ポストコロナ、物流DXへのアプローチ
およそすべての産業界で7割経済が深刻化している。基幹産業の自動車、建設、不動産開発はかつてない程の落ち込みを見せており、関連する物流事業者も悲鳴を上げている状況だ。当面の資金繰り策に目処が立っても、融資には返済が必要だし助成や給付はいつまでも続かない。この半年で蒸発した需要を埋めるほどのV字回復は今後もうありえないし、世界の企業はすでに全く別の風景を見ようとしている。 当面想定できる順風産業は医療、介護、食料、教育、ITとその人材派遣などであろう。特にITでは2025年の崖とIT危機が前から言われていたから、人材欠乏が著しい。自動車・弱電などの製造業では伸び切ったサプライチェーンの工場や協力会社の国内回帰による新たな投資増が期待できる。しかし、GDPの6割を占める家計支出300兆円(家計支出は住居衣料食費、娯楽教育旅行サービス料)は、その半分が教育娯楽サービスであり500万人を超える飲食宿泊サービス業は完全復活とはならないだろう。インバウンド外国人と家計消費の急激な規模縮小がこれからは新たな日常となり、商業流通、消費者行動にも大きな変化が見られるだろう。平成で35年間続いたデフレ経済は更に戦後最悪の不景気時代に突入している。
コストダウン余地
●圧倒的にコストを下げるか、新たな需要を開発するか 従来までの基幹産業は元に戻らず、既存業界は扱い商品やサービスを大胆に行動変容しなくてはならない。当面の資金繰りに息をついたら、すぐさま事業や業務の棚卸しが必要だ。7割経済の売上減少を支えるために、徹底的なコストダウンと生産性向上策を取り入れなくてはならない。いち早く効果が出せるのはDXと呼ぶ業務のデジタル化だろう。リモート勤務経験とパソコン・スマホはすでに手元にあるから、業務のDXの化は大丈夫だろうと高をくくってはいけない。デジタル化とはデータの利活用であり、FAX注文をエクセルに入力をするのはアナログ業務である。スマホで電話連絡を行うのもアナログである。LINEやSLACKなどで社員一斉通知と既読チェックこそが、デジタル処理と言えるのだ。ハンコ書類や郵送物はこの際廃止を進めたい。その他にもクラウドサービスや伝票レスができる経費申請処理、受注出荷指示、棚卸し、在庫管理、会議記録など、多くのアプリが市販されており、数百円から数万円で十分実用に耐える。リモートワークのZOOM会議システムですら月額2000円で十分に利用できる。一斉同報と会議連絡システムという業務上の情報共有プラットフォームを準備することが最優先であり、個人レベルではアナログ業務を一切禁止するように仕向けなければならない。そうしなければ、「〜〜のために時間がない」と泣き言が絶えないだろう。アナログは息継ぎが必要だが、デジタルは光速なのだ。 DXとはデジタルによるトランスフォーメーション(形態変換)であるから、商品サービス業務の変革をもたらさねばならない。情報連絡をデジタル化することで、サービスは素早く正確に繰り返し提供できる。デジタル化は圧倒的なコストダウンを狙える。アナログ業務を排除することで業務時間の短縮によって従業員の健康管理が行なえるようになり、事業場の労働環境が一気に改善されるだろう。バックオフィス業務や通常業務のデジタル化にめどがつけば、次は外販もできるサービス開発を進めるべきだ。スマホの電話連絡はLINE社がアプリを開発した。FAX注文の受注入力は東芝がOCRアプリを整備した。リモート会議は通信会社が思いついた。全ては企業内のアナログをデジタル化に成功し、更に外販を行った成果である。 例えば、物流は荷扱と輸送というアナログ、作業、時間消費、労働集約活動とみなしているが、実のところではデジタル化によって時短や品質向上につながる業務が多くある。
業務フローを描いてみれば気づくであろう一連のプロセスは、 指示命令の受信〜発信〜点検確認〜作業処理〜記録報告〜請求精算〜検収回収 従来は部分的にデジタル化されてはいるものの、ほとんどはアナログ系ではなかったか。そのために荷役輸送以外にどれほど多くの時間が消費されていたかを計測すると良いだろう。 物流センターでも最も多い時間は全稼働時間帯における、<指示待ち、手待ち時間>であることに気づかないでいるのではないか。DXは圧倒的にコストダウンを狙える、そのことを顧客と共に研究したいものである。
回復の路
●10年で売上を戻すには、事業範囲を広げる 手作業はいずれデジタルロボットに変換されるだろう。現在は搬送、移動などのロボティクスがブームであるが、足や腕の代わりから、指と目に移行中だから10年を待たずに物流工程は人手を不要とするだろう。そのためにも規模の拡大、統合集中が必要であり、デジタル化が進まない企業や現場は淘汰されるに違いない。 10年は長い時間ではない。戦後30年で日本は完全に復興して高速道路や新幹線の計画も始まっていた。95年からの20年で5G通信網が始まっている。この先10年あれば人手不足などは歴史上のただの記録になるに違いない。 日本は生産性と賃金の低さを先進国内部でのランキングで汚点を残している。大企業が圧倒的に不足しているからだ。労働者の70%が中小零細企業に所属しており、法人数の99%が中小企業だからだ。 小さい集団には生産性を上げるためのデジタル機器は装備できない。リモートワークもほぼ不可能だろう。交代要員も足りないから、残業も減らせないし、休暇も十分に取得できない。働き方改革をしたくとも余裕はない。 中小企業のままで良いとしたのは、経営者の責任ではない。トヨタ、ソニー、パナソニックも小さく生まれ、成長軌道を登っていった。戦後の昭和時代では成長するしか生き残る道はなかったからだ。 ところが昭和38年に生まれた中小企業基本法という法律は、経営者の成長意欲を抑え込んでしまった。成長せずとも経営者は優遇され続けているからだ。免税、減税、経費放題など程々の中庸がぬるま湯のような日々を約束していたのだった。 デジタル化、システム化、ロボティクスにコストや投資余力が足りないと言うのは、手段と目的が逆転している。投資によってその回収以上の成果を狙うのが本筋であるからだ。投資を支えるだけの事業規模を目指すべきであり、規模は拡大と領域範囲の拡張でまかなえる。資本が足りないなら増資や経営統合を図るべきだし、守るべきは成長する企業と雇用の拡大でなくてはならない。人減らし省力化という経営手法は昭和38年からの60年間でほとんど効果をもたらしていない。コストダウンは一時しのぎの戦術策であり、拡大成長が戦略となるだろう。一本杉は象徴にはなるが自然の趣だけで林や森に成長することはない。 デジタル化というDXには、絶対的な事業規模と業務範囲の拡張が必要なのだ。決意を新たにした事業提携、経営統合、協業促進、競争から協調への経営転換が絶対に必要なのだ。
この記事の作者
花房賢佑
ロジスティクストレンド