物流回想録<続々8回>EC(Electronic Commerce)物流の変革
はじめに
ネット通販の伸長が続いている。
低迷する我が国経済においてインターネット通販業最大手であるアマゾンを筆頭に業界全体の売上高の伸長が続いている。インターネットが急速に普及し始めた1990年代後半からネット通販が急速に広がり、楽天市場やyahoo!等の大手ECモールが誕生した。1995年ソフマップが通販開始、アマゾンも米国でスタート。97年以降ヨドバシカメラ、ノジマの家電量販店や楽天市場がオープン。98年にはアマゾン・ジャパン、99年にヤフーショッピング・ヤフーオークションも始まった。
販売の形態からECを分類すると、次のように様々な形態があり、競争も激しくなってきている。
1.自社販売のための単店舗型のECサイト
2.複数店舗モール型EC:楽天・ヤフー等で最も多い
3.B to B ECサイト:卸売・仕入れ用Web調達システム
4.オムニチャネル型EC
ネットとリアルのPOSレジ、オーダーエントリ-・システムと基幹システムを連携し顧客満足の向上と売上最大化を目指す。
5.越境EC:国外の配送、免税対応
経済産業省によると2020年の日本のB to C(個人顧客相手のビジネス)におけるECの規模は 19.3兆円(前年19.4兆円)で前年比 0.43 %減少したが、一方B to B(法人相手のビジネス)のEC規模は 334.9 兆円(前年 353兆円)前年比 5.1 %減少し、コロナウイルス感染拡大が市場経済に大きな影響を及ぼした。
分野別の市場規模及びEC化率をみると
① 物販業分野は 12兆2333億円、伸び率 21.7%(EC化率8.08%、前年比2兆1800億円増加)
② サ-ビス分野では 4兆5832億円、伸び率 -36.05%(前年比 2兆584億円減少)
③ デジタル分野は 2兆4614億円、伸び率 0.43%(前年比 3192億円増加)
物販業分野の伸び率が21.7%と大きく伸びたものの、飲食や旅行等が感染対策によって制限されたため、サービス業分野は大幅に減少している。
今後、ウイズコロナで経済活動が回復できれば、徐々に戻ると考えられるが、世界情勢など不安定要素も多い為今後の状況の見極めが必要となる。
B to C国内EC流通総額は19.3兆円で、上位3社は下記の通り。
1.楽天:5兆118億円、前年比10.4%増
2.ヤフー:2兆6673億円
3.アマゾン・ジャパン:2兆円
直販売上ランキングの上位5社は以下の通り。
1.アマゾン・ジャパン 1兆7443億円
2.ヨドバシカメラ 1380億円
3.ZOZO 1255億円
4.ビックカメラ 1081億円
5.ユニクロ 832億円
1位と2位の差は10倍以上に開いている。
日本通信販売協会によれば、2011年度の通販売上高は前年度比9%増の5兆900億円と1982年の調査開始以来初めて5兆円を突破した。2016年には16兆1000億円に達すると予想されていたが2022年度にはコロナ禍にも関わらず、19兆円を超えて、20兆円まであと僅かに迫る急拡大をとげた。今後も伸びが予想されている。
EC参入によるメリットとして下記の5点があげられる。
1.実店舗が無くても、どこでも売買・取引ができる。
2.データにより、顧客情報を用いた様々な販売施策と最適な提案が考えられる。
3.民間主導で市場が形成される
4.スピードが速い
5.国境のない市場が形成される
デメリットとしては、競争激化が発生する可能性がある。
EC通販を支える物流システムとその変革
以前の通販システムでは、商品カタログを消費者に配布して、ハガキや電話で受注し商品を確定して発送していた。受注後納品するまでに平均して3~4日はかかるのが普通であった。
7日以上かかるとキャンセルが多発した。この常識を変えたのがアマゾンである。1995年に米国でスタートし初めは無在庫経営の典型的な通販業として始まったが、受注当日配送による顧客満足の向上をはかることと、問屋からの仕入れによる手数料を削減してコストダウンを目的に物流システム・ネットワーク・システムを中核とする世界戦略を構築し拡大発展を続けている。
