物流塾

SCMレジェンド=フレーゼル博士

◆ジョージア工科大学を訪ねて◆

 1991年に私が物流システム営業として中途採用されたキャップアイシステムでは主力製品としてデジタルピッキングシステム=DPS(参考①参照)を開発・設計・製造・販売していた。DPSの人時生産性は当時、ハンディーターミナルシステムや音声ガイドシステムに比較して圧倒的に優れた結果を示していた。

 もともとDPSは米国コンベアメーカーのラピスタン社が米国内の物流センターに導入して商用化していた。その当時、米国ではPick To Light Systemと呼ばれていて、デジタルピッキングシステムというのは和製英語として日本だけで通用していた。トーヨーカネツがラピスタン社から輸入したDPSを1972年にサンリオの物流センターに導入したのが、日本でのDPSの商用化第一号と記憶している。

 日本国内で順調に実績を伸ばしていたキャップアイシステムとしては国内だけでなく、米国へも販路を拡大できないか検討していた。米国での流通と物流の状況を調査するために、著名な物流コンサルタントであるフレーゼル博士(Dr. Edward H, Frazelle)が主宰しているサプライチェーンとロジスティクスの勉強会に参加するために、1996年10月に私はジョージア州アトランタにジョージア工科大学を訪問した。フレーゼル博士との出会いはその時が初めてだった。彼の案内で彼がコンサルタントとして設計された米国物流センター数ヶ所を視察させていただいた。

 化粧品などの通信販売を展開していたエイボン社の物流センターが米国製のDPSを使っていたことが記憶に残っている。フォード社の部品物流センターでは、彼の設計で導入されたカルーセル(回転型自動倉庫)が使われずに、工具置き場になっていたことが印象的であった。過去の先端機器が物流特性の変動に耐えられなくなるということを意味していた。

 残念ながら、米国の物流センターは当時からプライバシー保護と機密保持の観点から写真撮影は許されなかった。訪問したのがちょうどハロウィンということで、物流センターの作業者たちがさまざまに仮装して楽しくピッキング作業をされていたのを覚えている。

米国での物流システムの市場調査を依頼した◆

 その後、フレーゼル博士に米国での物流システムの市場調査を依頼することにした。彼は1年ほどかけて調査結果のレポートを提供してくれた。当時、米国ではDPSはあまり普及していなかった。米国での物流センター作業支援システムとしてはハンディーターミナルが主力であった。米国では現場労働力は人件費が安い移民の方々に頼っていたので、生産性以上に精度とセキュリティを重要視するシステムとしてハンディーターミナルシステムが選ばれていたようだ。日本からの米国物流視察団の報告書を読んでも、ハンディーターミナルシステムに感服するレポートばかりであった。

 フレーゼル博士のマーケティングレポートでは、米国でのDPSの市場は未成熟であり、今後の可能性については否定できないが、市場規模としてはあまり大きくはないと結論されていた。にもかかわらず、今後のニーズ拡大を見切って、キャップアイシステムはカリフォルニア州のクパチーノ(シリコンバレー)に米国法人を立ち上げ、輸入業務のできるマネージャーとシステム経験のあるシステムエンジニアを採用してスタートした。

 営業力を持たない米国キャップアイシステムとしては、物流システム営業力のあるエンジニアリング会社(参考②)を代理店として拡販を進めた。その結果は良好で、米国内の多くの物流センターに日本製のDPSとDAS(デジタルアソーティングシステム)を販売することができた。

◆フレーゼル博士を日本に招聘◆

 市場調査の報告と日本国内の物流センターの視察と情報交換のために、1997年1月から2月にかけてキャップアイシステムとしてフレーゼル博士を日本に招聘することにした。この機会に合わせて、彼を講師として「ロジスティクスセミナー」を企画して日刊工業新聞社に提案した。日刊工業新聞社との共催で東京と大阪でフレーゼル博士のセミナーを開催することで彼の諸費用も捻出することができた。併せてキャップアイシステムの物流業界における知名度を向上することにもなったのである。

 そのころ、物流、ロジスティクスはまだビジネスとしての認知度が低かったので、物流関連のセミナーはほとんど開かれていなかった。日刊工業新聞社としても半信半疑で企画に参画していただいたことを覚えている。もちろんフレーゼル博士の知名度もまだ低かったので、集客には難儀したが、何とか大阪と東京の会場を満席にして成功裏に開催することができた。メディア=新聞の広報力と訴求力を強く認識した次第である。

 DPSやDASを導入している日本国内の物流センター数件に彼を案内した際に、彼は日本のきめ細かい高精度な物流システムに対して、一言「It’s crazy !」であった。つまり、米国の物流システムでは投資効果第一で設計されるので、日本に比べると精度要求が1桁低いアバウトなシステムで良いということだった。日本に比べて広い国土の関係から店舗の規模も大きく商品保管面積も大きくとることが可能だ。したがって配送もケース単位でパレット納品の比率も多い。しかしながらその後、ネット通販が普及するとともに、米国でも物流へのきめ細かな対応が増加して精度要求も高くなっていった。DPSやDASのニーズは次第に拡大していくことになったのである。

◆SCMレジェンドとしての活動◆

 その後、富士通や三菱化学エンジニアリングもフレーゼル博士を日本に招いてサプライチェーンとロジスティクスのセミナーを開催された。日本で開催されたフレーゼル博士のセミナーには私も何度か参加させていただいた。

 フレーゼル博士はその後、ジョージア州からフロリダ州に拠点を移して、彼独自のサプライチェーン最適化理論に基づくRightChain© Instituteを立ち上げられ米国でのサプライチェーンとロジスティクス最適化のための人材育成とコンサルティングを継続されている。

 日本国内では三菱ケミカルエンジニアリングがフレーゼル博士との協業によるサプライチェーン・ロジスティクスコンサルティングを提供されている。(参考③)

 フレーゼル博士に興味のある方はサプライチェーンとロジスティクスに関する彼のスピーチ(参考④)と下記の書籍を参照してください(参考⑤)。

・在庫削減はもうやめなさい!~経営戦略としての「サプライチェーン最適化」入門
・物流担当者のための世界水準のウェアハウジング理論とマテハンのすべて
・サプライチェーン・ロジスティクス
・フレーゼル博士のサプライチェーン戦略
<参考>

  1. https://www.hello-aioi.com/products/digital-picking/
  2. https://lightningpick.com/
  3. https://www.mec-value.com/tech/consulting/supply-chain/
  4. https://www.rightchain.com/post/wisdom-for-warehousing-the-optimal-role-s-of-warehousing-in-business-and-supply-chains
  5. https://www.amazon.com/stores/author/B001HD0Y6O
この記事の作者
コラム記事のライター
西田 光男

ロジスティクスIT研究所

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