物流塾

顧客に喜ばれる物流事業者とは(下)

仕事の生産性を向上できているか

 皆さんの会社では昨年1年間で何パーセント生産性を向上しただろうか。生産性は従業員1人当たりの付加価値と考えればよい。これを向上するためには売上を上げるとともに、費用を下げることが求められる。成り行きで数字が出るということではなく意識的に計画を立てて実行していくことが必要だ。

  トラック運送事業の売上高営業利益率は2%といわれている。極めて低い数字だといわざるを得ない。この要因はどこにあるのだろう。利益の構成要素は売上高と費用だ。売上高は前回もお話したが、顧客へのサービスとして「運賃」を下げることだと勘違いしている物流事業者がいる。というか運賃値下げ以外のカードを持っていないといったほうがふさわしいかもしれない。全国に62,000社余りの運送事業者が存在するため市場的には明らかにレッドオーシャンだ。単純な地点間運搬であれば顧客は間違いなく「価格」で取引先を判断する。なぜならそのような物流サービスは企業間で大きな差はないと考えるからだ。その結果として単純な仕事であればあるほど価格は下がる。

 一方で費用はどうだろう。日本の運送事業の生産性はアメリカを100とした時に40強というデータがある。つまり運送事業は非常に生産性が低い産業だということがわかる。その要因は何なのか。ここで気にしなければならないことは「顧客都合による生産性低下」だ。運送事業は運んでなんぼの仕事。これ以外の要因は原則として付加価値を生まない。しかし実際には荷積み荷降ろし、待機、その他の付帯作業など運送以外の作業やムダで多くの時間を取られている。これについては別の機会に言及してみたいと思う。

顧客の喜ぶ商品を提供できるか

 熱心な営業マンがいる会社であれば顧客が喜ぶ物流商品が何なのかはわかっているはずだ。そのサービスを今の実力では提供できないが将来的には力をつけてやっていきたいと考えているのであれば救われる。

 一方で「運送」と「保管」、「入出庫」にこだわり続ける会社がある。あたかもそれ以外の仕事が思いつかないかのようにそれらにこだわる。もちろんこれらの仕事は確実にニーズがある。取引価格を気にしなければ受注はそれほど難しくないだろう。したがって売上を増やすことはできる。しかし利益は稼げない。理由は前述したとおり顧客はこれらの業務は価格次第だと考えているからだ。

 そこで物流事業者は顧客が喜んでお金を払ってでも委託したい業務を提供しなければならない。それらの業務は今受注している業務の近くに転がっている。顧客の物流現場を真剣に見ていれば簡単に見つかるだろう。せっかくだからいくつか紹介しておこう。今後顧客との会話の中で言及してみたらいかがだろうか。

 顧客が物流管理の中でも最も煩わしいと思っているものがある。それが「容器管理」だ。サプライヤーや得意先との間で使われている通箱の数量管理と品質管理だ。物流量に応じて所要数が変わることがあるので、それを見越して適正数量を手元に保持することが求められる。種類も多数あるので、その種類ごとの管理が必要であることはいうまでもない。製品を入れる容器はその容器自体の品質保持も重要だ。この容器管理を顧客に成り代わって実行することは非常に喜ばれる。受注実行している会社も多くないため価格設定上も有利となる。

 これに類似した業務が「物流機器管理」だ。こちらはどちらかというと設備系。代表選手がフォークリフトだ。メーカーにはクレーンや自動倉庫など物流関連設備がたくさん存在する。これらの管理を一手に引き受けることもありだと思う。同じ理由で価格設定上は有利だ。

 さらにメーカーに特有業務としてMROがある。MROとは Maintenance repair and operation の略で、生産設備の補修部品管理や点検修理業務を指す。工場では設備故障に備えて多くの補修部品を構内倉庫で保管している。管理者も必要だ。はっきりいってこの業務は煩わしい。本来であればこれらを外注化し本業に特化したいと考えているのだ。しかも会社が異なっても使っている生産設備は同じということはよくあること。そこで物流事業者は工業団地の近くに倉庫を構え、このMROの業務請負を行うことを考えてみてはいかがだろうか。多分儲かる仕事だと実感することだろう。

 工場内物流も喜ばれる商品だ。多くの物流事業者が「売り上げが小さい」と二の足を踏む工場内物流だが、こんなにおいしい仕事はないと思う。それには2つの理由がある。1つ目。工場内物流は生産の一部であるため簡単な仕事ではない。この仕事を確実にできる物流事業者への信頼度は高まり、その後さまざまな仕事を受注する確率が高まる。2つ目。工場内で仕事を実施していればその会社の情報が筒抜けだ。コンプライアンスに反しない範囲でそれらの情報を活用し、受注拡大につなげることができる。

 いかがだろうか。顧客に喜ばれる商品は物流事業者にとっても利益率の高い仕事だと思われる。ほとんどがそれほど難しくないにもかかわらず物流事業者は手を出していない。ぜひ顧客と会話し、ニーズを引き出してみてはどうだろう。こういった提案をしてくれる物流事業者を顧客は待っているのだ。

 

この記事の作者
コラム記事のライター
仙石 惠一

<Kein物流改善研究所 仙石惠一>
 物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。
 自動車メーカーでサプライチェーン構築や新工場物流設計、物流人財育成プログラム構築などを経験。
 著書 「みるみる効果が上がる! 製造業の輸送改善~物流コストを30%削減~」
 日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術など連載多数。
 http://www.keinlogi.jp/
 無料メルマガ 「会社収益がみるみる向上する!1分でわかる物流コスト改善のツボ」 https://www.mag2.com/m/0001069860

お問い合せ

コラムやセミナーなど、お気軽にお問い合せください

お問い合せ