はじめての物流システム営業
●営業をはじめた頃
199?年某月某日、創業したばかりの物流システムメーカーに転職して事務所で待機していたときに電話がかかってきた。「物流システムの導入を検討しているのだが、商品のピッキング作業を効率化するシステムを提案してほしい。」とのことだった。生まれて初めての客先からの引合の電話だった。もちろん喜んで先方の都合の良い日時に伺って提案させていただくことにした。
転職前に新聞雑誌専用のデータベースなどから研究調査して準備していた物流作業支援システムに関する机上の空論を提案書にして用意した。
電話をいただいた会社は某商社の子会社として生まれたばかりのX社で該当地域のコンビニエンスストア(CVS)に加工食品・菓子・飲料を配送する予定だという。
●物流システムの提案から納入まで
いままで人前でプレゼンテーションなどした経験のない私としては、緊張を隠すことができずに硬い顔で提案書を読むだけで精一杯だったことを覚えている。ただしアドリブで付け加えた言葉「新しい器に新しい酒を注がせてほしい」は気障だけどクールに聞こえたのではないだろうか。プレゼンテーションから3週間後には内定の連絡をいただいた。
マテハン機器はA社の自動倉庫(ASRS)、B社の垂直搬送機(バーチレータ)、C社の駆動コンベア、D社の自動ケースピッキングシステムとE社のラックという、それぞれ国内トップメーカーが名を連ねていた。私の会社だけがまだ名も知れないまさに創業間もないベンチャー企業であった。
倉庫管理システム(WMS)は物流会社のシステムが使われるので、私の方としてはマテハン機器への指図と併せてデジタルピッキングシステム(DPS)との同期制御を司る情報システムを担当させていただいた。制御用コンピュータとしてはUNIXワークステーションを採用した。システム設計書を用意してプログラム作成を外注で進める形で、ゼロからの開発であった。優秀な外注ソフト会社のSEとPGによって、予定納期前に完成して試験稼働した際にWMSとのデータ通信で障害が発生した。データ通信障害の原因究明で難儀したが、ワークステーションのOS側にバグがあることを発見してワークステーションのメーカーに追求したことを覚えている。
マテハン機器の相互連結も完成してテストデータで運用確認した上で検収していただいた。そして3カ月の試験・訓練運用の後、翌年某月から本番稼働が始まった。物流センターとして稼働して暫くしてから、欠品や遅配が多発することが判明して、システム側の責任も問われ、マテハン機器の改修も進められた。
●物流システムとしての最適化
本番稼働から3カ月間はマテハン機器個々の性能向上と併せて機器相互の連結性などが改修された。その間、私も各マテハン機器との同期制御の補修のために深夜まで立会う日々が続いた。しかしながら、最適解を得られるまでには至らなかった。
最適解が得られない原因として事前に想定していた出荷量と適正在庫量とのずれがあったものと思われるが、X社としては何かしらの理由でCVS荷主から正確な数値を提示されていない状況にあったようだ。とにかくそれぞれの機能においてマテハン機器のトップメーカーを選定したのだから大丈夫だろうということで、全体最適のための物流分析ができていなかったのではないかと思われる。
私が担当した情報システムとしても全体として最適化ができているのか否かには構わずに、マテハン機器の個別性能に対応して部分最適に同期制御をプログラムしていた。自動倉庫へのコンテナ補充についても在荷センサーを後付けして補充タイミングを適時指示したものの、商品コンテナ自体の補充が追い付かないことを想定できていなかった。
本稼働してから6ヵ月後にX社としてはCVS向けの3PLから撤退することになり、莫大な設備投資を負債として処理せざるを得なくなった。納入したマテハン機器各社に対して撤去するように指示が出されたが、マテハン機器各社ともに責任はないとのことで対応しなかった。私が会社で納入したDPSなどのシステム機器は取り外しが可能なので、X社の了解をいただいて撤去回収させていただき、後で中古システムとして格安で再販売させていただいた。
●失敗しない物流システム
この案件に限らず物流システムの失敗事例は多々あると思われるが、表立って失敗事例を取り上げて解説することは難しい。物流システムの失敗はシステム提供側だけの責任として片づけることはできない。物流会社として荷主との信頼関係が築かれて荷主からの様々な要件が整理されて提供されなければ、物流システムとしての最適化はできないのである。
物流会社としても競合があるわけだから、荷主に対してより良い条件を提示して請け負うことになる。より良い条件を提示する際に、取り扱う商品の属性と配送などの物流特性を正確に把握できないことには最適解を導き出すことは不可能なのである。
与えられた商品属性と物流特性に適応して物流システムを実現するためにはそれぞれの要件を組み合わせた数値的解析が不可欠だ。この数値的析をより正確に実施するためにも物流経験知を取り入れた生成AIによるプラットフォームを構築して共有できることを夢見ている。無駄のない失敗しない物流システム構築のために。
この記事の作者
西田 光男
ロジスティクスIT研究所