現場から始まる小さなDX

プロローグ
当社は「物流データ分析・活用における支援」を価値軸に業務改善・データ活用のコンサルティングを行っている企業である。
物流3PL企業での営業活動時に客先責任者からデータ活用を交えたプレゼンテーションをご評価頂き、物流領域でのデータ活用の有用性をより感じ会社を設立。
設立時より余りにニッチすぎる活動にて事業拡大は厳しいと思いつつも、物流3PL営業時とは異なる方々と出会い学びを得る事が楽しく、細々と活動を続け今日に至る。
最近は物流に関する記事やニュースをよく目にする、AMAZONを始めとしたEC購入の浸透や、物流○年問題への政府の呼びかけ等、物流業界を取り巻く環境が大きく変わり、ワイドショーで芸能人のスキャンダル報道後に物流に関する特集が報道されるなど、つくづく時代は変わったと痛感する。
業界内でも最近は「DX」の言葉と共に、ロボット、人口知能(AI)といった先進技術が多く取り上げられ期待感や感動を得ることも多い。
一方で企業数の99.7%を中小企業が占めると言われる物流業界において果たしてDXがすんなり浸透するだろうかといった考えも芽生える。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は要約すると、先進技術活用によるサービスやビジネスモデルの変革と説明される事が多いが、倉庫内では秒単位の作業効率を追求し、配送では積付けを工夫し箱単位の輸送効率を追求したりと、KAIZENの文化が根付く同業界で、いきなり「変革」と言われてもピンとくる方は少ないのではと感じる。
技術革新のスピード感と当事者である現場でのDX理解へのスピード感、双方に大きな隔たりがある現状に目を向けてみた。
世間でのDX化取組み状況
独立行政法人IPA(情報処理推進機能)が昨年6月に発表したDX対応実施有無のアンケート結果によると、物流業界含めた労働集約型産業では金融・保険・情報通信等の比較的デジタル化が容易な他産業と比べると劣っており(以下図1)、物流業界でも多い中小企業の取組み状況については大企業と比較すると2倍近くの取組み状況に差が生じている状況である(以下図2)。
また、「物流 DX 状況」とインターネットで検索すれば様々な調査結果を確認できるがいずれも取組み状況は低い結果となっている。
図1 産業別のDX取組み状況(2023年度):独立行政法人 IPA 情報処理推進機構「DX動向2024」記載値をグラフ化
図2 事業規模別のDX取組み状況(2023年度)引用:独立行政法人 IPA 情報処理推進機構「DX動向2024」記載値をグラフ化
加え、少し古いアンケート結果ではあるが、2020年に総務省が発表したデジタルデータ活用状況のアンケート結果によると、「物流・在庫管理においてデータ活用できている」と回答した企業は全体の約15%弱と非常に低い結果にとどまっており(図3)、DX化の前段階であるデータ活用の時点で苦労している企業が多い。
図3 データを活用している業務領域:2020年総務省HP「第2節 デジタルデータ活用の現状と課題」より
小さなDX化に向けた取組み
上記状況下、ハードウェア主体のDX化といったダイナミックな取組みのみならず、誰もがチャレンジしやすい0→0.1となるような現場主導での小さなDX化に向けた取組み情報も今後溢れてくれたら良いなと思う。
「現場主導」×「DX化」と言えば、「デジタルの民主化」といったキーワードもかつてはよく取り上げられていた。
デジタルの民主化とは要約すると、「非IT部門でない業務に精通する現場部門が自律的にデジタルを活用する事」を指し、例としては特定作業を現場部門が主導しRPAやノーコードアプリにてシステムを作りデータ操作を簡素化させる取組みである。
現場社員がエクセルでデータ分析する、エクセルも勿論デジタルツールではあるが、もう少し高度化余地があるかなというのが世間で言う、デジタルの民主化の定義である。
高度化余地として「今ある分析品質のまま省力化する」「今以上に分析品質を上げる」のいずれかの方向性での進化が必要となるが、以下にて現場に馴染みのあるエクセル作業から進化し業務を効率化・高度化させた一例を紹介させて頂く。
庫内現場管理者のT氏は日次業務の中で小さな悩みを抱えていた。
パート作業者の雇用契約時間は固定的(9~17時)だが、日々の作業終了時間は流動的で、時として終業時間まで小さな手持ち時間が生じていた。
作業が順調で予定より大幅に作業が前倒し完了する場合は、充填不足のロケ(棚)をエクセルで分析し結果を紙に印刷し作業者へ棚整理・棚寄せ作業の指示を行っているが、10分程の前倒し時間だと指示書を作るだけで時間が過ぎてしまう。とは言え、システム構築しようと見積りを取ると、数十・数百万の金がかかる、どうしたものか。。。
悩むT氏に日頃私がコンサルティング事業にて活用しているMicrosoft社の無償BIツール「PowerBI」を紹介し、エクセル知識もある程度流用できる事も併せ伝えた所、数ヶ月後に以下を自ら開発し現場で運用していた。
作ったシステムは至って簡単な構造で、在庫数が1点のみのロケ(棚)をBIツールで可視化させるというもの。
▼ロケメンテナンスツール画面
▼ロケメンテナンスツール操作時
活用の流れとしては
①事務作業者がWMSから当日のロケ別在庫データを出力し上記ツールに紐づく所定フォルダに格納し更新する。
②更新後、現場に余っているタブレット端末を用い作業者数名が担当しているフロア・エリアをボタン指定し各々が見るべき内容を絞り込みマイ作業帳票を作成する。
③限られた時間で出来る範囲の棚寄せ作業を行う。
★以下URLよりデモ操作可能。
https://www.data-chef.net/sample/4-%E6%A3%9A%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%86/
BIツールにて高度な分析を行っているわけではなくただ情報整理を行っただけだが、保管効率向上に向けた取組みをスキマ時間にて実現させる事に成功していた。その後、彼はデジタル活用の有用性に気付き、社内外レポートの作成をBIツールにて高度な分析も交え作成し高い評価を得ている。
IT従事者からすると大した内容ではないと感じるかもしれないが、現場でのデジタル活用(デジタルの民主化)とはこのような小さな取組みから始まるのではないかと私は考える。
テクノロジーの進化も非常に大切ではあるが、同時にテクノロジーを容易に触れチャレンジできる環境作りこそ今現場に足りていないことではないかとも考える。
また、システム開発現場においても、「アジャイル型」といったチャレンジ精神を後押しする開発方式も注目されており、物流業界でも波及すればと願う。
エピローグ
JILS総研レポートvol.1「IoT時代に対応したロジスティクス―日本における持続可能な経済成長に必要な視点―」の最後のまとめ段落に以下記載があった。
「今後の日本では、人口減少が進むなか、持続可能な経済成長を図るうえで、ロジスティクスの分野におけるIoTの活用には、次の2点が必要である。
①日常業務について、身近なところからデータを取得し、データ分析による改善・改革を着実に進めていくこと。
②組織づくりとマネジメントの意識改革を、同時並行的に、進めていくこと。」
上記はたとえIoTを導入しなくともDX化に向けた小さな一歩としても必要な視点ではないかと思う。
私も日頃、物流システム設計支援にて情報解析技術を織り交ぜた業務ロジックや物流ロボを活かせる最適な情報連携方法等、高度な技術開発に意識を向けがちだが、当事者である現場が今直面している課題に寄り添い小さな一歩を支援する意識も忘れずに活動してきたいと考える。
#物流データ #物流DX #PowerBI
この記事の作者

濵田 雅人
株式会社データ・シェフ 代表取締役