物流回想録<続々12回>物流との関わり
はじめに
社会人生活を送る一般の人々にとって「物流」とは、知識として知ってはいても、具体的な内容については十分に理解しているとは言えない、というのが本当のところであろう。物流を本業とする物流事業者や所属する企業で入出庫作業等の物流業務に携わる人々以外は直接物流に関与することは少ないのが一般的である。30年以上にわたって物流に関与してきた筆者も当初は物流情報システム販売を担当し、オフィス・コンピュータの販売を目的に運送事業者や倉庫事業者の事務所に出入りしていた。しかしながら、実際の物流業務を手掛けたことはないので、業務処理の問題点や業務推進上での合理化策や効率化の為の手法等は理解できていなかった。経営トップから、退職する4年前に、物流センター長を拝命して、物流改革の責任者として実務を経験することになったことが、現在に至る経緯である。
物流改革とは
どんな仕事でも、「改革」するということの困難さは変わりがないが、とりわけ物流に関しては、社内の人たちが物流そのものの理解がほとんどない、という事実がある。30年以上前までは、物流という概念も存在せず、物の輸送、梱包、荷役、保管等現場作業を過不足なくこなしていれば充分であった。ところが、現在ではEC通販業界などでは物流システムの巧拙が企業の存続を左右する、と言われるほど重要な経営機能に変化している。したがって、物流改革は喫緊の課題になっているにも関わらず、残念ながら現在も我が国の企業で自社の社員で物流改革を実現できるところは大変少ない。
その原因の第一は、トップマネジメントの物流に対する認識と理解の弱さに起因する。物流改革は業務改革であり全社的な取り組みが必要である。トップマネジメントマターであるにも関わらず、今までの業務の延長としか考えておらず、全社的な取り組みとしての業務改革を遂行する体制になっていないため、業務処理の改善範囲での取り組みが殆どである。物流改革に成功した企業の成果がどれほど大きいかという他社の事例が知られていない事実も影響しているものと思われる。
今まで企業経営の中心は売上・利益を獲得するのは生産部門、営業部門であり、物流はそれを支える縁の下の存在であった。主役ではなく脇役であった。競争を勝ち抜くための存在としては考えられてこなかった。唯一の例外として、アマゾンジャパンが競争優位の地位を確立するための戦略中枢としての理念をもち、利益を減らしても、必要な物流投資を断行してきた。受注後当日配送を含む顧客サ-ビスと1億品目を超える品揃えによる「アマゾン効果」と呼ばれる圧倒的な顧客に対する利便性を提供して競合他社との差別化を図り「物流革命」を成し遂げたのである。EC通販の世界的盟主であると同時にロジステイクス・カンパニ-でもある。
物流改革を成功させるには、全社的な戦略指向に基づく組織・体制の構築と多額の予算、人員移動も必要になり、今までにない処理方法や考え方を導入することになる。所有する商品や原材料在庫も大幅な削 減等が求められることも多い。これらの改革を1~2年の間に実現することは物流現場の責任者では到底出来ない。トップが先頭に立って予定外の負荷がかかっても責任をもって前進させる強い決意を全社員に見せることが肝要である。
物流改革のアプロ-チ
前述したように物流改革には様々な要件が伴う。トップが意思決定した後、具体的な手法は現在の社員が実行するわけであるが現実の物流業務は物流子会社や外注・下請けに任せて、社員が上手くコントロ-ル出来ているかチェックする必要がある。
物流改革を成功させるために必要な考え方は、改革によって「売上高営業利益率が10%以上になる」ことが目標である。その為に、物流の合理化・効率化による人件費削減や在庫コスト削減を行い、利益確保を目指す。我が国企業の殆どが「売上高営業利益率5%以下」であることを見れば、物流改革が成功すると大きな成果が期待できる。
物流投資1000億円超の時代に突入
わが国企業のなかで、上述した物流改革で売上高営業利益率を10%以上に上げた事例はまだそれほど多くないようであるが着実に成果が期待できる状況になりつつあるようである。逆に言えば失われた30年と言われる日本経済の中で過去とは異なる戦略展開で活路を広げることに成功した。業種・業態はさまざまで企業規模も異なるが共通していることは、会社の理念として積極的に取り組んでいることである。特に、ここ数年は各社とも大型物流センター構築を含む物流投資に資金を投入し効率経営と合理化によるコスト削減で利益確保を実現しつつある。成功事例のいくつかを上げてみる。
①ニトリ・ホ-ルデイングス
企業理念:製造物流小売業/売上高営業利益率(2022年)16.6%
物流への取組み:1980年以降流通業界初の立体自動倉庫を建設
2000年 関東物流センター稼働
2022年 西日本デリバリーセンター
2023年 名古屋デリバリーセンター
2023年 35期連続増収増益達成
2024年 埼玉・幸手デリバリーセンター
2025年までに2500億円を投資して全国8ヶ所にデリバリーセンターを建設する計画公表。
②アイリスオーヤマ
企業理念:製造・物流・卸一体化/売上高営業利益率(2022年)11.4%
物流への取組み:国内8ヶ所に工場と物流センターを併設。
2022年 宮城県に倉庫拡張
2023年 埼玉県にロボット無人自動倉庫建設
2025年には2021年比3割倉庫面積拡大
③ファ-ストリテイリング
企業理念:情報製造小売業
売上高営業利益率(2022年)7.43%
物流への取組み:2016年 江東区有明物流倉庫へ650億円投資
2018年 ダイフクと戦略的グローバルパートナ-契約に基づき東京にEC向け自動化倉庫を構築(倉庫要員100名から10名と省人化率90%、入庫生産性80倍、出庫生産性19倍、保管効率3倍、RFIDタグにより自動検品精度100%、24時間稼働)
今後、世界に向けて1000億円投資を発表。
物流改革のポイント(物流担当取締役の言葉):物流の問題は物流だけでは解決できない。川上の企画や生産、川下の販売とすり合わせて最適化を図る必要があった。物流に関する経営管理チームを立ち上げた。物流をコストセンターからプロフィットセンターとして位置づけ、物流がより高度化することで得られる価値を、企業の強味として打ち出せるようにする。物流をプロフィットセンターとすることが重要だと考えた。
上記の他にも、情報システムと物流システムの効果的な組み合わせて戦略的成果をあげているコマツ製作所・セブン&アイHD等のグローバルに活躍する事例もみられる。また、家電量販店におけるビックカメラのように、特定分野できめの細かいサービスを提供して、アマゾンとも充分な競合力を発揮しており、最先端の物流サービスは今後の展開が期待される。
この記事の作者
田中 憲忠
有限会社セントラル流通研究所