物流塾

越境ビジネスを加速するグローバル物流戦略

 PJサプライチェーン株式会社のチャレンジ

 グローバル経済が深化し、越境Eコマースが飛躍的な成長を続ける現代において、物流は単なる商品の移動手段を超え、企業の競争力を左右する戦略的要素となっています。特にブランド企業が世界市場へと展開する中、効率的かつ信頼性の高いグローバルサプライチェーンの構築は喫緊の課題です。本稿では、PJサプライチェーン株式会社(ParcelJet International Logistics Group「以下PJグループと略称」)がどのようにこの課題に取り組み、越境物流の効率化と拡大を推進しているのかについて、ビジョンと、同社の具体的な事業展開を通じてご紹介します。

越境物流の効率化と拡大にむけて:PJグループの描くビジョン

 PJサプライチェーン株式会社の代表取締役に勤める焦氏は、20年間物流業界で仕事をしていて、特に越境物流の未来には確固たるビジョンを抱いています。2005年に日本のトヨタ系物流会社で倉庫管理や海上・航空輸出入、グローバル物流企画に携わり、その後、中国最大手宅配企業である順豊速運(S.F.エクスプレス)の日本法人立ち上げメンバーとして、アマゾンや楽天といった主要顧客の担当、ヤマト運輸との戦略的パートナーシップ企画に参画しました。2017年には中国大手通販企業である唯品会(VIP.com)の物流子会社PJエクスプレス株式会社の日本代表に就任し、中国向け通販の日本倉庫フルフィルメント、B2B保税区モデル、B2C越境直送モデルの構築を牽引してきました。そして2020年にはPJサプライチェーン株式会社の代表取締役に就任し、中国向け通販物流ソリューションに加えて、日本向け通販物流のサービス開発・展開にも力を入れています。

 PJグループが描くのは、**「技術開発力、自動化設備の活用、そして各国のパートナー企業との連携を通じて、業界内で世界標準をリードする越境物流サービス企業となることで、顧客企業の越境Eコマース貿易の夢を実現させる」というビジョンです。このビジョンの実現に向けて、PJグループは「グローバル化 (Globalization)」「信頼性 (Reliability)」「手頃な価格 (Affordability)」**を核としています。

 具体的には、AIとデジタル物流技術を活用し、**「通関、倉庫、動脈物流、静脈物流、返品対応、修理」**といった世界の高品質な現地リソースを統合することで、効率的で手頃な価格の越境EC統合物流サービスプラットフォームを構築することを目指しています。これにより、距離、言語、商習慣の違いによって生じる越境サービス取引の障壁を解決し、越境EC取引の効率(より速く)、コスト(より透明に)、および取引の有効性(より安全に)を向上させることを目標としています。

 同社は、自社開発のサプライチェーンシステム(WMS/OMS/TMS)により、エンドツーエンドの可視化、設定可能なワークフロー、リアルタイムデータ共有を実現し、99.9%以上の在庫精度で、単一のシステムでグローバルな業務を管理し、多様な顧客ニーズに対応しています。

 また、越境Eコマース市場の急成長を背景に、各国の倉庫拠点の重要性が増しています。同社は、海外倉庫拠点が物流効率化の「橋頭堡」であると認識しており、これにより平均物流コストを40%削減し、平均注文転換率を直郵モデルより20%~30%向上させ、顧客満足度を25%以上向上、配送時間を5~8日に短縮、在庫回転率を40%向上させ、不良在庫比率を5%以下に抑えるという経済効果を生み出しています。このような効率化と拡大は、PJグループの技術力と、各国ローカルチームやパートナーの豊富な経験と深い知見に基づいています。

中国国内での本社の実績について

 PJグループは、中国広州に本社を構え、クライアント各社海外市場へ進出を支援するための標準化された倉庫・配送、ファーストマイル、ラストマイル、およびカスタマイズされたサービスを提供する、フォワード・リバース一体型のサプライチェーンソリューションを提供している越境物流サービス企業です。

 同社のクライアントは、主に有名ブランドや越境Eコマースブランドであり、その多くは上場企業、または新規株式公開(IPO)を準備中の企業です。顧客機密保持の観点から一部のみが公開されていますが、代表的なクライアントとして以下のブランドが挙げられます。

