物流塾

中国の物流事情~中国物流DXツアーを体験して~

アフターコロナの中国

 中国経済はアフターコロナと言うよりも、ウィズコロナと言った状況だが、コロナ禍の影響からいち早く回復し、経済成長を遂げた。その後、ゼロコロナ政策や世界的な景気後退、さらには2023年から国内におけるデフレが進行しており、経済成長の鈍化が指摘されている。その中で、中国のEC市場規模は世界シェアの5割を超えて、EC化率も48.0%を達して、今後も上昇が見込まれている。また、SNSやライブコマース、ソーシャルコマースなどオンラインとオフラインを融合したOMOなど、新たなテクノロジーを活用したマーケティングが展開され、グローバルに拡大している。

 日本でも名前を聞く機会が増えているが、中国発EC企業であるSHEIN(シーイン)とTemu(テム)は、独自の成長戦略と特徴をもち、世界のEC市場で急速に存在感を高めている。どちらも、ひとつのプラットフォームで全世界を対象とする「マルチローカルコマース」モデルとして、各国の市場に合わせたローカライズを最小限に抑え、グローバルな販売網を構築しており、また中国工場から直接消費者に商品を届けるDtoCモデルによる、中間業者を排除することでコスト削減による低価格と迅速な商品提供を実現しており、これまでの既存ビジネスをテクノロジーによる物流含め、販売戦略における変革をもたらしている。

        ◯プログレス東莞広州深セン物流DXツアーの参加者◯

中国の物流ビジネス

 EC市場の急激な成長と変革を支えてきた中国の物流業界について触れてみたいと思う。中国のEC市場拡大には、アリババやJD.com(京東)の巨大EC企業の影響が大きく、爆発的に増加するEC需要に対して、物流機能の効率化が求められてきた。なかでも、AI、ロボット、IoT、5G、ドローンなどのテクノロジーの進化が急速に進んでいる。

 アリババの菜鳥ネットワークは中国全土にAI制御のスマート倉庫を展開し、自律走行するロボットによる仕分けなどの自動化を進めている。今回見学に行ったJD.comのJD物流では、13ヵ所の巨大倉庫をコンベアーでつなぎ、ロボットやマテハンによる自動化を目の当たりにした。

 また、物流ネットワークについても、急激なEC市場拡大に耐えられるよう、国内に同様の物流センターを43か所、広域な物流拠点を構築し、人工知能やロボティクスなどの先進技術を活用して、効率的な配送システムによる中国全土への配達を実現している。

 当初JD物流のイメージでは、デバンニングから保管、ピッキング、仕分け、梱包、バンニングまでの倉庫での一連の作業をロボットなどによる完全無人化を期待していたが、現実的には、人によるオペレーションは残っており、サイズや重量含め、荷姿の異なる大量の商品を物流波動にあわせて捌くには、現時点では試行錯誤の状況だった。とは言え、確実に物流の進化にむけてテクノロジーを取り入れて挑戦している。多くのエンジニアを雇用しており、現場業務での知見を取り入れて、無人化倉庫にむけて自社で物流ロボットの開発をなども進めており、中国物流企業の底力を感じた。

物流ロボット事情

 物流だけが注目しているわけではないが、自動運転やドローンなどの最新技術においても、中国は最先端を進んでいると感じた。

 EC市場の急激な拡大は、従来の宅配サービスを進化させて、都市部を中心に、当日配送や1時間以内の配送といった超高速サービスなどもニーズとして広がっている。その反面、交通渋滞などの問題を抱えている。また、広大なエリアをカバーする配送ネットワークにおける都市部と農村部でのインフラ整備の格差の問題など、消費者に届けるまでの配送は喫緊の課題である。その課題解決のひとつが,自動運転、もしくはドローン配送である。

 実際に中国現地でWerideが開発したロボバスとロボタクシーに実際に乗車した。広州の交通量が多い市内を走るロボバスは、事前にプログラムされたルートを正確に走行し、交差点や混雑エリアでもスムーズに動作。ロボタクシーは、スマートフォンのアプリで車両を呼び出し、無人で目的地まで移動。障害物や歩行者を的確に検知して停車・回避しており、安心して乗車を体験できた。実際に中国以外でも、シンガポール、アメリカ、フランス、ドイツ、スイス、中東なども実証実験が進んでおり、日本でのスピードの違いを感じた。

 その他には、ドローン配送も深センの街中で体験することができた。近隣のショッピングモールから食事をドローンで配送するサービスで、スマートフォンで注文して、十数分でどこからともなくドローンが飛んできて、宅配BOXのようなものに収納され、そこから注文品を取り出す。そんな光景が深センでは普通に行われていた。

 日本の場合はこれらの技術の活用には、まだまだ規制や商慣習なども越えなければいけない課題はあるが、物流が抱える課題は万国共通で、「いかに効率よく届けることができるか?」2024年問題含め、労働力の問題だけでなく、地球環境への影響など、これから人類が避けては通れない課題に対して、テクノロジーの活用やビジネスのあり方を考える上でも、広い視野で考える大切さを感じた中国視察だった。

参考:1) プログレス:東莞広州深セン物流DXツアーに参加
    https://www.ourprogress.jp/world-logistics-tour

   2) 吉川真人@中国テックトレンドニュース:中国物流DXツアー
    「深セン・広州・東莞で見た革新的技術と未来のビジネスチャンス」
    https://note.com/zhenren63/n/nca5c8aac85cf?sub_rt=share_sb

 

この記事の作者
コラム記事のライター
小橋重信

株式会社リンクス 代表取締役

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