物流塾

物流回顧録:「ペリカン便」はなぜ引退に追い込まれたのか?

1.はじめに

 3年前から国内でコロナ禍により経済社会が混乱しているなかで、物流が話題に上ることが多くなった。外出が制限され思うように買い物にも行きにくくなったせいでインタ-ネット通販の利用が拡大し、「宅配便」の利用が増大している。食事も外食を控え、「宅食便」の利用で済ませる家庭も増え、食品の宅配需要は非常に大きな伸びをみせている。日本経済全体は長期低迷しているが「宅配便」は長期間拡大成長を遂げている。
1976年ヤマト運輸㈱が個人の荷物を集荷・配送するサ-ビス「宅急便」を
タート。1977年には日本通運㈱の「ペリカン便」が参入し、1980年代には35社が入り乱れて商品ロゴにクロネコ、ダックスフンド、ペリカン、カンガルー、こぐま等をつけ動物戦争と呼ばれる宅配便競争が展開されてきた。
 ペリカン便は1997年度までシェア20%、年間取扱量4億個を超えトップのヤマト運輸に次ぐ業界第2位の実績をあげていた。
 2001年、NHKテレビ『プロジェクトX-腕と度胸のトラック便翌日宅配-物流革命が始まった』が放映され、「宅配便は戦後最大の物流革命である」と言われた。更に、2000年以降インターネット通販が増加・拡大したにも関わらずペリカン便は、2006年度に佐川急便等に追い上げられ、3億3000万個に減少し低迷した。
 日本通運㈱は物流業界で連結売上高No.1、従業員34000名の歴史と伝統を誇る優良企業であり、物流とロジスティクスの総合研究所(現NX総合研究所)を経営し、1965年には流通経済大学も開学した、我が国の物流業界をリ-ドするガリバー。特に、重量物輸送、大型貨物輸送、美術品輸送等にノウハウを有し航空貨物にも実績を有している。しかし、「宅配便」に関してはその経験が活かされていない。2007年度以降もジリ貧状態が続き、社内ではお荷物とされ、2009年に郵政省と整理統合に向かい2010年郵政省と合弁会社「JPエクスプレス」を設立し、「ゆうパック」に一本化され、ペリカン便は消滅した。

2.ペリカン便消滅の要因

 要因はいくつか挙げられる。
まず、第一に「企業体質」の問題がある。日本の戦後復興とその後の経済成長を支えた大型貨物中心の物流体制は大規模製造業を中心とする大量・一括輸送が前提であり、主要メーカーは生産効率を上げるため計画生産を実施した。
 従って、輸送計画は生産計画に密着した計画輸送が必要とされた。日本通運が得意とする分野だった。ところが「宅配便」輸送では、荷物が小口で単価も低い上に不特定荷主が多く、いつ荷物が発生するのかわからない等の不明確・不特定の要素が多く計画輸送には全く適さないという業態であり、戦後の物流業界では「効率が悪くて商売にならない」と敬遠されてきた実態があり、日本通運が最も苦手とする種類の輸送形態であり、誰が考えても非効率で赤字必須の業態で、それでなくても物流の現場では例外処理が多く、対応に苦慮しているところに更に困難な課題が課されるのはドライバーにとって苦痛の種である。
 計画輸送で定時に帰れる大型貨物輸送を希望するのは当然のことである。「宅配便」は消費者に直接対応するので、言葉遣いや服装等も整える必要があり、運転が好きで得意というだけでは通用しない。配達時、道路渋滞に巻き込まれて配達が遅れると直接ドライバーに苦情が殺到する。
 以上、見てきたように、「宅配便」は輸送手段を使った「サービス業」であると言えよう。即ち日本通運の得意とする「運送業」では通用しない。サービス業では「顧客が神様」であり、輸送ノウハウは二の次になる。
 第二には、「スピード」対応能力の問題である。アマゾンが世界で急速に拡大・発展を確実なものにした要因の最大のポイントが「受注後最速で顧客に商品を届けること」にあった。そのために創業以来、何兆円もの莫大な金額を物流センター構築に投資をして決算で赤字を出しても、更に投資を続けて現在に至っている。
 米国内では、クリスマスに商品が確実に届くように、自社の航空機を飛ばして顧客サ-ビスに務めている。普段は空いている機材を使って航空貨物の輸送免許を保有し運輸業にも進出した。「世界で最も顧客に喜ばれる企業であり続ける」ことが創業以来の理念に基づく活動の原点になっている。ペリカン便は、上位2社のスピード・サービス対応に追い付いていけなかった。
第三に問題なことは、物流戦略の要である「貨物追跡システム」の提供サ-ビスがある。「ペリカン便」引退の最大の理由がこのシステムを実現出来なかったことにあると言えよう。毎日国内で発生する何十万個、何百万個の小口貨物を集荷して全国配送する「宅配便」では顧客から集荷した貨物が現在・どこまで配送されているのか、予定より遅れて届かないが、荷物は大丈夫か?といった不安が生じる。その疑問に答えて安心・安全を支えてくれるのが「貨物追跡システム」にある。「宅急便」、「飛脚宅配便」のいずれも貨物発送時に添付する「送り状」に印刷されている「送り状No」を自分が所有するパソコンに入力するだけで、1分以内に依頼した貨物がどこを通過し、現在どこにあるのか一目瞭然にわかるので便利で安心できる。他の宅配便と運賃は変わらないので、このシステムを利用できるか、できないかの差は非常に大きい。国内では、最初に「宅急便」が、次に「飛脚宅配便」の2社だけがシステム利用を可能にし、競争優位の地位を確実にして2社で合計シェア72%と市場を寡占化している。

3.おわりに

 世界的な小口貨物市場の実態を見ても、「貨物追跡システム」を駆使して、米国のフェデラル・エクスプレス、UPS、ドイツ郵便傘下のDHLの3社で世界市場を寡占化している。特にフェデラル・エクスプレス社は36年前筆者がテネシー州メンフィスにある本社を物流視察で訪問した際に聞いたのが、2基の通信衛星を自社で打ち上げ5大陸に分けて、貨物追跡を実現している、ということで「なぜ日本は衛星を打ち上げないのか?」と逆に質問されてしまった。同社はスミス創業社長が開発し物流業界では世界的に実行され常識化している「ハブ・アンド・スポーク」(物流センター集中方式)による効果的・効率的なシステムで航空小口貨物輸送で世界一に成長を遂げたのである。
 現在でも国内第3位の「ゆうパック」は未だに「貨物追跡システム」が実現できていないので、これからもシェアを上げることは難しいのではないかと考えられる。
 「戦略情報システム」とは競合相手を叩き潰すという要素を持つ強力な仕組みであり、サービス・レベルの違いを明確にする圧倒的な力を示すシステムである。それだけに全社を挙げて徹底した取組みが求められる。

この記事の作者
コラム記事のライター
田中 徳忠

(有)セントラル流通研究所

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