物流塾

アウトソーシング契約は救済されるか

 自営物流、自社物流への回帰が進む中でも依然としてアウトソーシングは多くの割合を占めている。それは物流活動が労務管理や時間帯を越えるために専門職としての働き方が求められているからだ。

 倉庫業務であれ運送業務であれ、アウトソーシング契約はビジネスを進める上で双方にとって極めて重要なコンプライアンス要件である。

ノーベル経済学賞の契約理論とは

契約論とは2016年のノーベル経済学賞にもなった、企業の行動原理を追究した学問領域である。
 オリバー・ハーストとベント・ホルムとロームは長年の事例研究により、「完全なビジネス契約は存在できない」という主張を展開して、その業績がノーベル賞となった
 どのような取り組みを持ってしても、契約当事者の双方には取引という概念である以上、情報の非対称性が存在しており、また理念の公正と実態の公正には乖離が生じてしまい、契約は平等であるけれども不完備であることを防げない、とした
 取引、すなわち対価によってサービスの提供を行うのであれば、どちらにもどうしようもない拒絶としてのホールドアップや突然解約のリバースホールドアップが生じる確率を防げない
 また、平等契約ではあるものの救済措置は、賠償請求法でしかなく、委託側が資産凍結となれば精算の目処は立たない。契約未了段階での設備投資は回収できず、そのようなリスクを回避するための監視コスト(エージェンシー問題)を解消する手立てはないのが現実だ。

 

不完備契約の証明は納得できた、でどうすれば良いのか。

 3年越しの契約論研究の末、オリバーハート博士は A New Approach to Contact HBR 2019/9
で新主張を発表した。それは、『契約を双方平等の精神に則っているのであれば、双方継続の持続性をうたうべきであり、それは取引ではなく関係性の維持ではないか』、という新たな視座の獲得であった。
 関係性の契約という概念は一言ではつかみにくいが、それを維持するためのフレームワークを整理することで持続性の課題解決につながることは理解できる。

 つまり、双方平等で持続性を確保するためには、共同のビジョンを持ち、対立ではなく協調の道筋を描くことから始まる。本来ビジネンス契約とはこのような精神で結ばれるものであるはずだが、実態はどちらかのホールドアップ(強制的な威嚇)と情報の非対称性を隠すシェーディングは横行し、双方ともに疑心暗鬼に陥るために監視するエージェント問題を生んでいた。特にコストダウンが品質劣化や手抜きによって実現することが容易であり、頻繁に散見されたのは承知の事実である
 関係的契約と名付けられた主張は、双方が同じビジョンを持ち、関係性を高めるためのKPI指標を持つことから始まる。

 ビジネスにとって双方がWIN-WINの関係にあることが望ましいが、実際には対立と隠蔽という取引関係に陥りやすのは事実だった。そこで双方の行動指針を定め、KPI測定によって関係性の向上と維持確認がされるように仕向けることが、ビジネス契約の持続性担保になることは想像できる。

まず共通ビジョンと基本理念に基づく行動指針を定めることが重要とされる。行動指針は

  • 互酬性:双方にとての報酬価値を見出すこと
  • 自律性:双方が隷属ではなく独立した行動を保つこと
  • 忠誠心:フェアビジネスを心がけること
  • 公正:コンプライアンスと共に全てに公正であること
  • 正直:隠蔽や隔離を行わず、常に率直な申告を行う
  • 誠実:すべての起点に誠実さを据えること

 これらの推進状況を監視するためのKPI指標として

  • 関係性:関係性が維持され良好な状況かどうか
  • 卓越性:双方が改善し、より優れるパートナーであることを確かめる
  • 持続可能性:契約の推進・継続の障害となる事案を把握し改善する
  • 価値最大化:双方最善の状況であることを維持し、最大化を目指す

契約の不備を解決するには、政治ではなく誠実さ

 経営の神様でなくとも経営と誠実、人格と徳を言うことが多く聞かれてきた。どちらかといえば倫理宗教じみた風潮に捉えることが多く、経営理論とは呼べない文化であったように思う。しかし、21世紀の資本主義が成長鈍化を迎え、そのジレンマが見え隠れするようになったとき、経営やビジネスの本質はどこにあったのかを振り返る時期かもしれない。ROAや利子率、収益性だけでは持続性障害となることが明らかになるに連れ、現代の経営やビジネスの根本がゆらぎながらも逆に真理を求め始めていることに、未来はまだ明るいと言えるだろう。

 契約は双方平等であるという対立から協調へ、持続性こそが最重要の価値観であることに気づくべきときだ。

この記事の作者
コラム記事のライター
花房陵

ロジスティクス トレンド(株)

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