  • 中国トップの3Cブランド
  • 中国トップのDTCファッション越境プラットフォーム
  • 中国有数の家具製造ブランド
  • Pinduoduo(拼多多)の越境Eコマースプラットフォーム
  • 中国トップのインターネットベースの家具ブランド
  • ドイツのTOP1ツール小売業者
  • 中国トップのポータブル電源メーカー
  • 中国トップのセキュリティ関連製造ブランド

 これらの顧客からの信頼は、数々の受賞歴にも表れています。例えば、CIDERからは2023年の「ベスト海外倉サービスプロバイダー」を、致欧家居(Zhiou Home Furnishings)からは2022年度の「協同発展賞」や「優秀サービスプロバイダー最優秀サポート賞」を、宇視(Uniview)からは2024年度の「卓越サポート賞」を、麦瑞克(Merach)からは2024年度の「物流優秀サプライヤー賞」を受賞しています。

 中国の越境EC市場は近年、目覚ましい成長を遂げています。2024年前半の9ヶ月間で、中国の越境ECの輸出入総額は1兆8800億元に達し、前年比11.25%の増加を記録しました。そのうち輸出は1兆4800億元で、前年比15.2%増と、市場全体の規模は非常に大きく、同社が貢献する余地が広大であることを示しています。

PJグループは、グローバルネットワークと高度なオペレーション能力でこの市場を支えています。

  • 42万平方メートル超の海外倉庫ネットワークを誇り、欧米アジアの15の主要国に展開しています。
  • これらの海外倉庫は各国のローカルチームによって管理されており、日々の注文処理能力は10万件以上を誇ります。
  • 在庫精度は99.9%を超え、効率的かつ正確なサービスを実現しています。
  • 2024年累計で4,655,751件の出荷を行い、輸出商品貨値は300億元を超えています。
  • 年間出荷総件数は500万件以上、注文充足率は99.88%、発送適時率は98%に達しています。

 また、Amazon SPNサービスプロバイダー、TEMUの米国・EUパートナー倉庫、SHEIN公式認定倉庫、AliExpress海外認定エコ倉庫など、複数のプラットフォーム認証を受けており、50以上のプラットフォームとシステムを直接連携しています。これらの実績は、中国国内における同社の確固たる地位と、越境物流市場での強力な影響力を示しています。

日本国内での現状について

 PJサプライチェーン株式会社は、中国広州に本社を置く国際複合輸送企業の日本法人です。日本国内では、中国越境Eコマース輸送のサービスに加え、自社運営の物流センターにおける3PL(サードパーティー・ロジスティクス)サービスを提供しています。特に、中国国内の消費者が日本製品(日用品、化粧品、アパレル製品など)に対して高い人気を持っていることを背景に、日本からの中国向け越境ECにおける一貫輸送サービスも展開しています。さらに、越境ECコンサルティング事業を核とした物流戦略構築の支援も行っています。

日本における拠点として、PJサプライチェーンは千葉県内に2つの自社運営倉庫を保有しています。

PJ印西本社倉庫:

◦ 千葉県印西市に位置し、6000㎡の広さを誇ります。

◦ 東京成田空港から約20kmと近く、航空輸送の輸出入貨物の取り扱いに適しています。

◦ 流通軽加工(品質検査、修理)、およびWMSシステムを利用した一件代発(ドロップシッピング)の入出庫に対応しています。

◦ 2017年から稼働しており、これまでに唯品会、小紅書(Xiaohongshu)といった中国国内のプラットフォーム、およびアリババ、JD.comの出店者にも海外倉サービスを提供し、高い評価を得ています。

PJ船橋支店倉庫:

◦ 2022年11月に千葉県船橋市に開設された3000㎡の都市型物流倉庫です。

◦ 東京港(大井埠頭)から約29km(車で30分)と圧倒的な利便性があり、海上コンテナの積卸し作業に適しています。

◦ 家電などの大型高価値貨物の保管や、ドロップシッピングの入出庫にも対応しており、全倉庫エリアで空調による定温・湿度管理が徹底されています。

 PJサプライチェーンの日本での事業は、3PL倉庫サービス、発送代行、流通軽加工、海上・航空貨物の輸出入フォワーディング業務を主軸とし、さらに静脈物流サービス(消費者からの返品の品質検査や修理)も提供しています。これにより、EC顧客の事業成長をより円滑に支援することを目指しています。