アマゾン躍進の特徴
1.企業理念として「世界一顧客に奉仕する企業」を掲げ具体的には、2009年に「受注当日配達」、2010年には「日時指定配達」を開始、2015年にはプライム会員向けサービスとして商品を受注後一時間以内に届ける「プライムナウ」を始めるなど、他社にない顧客満足を追求して物流サービスによる差別化を実現してきた。
消費者ニーズに魁け需要予測による2億品目に上る圧倒的な品揃えで顧客満足を実現した。
2.日本全国に1万坪以上ある大規模な流通センター(受発注機能、仕入れ機能を持ったフルフィルメント・センタ-)を川崎・小田原・堺・鳥栖他10ヶ所以上保有し、大都市周辺に小型物流センターを構えて当日配送を増やし続けている。センター内の効率化・自動化にはAI機能を駆使した「アマゾン・ロボテイクス」と呼ばれるシステムにより千人規模の人員が百人規模で運用できる大幅にな人員削減で効率的な・ローコスト経営を実現している。
3.輸送コスト削減の為の戦略としては、基本的には全国ネット輸送を行っている事業者に委託していたが、大手業者側が輸送運賃料金が低すぎるという理由で1社が取引を中止し、もう1社も一時期中断したこともあったが、再度仕切り直しで復帰した。そのためアマゾンとしては自社の物流サービス向上のためのネットワーク構築を中堅の物流事業者と「デリバリー・プロバイダー」を組織化して強化をはかっている。また、米国では、生鮮品輸送を行う「アマゾン・フレッシュ」という輸送サービスや大手航空貨物業者の弱い部分を補うためには、自社で40機もの航空機をリース契約して輸送分野にも乗り出しています。消費者重視のきめ細かい物流サービス提供はアマゾンが得意とする戦略の一つです。
一方、楽天は売り上げは伸びているが、赤字決算が続きアマゾンに大きく後れを取り、物流システムの構築に苦労してる。自社で物流センターを確保してコスト削減を目指しましたが思うようにいかず、配送は日本郵便と提携して全国配送を行っているが、アマゾンに比較するとサービスのレベルはイマイチで、その差は開く一方です。今後も物流コストの重い荷物を背負って遠い道を歩くことになると考えられる。
店舗とネット通販を結んで成長するヨドバシカメラ
2020年、直販EC売上ランキング2位のヨドバシカメラは、総合ネット通販「ヨドバシ・ドットコム」を1988年から始めており、家電製品・日用品・飲料品・カー用品など幅広い取扱商品を揃えて店舗と連携した「ラストワンマイル」に強味を発揮して躍進しています。現在、都内全域での注文は受注から最短2時間半で無料配達する「ヨドバシ・エクストリーム・サービス」を実現している。そのため在庫保管用の物流拠点を都内に確保。自社の社員が常駐して配送管理を行っている。配達予定時刻をメールで連絡するなどのきめ細かいサービスが可能なのも自社の社員が担当しているおかげです。家電販売では納入に加えて設置サービス等を行う事も多く、顧客ニーズに応える体質を保有しているので、より一層の密着型サービスでアマゾン等の大手と競争出来るものと思われる。
おわりに
これからもEC通販を活用する企業は増加すると見込まれる。すでに見てきたように、売上高ランキングには家電量販店が上位15社内に4社、自社物流システム構築に成功している「ユニクロ」は5位、「ニトリ」が18位以内に入っている。
「物流を征する者が通販を制する」と言われている。「物流システム戦略No.1ガリバ-」のアマゾンを目指してEC通販の勝者が多数出現することを期待したい。物流戦略を効果的に駆使するアマゾンは、ネット通販で世界一の実力だが、意外にも売上高営業利益の40%はAWS(Amazon Web Services)と言われる、ITサ-ビスの「クラウド・システム」なのである。
この記事の作者
田中憲忠
有限会社セントラル流通研究所