物流塾

複雑社会をシステムで〜プロローグ〜

 人類社会は多くの経験を積んできました。はじめの1000年は、暗黒の中で猛獣から逃れながら、小さな獣を狩猟し食料を得て生き延びました。武器を磨きながら次の1000年では火を手にし、明かりと熱を手に入れて、人同士も争う中で生き延びてきました。次の1000年は一体どんな社会が訪れるのかと大いなる希望と野望に満ちた時代のはずでした。

 人は奇跡の星に住んでいます。43億年の地球の歴史はまだまだ続き、宇宙はビッグバンから生まれましたが、まだまだ膨張を止めることがないと言われています。どれほど学び、想像を行き渡らせてもほとんど実感のない宇宙観ですが、私達の地球という星は明らかに住みづらくなってきていることが問題です。だからといって、地球を捨てて火星に行くにはその背徳は許されないでしょう。人類も地球に暮らす生物も皆、人類の欲望によって住みづらさを余儀なくされています。エコシステムという、地球と生命の存続が危うくなってきているのです。

システムとは何か

 システムとはドミノ倒しのように、ある目的に対して、次々と必要なプロセスが進んでゆくオートマトン、自動連鎖のようなものです。正しい目的がセットされ、その実現のための手段や要素が確立されれば、要素を整然と配置して、順序よく実行してゆきます。ところが、その過程では予想だにしなかった不都合や事故も生じてしまうものです。

ドミノ倒し

 自動車事故は運転手の判断・操作ミスという予想外のイベントによって、車は安全停止できずに事故を起こします。車には責任はありません。自動車の運行システムにも問題はないけれど、人が操作するという運転というファクターに想定外のトラブルがあったわけです。どんなシステムにもこんな想定外のイベントや問題があるものです。人類は多くの経験から、それを避けるために、安全システムというものもあり、fail-safe system(安全対策、二重化構造)というサブのシステムも導入されるようになりました。サポカーという機能も充実してきて、多くの暗い経験は蓄積されていて、それでも事故は繰り返されて入るのですが、悔しい現実があります。

正しい目的をセットする

 正しい、有効な、価値あるシステムを作るのには何が必要でしょうか。まず目的の正しさでしょう。企業活動をシステムとみなすと、「利潤追求」という正当性のために外部経済やフリーライダーのような、社会悪も容認せざるを得なくなります。また、留まることのない連なる企業不祥事も目的セットを誤っているからに違いないのです。「社会厚生の中での利潤追求」というレベルまで目的を昇華させるとき、100年続く企業が誕生し、そして健在しているのです。

 目的の次は要素、ファクターです。目的を実現させるための必要条件を列挙して、選択して、整列させてゆくことが第2ステップになるでしょう。企業活動は業界、業種に限らず、経営資源の再配置活動と言われています。経営資源である、『ヒト、モノ、カネ、情報』をどこからか獲得して、そのフォーメーションを戦術化することが経営活動だからです。ヒトはマンパワーという労働力ではありません。創造性や生産性、判断力やリーダーシップに代表される経営資源ですから、企業活動に大きな差が生まれるのはシステムとは別の理由と考えられています。Y=f(L,G,K,I)という生産関数だけでは表せない要素があると言われてきました。経済学ではそれを「技術進歩」と呼び、生産性の違いとして認識してきたのです。優れた経営者や組織人も技術進歩とみなされきました。経営資源の代表要素である情報とは別物と考えられてきたのです。では、技術はどうでしょうか。

技術はシステムではない

 情報技術と情報システムとは表裏一体であるかのような誤解があります。また、システムとは技術そのものであるとも考えられてきました。よく似たような誤解には、イノベーションがあるでしょう。あたかも画期的な技術によって、従来の常識や価値観が全く変わってしまう新しい風景をイノベーションと思い込まされてきましたが、実際には「新結合」というのが正しい定義であり、公式です。みなさんがイノベーションに期待したり、イノベーションを感じることを否定はしませんが、「新しく生まれた」のではなく「旧来のものを組み合わせた」という真実も覚えていただきたいです。すると、技術とはシステムで想定された予定値を超える成果を生むものと定義されます。Y=f(LKGI)+α この、αこそが技術というものなのです。システムは公式であり、予定調和や原理であり、上ブレした成果の理由が技術と呼ぶものの本質なのです。かんたんな例をお示しすれば、製造現場で労働者が新しい道具を使うのは、経費という資本投下ですが、その道具を手直ししたり、使い勝手を良くしてゆくことは技術です。とうぜん生産性が上がり、成果も増えることでしょう。資本についても、現金から手形決済などの旧来の方式から、デジタル決済(伝票レス)などに移行することで、時間短縮やミスロス防止となることも技術成果と言えるでしょう。

エコシステムでの技術とは

 地球と命を守り、企業活動の成果を保証するシステムは必ず存在します。環境破壊につながらない利潤追求という目的セットは、きっと可能だからです。しかし、従来の経営資源だけでは予定調和は不可能であることが、今まさに証明されている時代になってしまいました。ヒトが生きるために環境を破壊しているし、企業活動が利潤追求のために外部経済が破綻し始めているからです。税制度という企業活動を抑制する安定装置はもう機能不全を起こしているし、倫理や罰則だけでは環境破壊を防止することはできないのです。存続と持続性を新しいシステムで再設計する必要が生まれています。もしかすると、社会システムを再編しなくてはならないかもしれません。勝利したはずの資本主義すら危うさが見え隠れしているからです。貨幣経済からの決別も必要なのかもしれません。経済格差を放置すれば、時代は1000年昔に戻りかねないからです。人類が安心して暮らせる地球と命を守り、ビジネス活動の利潤追求も果たすには、一体どんな目的セットが必要なのでしょう。

目的セットを間違えない

 企業理念にありがちなキーワードに「社会貢献」というものがあります。カタチや味もない、万人受けのきれい事にしか聞こえません。「儲けるための方便」と言われかねないような、寂しい感じですね。では、目的をどのように定めればよいのでしょうか。

 車を作る→環境を守る再生エネルギーで 

というような、差別化意識を注視した目的セットは長続きしません。たとえ成功しても、すぐさま競争相手に追いかけられることになります。「何をするか」「どのように行うか」という因果関係からの目的セットは不安定です。これは、売上を上げる、コストを下げる、顧客満足だ、経営効率だ、というレベルと何ら変わらず、たとえうまく行ったとしてもそれが競争を招くだけです。もっとも、競争を前提とするならばそれでも構わないでしょう。何をするか、次に何をするか、そして追いかけっれたら何をするか?

 競争を回避しながらも正攻法を進むための目的セットは、どうすればようでしょうか。それには、目的セットの価値を高める必要があります。ユニークであり、大切であり、しかも優れた希少性と目指すためには、何をするか、ではなく、「なぜその目的を描くのか」 という理念やビジョンを大切にすることが重要なのです。

なぜ、という本質を極めれば競争はなくなる

 利潤追求という企業目的では過当競争を招くだけです。たとえ一瞬、業界をリードしても追従者はすぐに追いかけてくるでしょうし、顧客は脇目を振りながらあなたにより厳しい価格条件を迫るに違いありません。ひとつの商品やサービスだけでは、いつか終わりが見えるでしょう。次々と新商品や新規事業を展開しても、残る利益は時間とともに下がってくることが証明されています。競争とはそういう環境にあるからです。競争を回避できる目的セットを考えてみましょう。それは、次回で。

この記事の作者
コラム記事のライター
花房賢祐

ロジスティクストレンド株式会社代表

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