物流塾

物流の効率化をデジタルで進めよう

物流DXへの進化

物流は実物経済を支える基盤である。素材や部品の調達や商品の配送など、構内物流と輸配送のデジタル化によって効率化を実現するシステムが求められている。
 人口増で消費が拡大する経済的発展期を迎えている諸国では、物流量の増大に伴って、リストや伝票などの印刷物を作業者が読んで作業する旧来のアナログ方式では間に合わなくなくなり、作業支援のためのデジタル化、すなわち物流DXの進化が叫ばれている。
 人口が日本の10倍以上の中国では急速な資本主義的経済発展による消費の増大に比較して、一子制度を進めてきた結果、少子高齢化も日本の数倍で進んでおり、労働力不足への対応が大きな課題となっている。その結果、中国政府は人工知能と自動化システムへの投資を拡大してきた。
 ロボットや自動機械などで物流を自動化=無人化することで、労働力に頼らない物流システムも物理的には可能だろう。しかし、技術的制約と投資効果などからして部分的には実現できても、全体最適からすれば現実的ではない。今後とも人的作業効率化支援システムのニーズは増大する。物流の効率化のためには、情報通信技術と物のインターネットと呼ばれるIoT(Internet of Things)に磨きをかけて、高速通信の普及によって、人と物と情報とをリアルタイムにきめ細かく結ぶ技術を進化させることが課題である。
 サプライチェーンの実行系であるロジスティクスのデジタル化、物流DX(Digital Transformation)、スマートロジスティクスが如何に進化しているかについて概要を紹介する。

作業効率化の基礎

 作業効率実現のための5原則として、一般に下記の要件が挙げられている。
(1) 作業者に余分な物を持たせない・・・手にリストや端末を持たせて作業を行うと、商品を扱う際に邪魔になり生産性を低下させる。
(2) 作業者に作業指示情報を読ませない・・・読みながら作業していると判読の時間がかかり、読み間違えや行間違えが生じて、生産性と精度を阻害する。
(3) 作業中にできるだけ考えさせない・・・目的物の属性や所在などを記憶に頼りながら考えて作業していたのでは、判断に時間がかかり、勘違いが生じるなどして、生産性と精度を低下させる。
(4) 作業者に目的の物を探させない・・・目的物の所在を探していては余計な時間がかかってしまう。
(5) 作業者をできるだけ歩かせない・・・目的物の所在までの歩行の時間が余計にかかってしまう。

 以上の5つが人の作業効率を向上するための5原則とされている。作業品質向上のための5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)に対して5Nとも呼んでいる。まさに、デジタルピッキングシステム(DPS)ではこの5原則が実現された結果として、リスト作業と比較して、生産性で2倍以上、精度で10倍以上という効率向上が達成されている。
 ちなみに、リストピッキングとの比較では、ハンディーターミナルによる作業支援では20%、音声ガイドシステムによる作業支援では30%の向上ということで、DPSによる作業支援が生産性では圧倒的に高いことが実証されている。
 生産性では優れているDPSでも作業精度ではミスをゼロにするまでには至っていない。それゆえに、DPSの前後工程で検品工程を付加する複合システムも普及している。
 また、プロジェクションピッキングシステム(PPS:Projection Picking System)は、DPSのようにデジタル表示デバイスを該当ロケーションに設置せずに、該当ロケーションに作業指示をプロジェクターで投影指示すると同時に該当ロケーションのマーキングをチェックしてミスを防止する方式と、カメラやセンサーで作業者の手の位置を画像認識で確認してチェックするポカ避けシステムも実用化されている。

 PPSは作業対象ロケーションの間口が狭小でデジタル表示器が設置できない場合や、作業対象ロケーションが頻繁に変化するような場合にも、必要に応じて任意に作業対象ロケーションの座標を変更でき
るという柔軟性も評価されている。
 PPSはコンピュータによる画像処理技術と画像認識技術によって、現実現物とを結ぶことでフレキシブルな作業支援システムを実現したのである。まさに拡張現実(AR:Augmented Reality)によって作
業効率化を支援するシステムである。
 物流を可視化して最適制御するDPSの特徴は、多数の作業指示用表示器などを一元的に接続して表示制御するそのネットワークシステムにある。ネットワークシステムは表示器だけではなく、工場や物流センターの必要箇所に各種センサーやアクチュエーターを接続することができ、物流現場の作業時点のさまざまな情報をリアルタイムに把握して、それぞれの状況に対応すべき機器と設備の最適制御を実現することが可能となる。このメ
リットを活かして、施設や設備の可視化と効率化を統合的に管理して制御する機能が実現されている。
 人の身体にたとえれば、脊髄の中枢神経系はインターネットやLANに相当し、目・耳・皮膚・筋肉などを司る末梢神経系がデジタル表示器などを接続するネットワークに相当するのである。これによって物流の効率化と可視化を併せて実現して、自律系を形成することができるとして注目されている。IoTを実現する要素技術なのである。
 最近では搬送系の制御でも各種センサー技術とネットワーク技術を駆使して目的の商品棚を作業ステーションに自動搬送したり、目的に部品や商品の場所に移動するAGV(Automated Guided Vehicle)とかAMR(Autonomous Mobile Robot)も実用化されている。必要な物を作業者の手元まで届けるシステムをGTP(Goods To Person)と呼んでいる。これによって作業者を歩かせないシステムも実用化され、生産性をさらに向上することができる。

スマートデバイスとの連携を強化

 インターネットやLANとの連携を拡大しているスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスは、今や多くの機種が公衆回線、WiFi、Bluetooth、赤外線通信、非接触近接通信(NFC)などの通信機
能に対応している。それらの基幹神経系と末梢神経系によって誰でも何時でも何処でも利用できるマートデバイスとIoTとの連携が進められている。すでに物流倉庫でもスマートウェアハウスシステムが実
現されている。
 物流センターのスマート化のみならず、輸配送系を司る輸配送管理システムのスマート化も進められている。スマートフォンに実装されたGPS、加速度センサー、音声合成、音声認識は、輸配送システムはもとより物流作業支援システムとして必要な様々な機能を提供している。これらを駆使することで、何時でも誰でも何処でも作業支援システムが利用できるようになっている。
 少子高齢化はすでにサプライチェーン実効系の効率を大きく阻害する要因となっていることは否定できない。物流効率化を支援するさまざまなIoT関連のシステムデバイスが開発されている。システムデバイスの進化は作業の効率化を支援するだけでなく作業の可視化を併せて実現する道具として進化を加速している。クラウドデータベースに蓄積されるビッグデータの解析によって、システム自体がさらなる知的進化を促進することになる。また、クラウド化の進展によって個別的にも全体的にもサプライチ
ェーンの標準化が進められ、物流の個別的な標準プラットフォームが稼働できれば、企業規模の大小を問わずに共同で利用できることになるのである。物流を支えるロジスティクスシステムがクラウドサーバーに構築されたビッグデータを駆使したAIによって最適解が得られるようになるのも夢ではない。

この記事の作者
コラム記事のライター
西原 純

マイクロメディア研究所・ロジスティクスIT研究所  主任研究員 

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