプライヤー指導力」である。小ロット調達や生産に対応するためにサプライヤーから相談を受けたらそれに応えられる力量が必要となるということである。

②生産管理スキル サプライチェーン効率化のためにはチェーンにおけるすべての工程が同期化することが望ましい。では社内で行うものづくりで工程を同期化するためにどのような生産指示を与えたらよいか、この生産計画の策定と生産指示の出し方を身につけていきたい。ものづくりもジャストインタイムを志向するだろうからどのようにロットサイズを縮めるのか、そのための方策には何が考えられるのか、その気づきについても重要なポイントである。物流としては生産工程へのものの届け方を工夫することでものづくり効率化に貢献することが必要だ。

③IEスキル サプライチェーンを効率化するために各工程で発生するムダの改善は避けて通れない道。IEスキルを身につけることによってムダを発見しそれを定量化し根こそぎ取り去る活動が求められる。

④物流改善スキル 物流特有のKPIを設定し、それで物流の出来栄えを評価するとともにKPI値を向上させていける力量が必要である。

⑤物流技術スキル 物流は設計段階で生産性はほとんど決まってしまう。それだけに効率的な物流を最初に設計できるスキルは最優先で身につけさせたい。一つにはレイアウト設計スキルがある。工場や物流センターなどで極力運搬や荷役作業が発生しないレイアウトを設計することである。二つ目は荷姿設計スキルである。荷姿は物流全体に影響を与える極めて重要な機能である。効率の良い荷姿は保管スペースを縮小できる。輸送コストも抑えることができる。容器の数も少なくて済む。したがって効率的な荷姿を設計できるスタッフを育成すればサプライチェーンにおける物流全体の効率化につながることを知っておきたい。

⑥協力会社管理スキル サプライチェーンの登場人物には自社以外にサプライヤーなどの協力会社が存在する。この協力会社次第でサプライチェーンのレベルも決まってくる可能性がある。サプライヤーのレベル向上のために指導できる力量が求められる。そして共同改善活動をリードできるリーダーシップ力も欲しいところである。

⑦現場管理スキル サプライチェーンにはものづくりの現場や物流の現場などが存在する。それぞれの現場力を向上することによってリードタイム短縮や在庫削減などのレベル向上が図られる。まずは基本中の基本である作業を標準化できるスキルを習得させよう。さらに現場人財の育成やSQDC管理、4M変更管理などの現場管理の基礎力を身につけさせたい。

 いかがだろうか。サプライチェーンマネージャーは物流にとどまらずその周辺知識として幅広いスキルが必要であることをご理解いただけたのではないだろうか。これらについて意識することから始めていただきたい。自分たちは物流屋なので購買やものづくりは関係ないと考えたとたんに進化は止まる。物流という機能について見直しが必要な時代になったのでありそれに見合った人財を育成できた会社が勝ち残るといえるだろう。

この記事の作者
コラム記事のライター
仙石 惠一

<Kein物流改善研究所 仙石惠一>
・物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。
・自動車メーカーでサプライチェーン構築や新工場物流設計、物流人財育成プログラム構築などを経験。
・著書 「みるみる効果が上がる! 製造業の輸送改善~物流コストを30%削減~」
・日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術など連載多数。
http://www.keinlogi.jp/ 無料メルマガ 「会社収益がみるみる向上する!1分でわかる物流コスト改善のツボ」 https://www.mag2.com/m/0001069860

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