物流塾

顧客に喜ばれる物流事業者とは(上)

一般論でいわれる物流事業者への期待値

物流事業者の方は顧客の期待値を理解していると自信をもっていえるだろうか。もしそうだとすればその会社は売上も利益も安定した経営ができているはずだ。昨今のドライバー不足による運賃値上げで本来欲しかった価格を合意できなかったという運送会社も多いと聞く。この背景には顧客の期待に沿った仕事ができていない可能性が高い。つまり皆さんの仕事は現状では不十分なことが考えられるのだ。その期待を皆さんが理解していないから。

そこで多くの物流事業者が理解していないと思われる顧客の期待値について考えてみたい。一般論では多くの顧客が「提案」ということを口にする。物流事業者からほとんど提案が来ないといういい方で不満そうに話をする。顧客の期待することは物流コストを下げること、すなわち物流事業者の売上低下につながることなので物流事業者が提案をするはずがないというもっともらしいことをいう人もいる。もし本気でそのように考えている物流事業者であれば、売上拡大など望むべくもない。顧客志向でない事業者が成長するはずはないからだ。

物流事業者は物流のプロか?

物流事業者の方がどのように感じているかは別として、顧客である荷主は皆さんのことを「物流のプロ」だと思っている。少なくとも自分たちよりも知識もノウハウも多く持っており、物流改善のネタがぞろぞろと出てくると思っているのだ。まずこの点に気づいていないとしたら顧客とのコミュニケーション不足。気づいていたとしたら自分たちは物流のプロかどうかを判断しなければならない。運送作業のプロ、入出庫作業のプロという意味ではないので念のため。

顧客が考えている物流のプロとは「サプライチェーン全体の知識と課題解決力」を持った会社ということだ。たとえば「弊社の購入品の在庫水準は良いレベルでしょうか?もっと改善するためにはどのような方策がありますでしょうか」と問われたらその場で何かしらの「返し」ができなければダメだ。「返し」とは「購入方法を教えてください」という的を射た質問でも構わない。後日改善の処方箋を届けられれば問題ない。

「運送」はわかるけど「在庫」はわからないといった「点の物流」しか理解していない会社は勉強不足。「在庫」は顧客マターであって自分たちは関係ないと平気な顔をしていう会社は論外。なぜなら顧客である荷主会社は物流コスト改善方策として常に「在庫削減」を挙げているからだ。在庫の発生要因を含めたサプライチェーンマネジメントを真剣に勉強し顧客との会話が成立するようにしたいところ。今一度自分たちは物流のプロといえるかを考えてみよう。

コンサルティング営業はできるか

顧客の物流コスト削減は「運送」や「倉庫保管」という作業改善だけでは困難であることは皆さんもご存じのことだろう。なぜならトラック運送と生産が同期していなければ低積載率のトラックが発生しやすいから。このような顧客の状況を把握したうえで解決の処方箋を提案することこそがコンサルティング営業なのだ。ちなみに今の事例で在庫を持てばよいと考えた方は要注意。物流コスト削減よりも在庫削減の方にプライオリティを置いている会社がほとんどであるから。

ここで重要なことは物流効率を低下させる要因が何なのかを見極められることだ。トラック出発時刻に荷がそろわない要因が生産品質のばらつきであれば生産品質向上活動をセットで提案する。トラック積載率が上がらない要因が容器モジュールの不統一であるならば容器モジュール改善を提案する。このような改善を行えば御社の物流コストはこうなりますよ、といういい方ができればよいのだ。

しかし多くの物流事業者が顧客の物流コスト削減のための方策は「運賃」を下げることだけだと勘違いしている。これでは結果的に自分たちの首を絞めてしまう。繰り返しになるが妥当な提案はサプライチェーン全体を俯瞰できる能力がなければ不可能だ。自分たちが不足している点が何なのかを棚卸してみるとともに、その補強活動に取り組もう。

この記事の作者
コラム記事のライター
仙石 惠一

<Kein物流改善研究所 仙石惠一>
・ 物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。
・ 自動車メーカーでサプライチェーン構築や新工場物流設計、物流人財育成プログラム構築などを経験。
・ 著書 「みるみる効果が上がる! 製造業の輸送改善~物流コストを30%削減~」
・ 日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術など連載多数。
・ http://www.keinlogi.jp/

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