物流塾

「グリーンリカバリー=太陽光・風力」の単純発想が陥る落とし穴〜後編〜

欧州と日本とでは風土も隣国も全く違う

ただ、「欧州ができるのだから、日本も石炭火力を全廃、太陽光や風力を中心に再生可能エネルギーで電力需要は全て賄える」と、野党やマスコミの一部は声高に叫ぶが、これはあまりにも理想主義的過ぎ、危険だ。

「脱炭素→石炭火力全廃→太陽光・風力両発電シフト」という三段論法に魅力を感じるのは分からなくもない。しかし今流行りの「太陽光や風力」は、所詮「お天気任せ、風任せ」であり、今の科学技術のレベルでは「主力電源の1つ」にはなり得ても「メイン電源」として全面的に依存することはできない。
EUと日本では地勢や取り巻く国際情勢がまるで違う。EUが位置する欧州大陸は、気象が温和で北海や大西洋側には偏西風が一定の風力で常に吹き、イタリアなど一部を除き大地震もない。

これに対し日本は高温多湿で多雨、年に何本も台風が訪れ風水害も多く、世界屈指の豪雪地帯もある。加えて地震も頻発する。天変地異の多さは欧州の比ではないだろう。
事実、ここ最近日本でも太陽光発電が台頭、その発電量も相当規模に上っている。
そして、これに合わせて電力供給計画を立てた東京電力が、数年前、関東地方での予期せぬ豪雪と気温低下に見舞われ、ソーラーパネル上の雪がなかなか解けず急激に出力低下、電力供給に赤信号が灯り首都圏は大停電一歩手前、という事態に陥っている。

また、台風でメガソーラーが大ダメージを受ける事例も増えている。耕作放棄地の水田を活用した施設が水没・流出したり、これまた荒れ地状態だった急峻な山林に構築した施設が、土砂崩れで壊滅したりといった被害が各地で発生。
風力発電も同様で、強風によるファンの破損も珍しくない。
欧州ではこうした事例は明らかに少ないはずだ。

加えて、EU加盟国のほとんどが互いに陸続きで国境を接するため、系統連系(送電線を接続し互いに電力を融通)も大規模に行われている。さらに、EUは比較的豊富な化石エネルギー資源を自前で抱える。北海には世界屈指の海底油田が存在し、ドイツやポーランドには大規模な露天掘りの一大炭田・褐炭田が健在だ。

これに対し日本は島国であり、隣国との系統連系には物理的な困難さやコスト面のハードルが高くなる。それ以前に、EUとは全く違い、日本の“隣人”はいずれも国家体制が違ったり、領土問題を抱え外交上微妙だったりと複雑な関係にあり、エネルギーの根幹である電力の相互接続は、安全保障上の観点からも難しいだろう。
つまり日本は「電力の孤島」といってよく、化石燃料の自給も限りなくゼロ。エネルギー安全保障上極めて脆弱な国家であることを忘れてはならない。

木質バイオマスを再生可能エネルギーの主軸に

とは言うものの、やはり「脱炭素」は地球環境を考えれば“待ったなし”の状況だが、だからと言って性急な「石炭火力全廃」はエネルギー安全保障上極めて危険かつ非現実的。しかし時代の趨勢を考えれば、再生可能エネルギーの普及はさらに加速させなければならない。

これらを総合すると、日本の場合は、太陽光、風力と同様、「木質バイオマス」と「地熱」にもより一層軸足を置くべきでは、と考える。
とりわけ木質バイオマスは、石油・石炭・天然ガスのほぼ全量を海外に頼る日本のエネルギー安全保障のアップに加え、国土保全/災害対策、緑化=CO2削減、過疎化対策、有力輸出産品創出などに大いに貢献する。
一般に「バイオマス」は、動植物由来の原材料のこと。その中でも樹木やヤシ殻(アブラヤシ=パームなど)などを「木質バイオマス」として分類、チップやペレット状に加工し、合板や紙パルプの原材料として、あるいは火力発電や給湯・給熱用燃料として国際的にも広く取引されている。