 同社は、日本市場でのローカル運営を長年にわたり深く推進しており、自社開発のWMSシステムによる技術サポートのもと、クローズループ型の包括的なサプライチェーン物流サービスを構築しています。

日中以外での越境物流:グローバルEC市場への展開

 PJグループは、日中間の越境物流に留まらず、欧米を中心に世界各地に広範な海外倉ネットワークを構築しており、グローバルで合計42万平方メートル以上の海外倉庫を保有しています。これらの倉庫は、欧米アジアの15の主要国に分散しており、業界トップ3に入る自己運営物流サービスカバレッジを誇ります。

 北米地域には、総面積20万平方メートルの倉庫群を展開しています。

  • 米国:ロサンゼルス、ヒューストン、シカゴ、フィラデルフィア、アトランタ、サバンナに倉庫を配置し、合計15万5000㎡を占めます。例えばシカゴの倉庫は3万3000㎡の広さを持ち、オーヘア国際空港から40分、中途国際空港から45分の距離にあり、FedEx、UPS、DHL、USPSなどの主要なラストマイル配送チャネルを利用しています。
  • カナダ:バンクーバー、トロント、モントリオールに倉庫を持ち、合計4万3000㎡です。

 ヨーロッパ地域には、総面積17万㎡の倉庫群を展開しています。

  • 英国:サウサンプトン、バーミンガムに合計3万8000㎡の倉庫があり、Yodel、DPD、ロイヤルメールなどのラストマイルチャネルと提携しています。
  • フランス:パリに合計3万3000㎡の倉庫があり、GLS、CHRONOPOSTなどを使用し、欧州主要都市へのアクセスに優れています。
  • ドイツ:ドルトムント、ギーセンに合計2万6000㎡の倉庫があり、DHL、DPD、GELなどのラストマイルパートナーと連携しています。
  • スペイン:マドリードに合計2万㎡の倉庫があり、Amazon VF倉やTikTok公式返品倉としても機能し、UPS、SEUR、CTT、GLSを利用しています。
  • イタリア:ミラノに合計2万5000㎡の倉庫があり、SFP業務をサポートし、Amazon FBA倉に隣接しています。
  • その他、オランダ(6000㎡)、ハンガリー(2000㎡)、ベルギー(1000㎡)、ポーランド(1万㎡)にも拠点を展開し、広範囲なヨーロッパカバーを可能にしています。特にポーランドの倉庫は、「一倉で全欧州配送可能」という特徴を持ち、1日あたり10万件の返品処理能力があります。

 アジア太平洋地域(日中を除く)には、総面積5万㎡の倉庫群を展開しています。

  • 韓国:仁川に2500㎡の倉庫を保有しています。
  • オーストラリア:シドニーとメルボルンに合計1万5000㎡の倉庫を構えています。

 この広範なグローバルネットワークは、変化する市場環境に対応するための戦略的な布陣です。例えば、米国が特定の製品に追加関税を課すといった政策変更は、事前に米国海外倉へ商品をストックしておくことで高額な関税を回避し、中小企業や中小規模の貨物において海外倉の需要を増加させています。また、TEMU、SHEIN、TikTok、速売通(AliExpress)といった主要ECプラットフォームが「ローカル在庫」を推奨し、出品者に対し海外現地での倉庫と現地でのフルフィルメントを求める傾向が強まっていることも、海外倉庫の需要を押し上げています。

 パイソクチェ国際物流は、各国・地域の地理的特性やマーチャントの製品特性に合わせて、最適なラストマイル配送ソリューションをインテリジェントにマッチングしており、配送到達率は99.5%に達しています。このようなきめ細やかな対応とグローバルなインフラが、世界中のブランド顧客に効率的かつ経済的な海外倉庫・配送ソリューションを提供するという同社の使命を支えています。

 提供された情報源には、インドやアフリカといった特定の市場への展開に関する具体的な記述はありませんでした。しかし、PJグループの**「グローバル展開 (Globalization)」の理念 と、「世界の数百万の越境EC出品者を支援する」**という目標 は、将来的なさらなる地域拡大の可能性を示唆しています。同社の「テクノロジーによるエンパワーメント」と「生態系コラボレーション」のアプローチは、新たな市場での課題解決にも応用可能であり、今後のグローバルな動向が注目されます。

この記事の作者
コラム記事のライター
焦 剣

PJサプライチェーン株式会社 代表取締役社長

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