さて、実は、日本は「緑のエネルギー大国」で、世界屈指の森林大国。国土の約68%、約25万㎡は山林で、この数値は「森の国」で有名な北欧のフィンランド(約74%)に次ぐもので、同じ北欧のスウェーデン(約67%)と比べると、僅かだが上回るという数値(FAO調べ)。植物は光合成の過程でCO2を消費し酸素を出す。つまり日本は自らが抱える広大な森林によって、地球温暖化阻止に多いに貢献しているわけで、すでに世界に冠たる「脱炭素大国」と誇ってもいいだろう。  
具体的な木材資源量(森林蓄積)は52.4億㎥。これは半世紀ほど前の1966(昭和41)年の18.9億㎥の3倍弱に相当し、さらに毎年約7000万㎥ずつ増加している。
一方国内の年間消費量は約8300万㎥。うち国産材は約3000万㎥で、自給率は約37%となる(2018年)。
また、燃料に回される分は年間約800万㎥で全体のほぼ1割、自給率は約70%。

一方、森林を資源として見た場合、経済的価値のある有用材買か否か、その樹種が重要となる。
日本の全森林面積の4割は人工林で、しかも建材に適するスギやヒノキが主軸だ。先の大戦では、大規模伐採により全国の山林は荒廃したが、終戦直後、将来の需要急増を見込み、植林を大々的に実施してきた。

エネルギーの地産地消に有効

これら樹木は植林後半世紀に伐採適齢期、つまり収穫期を迎える。要するに日本の山林は今や「食べ頃」の樹木が“鈴なり”といった状態と言ってもいい。この天然資源を有効活用しない手はないはずだ。

1つの例だが、全国各地に中小規模の木質バイオマス発電所を建設、燃料は近隣の山林からの調達を大原則、いやむしろ鉄則として輸送コストも圧縮、環境負荷も極力下げる。
ちなみに、切り出した木材はあくまでも「カスケード利用」が原則。「カスケード」とは段々式の滝のことで、まず建材や家具、次に他の土木用材、紙パルプの原料、最後の残余部分や間伐材、倒木などを燃料(薪)として、付加価値の高い順に有効活用していく方式である。

地元密着型を極めれば、地元の産業育成や、電力の地産地消(エネルギー分散化)にも有効である。
さらに、日本の国土は縦長の島国。これは、森林と電力消費地の人口密集地との距離が非常に近いことを意味する。つまり、仮に木質バイオマス発電所を森林のそばに建設したとしても、電力消費地に送電する際の減衰率(消耗率)が少なくて済む、というメリットを意味する。
この他にも、森林管理は治水や国土保全の基盤であり、さらに森林で育まれた養分が河川で海まで運ばれ豊饒な漁場を提供するなど、いいことずくめ。 

ただし、今日の林業は深刻な問題を数多く抱えている。
その最たるものは「少子高齢化・過疎化」で、中でも林業従事者の高齢化と新規従事者の大幅減が危機的な状況にある。
この結果、山林の育成・保全に十分手が回らず、荒れ放題で鬱蒼とした放置林が少なくない。
加えて人手不足は人件費の高騰にも直結し、間伐や下草刈りはもちろん、有用材だけ切り出したら植林もしないで放棄、というヤマの例も珍しくないという。さらに、土地所有区分が複雑怪奇で大規模経営を阻んでいる。

こうした弊害を一気に払拭するためにも、「日本版グリーンリカバリー」の目玉として木質バイオマス発電を掲げるべきではないだろうか。
太陽光・風力両発電所に比べ木質バイオマス発電は関連する裾野が遥かに広い。
単に「電力製造工場」としての効率だけに目を奪われるのではなく、エネルギー安全保障や産業振興、地方創生・過疎化対策、国土保全、そして緑化によるCO2吸収など総合的なメリットも考慮することが、まさに国益にかなうのではないだろうか。

新型コロナ対策に臨む菅新政権が模索する経済復興戦略の主軸として、是非とも掲げてもらいたい。

この記事の作者
コラム記事のライター
深川孝行

経済・軍事ジャーナリスト

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