物流回想録<続々11回>中小企業流通業務効率化促進法とその後
はじめに
わが国の物流量は経済成長の伸び率を超えて増大しており、多頻度・小口配送など物流内容が高度化していることに加えてドライバー不足などの課題が大きくなっている。物流コストが上昇し大企業との格差が拡大し、取引先からの要請に対応するため中小企業の共同化による物流効率化が求められている。
単独の中小企業では資金調達力が弱く、また効率化投資に見合う物流量が充分に確保することが難しい。物流効率化対策は、事業協同組合等により中小企業が共同して取り組むことが効果的であるとして、中小企業庁は1992(平成4)年5月に中小企業流通業務効率化促進法(物流効率化法)を柱とする抜本的な物流効率化支援策を講ずることとした。
本法は、中小企業の物流問題を初めて正面から捉え、その効率化を手厚く支援する、極めて有意義かつ画期的な法律と言えます。
中小企業流通業務効率化促進法(中小企業物流効率化法)による画期的な支援策は以下の通り。
- 効率化のための補助金を用意(構想段階から事業実施まで手厚い支援を行う)
第一段階 調査研究補助金 980万円
第二段階 システム設計 2,700万円
第三段階 モデル実験事業 4,000万円
- 高度化融資の優遇
特に、荷受けから、保管、流通加工、出荷までの業務をコンピュータを利用して効率的に処理するための共同物流センターの設置については無利子融資が可能。
『融資条件』
融資比率:必要資金の65%から80%まで(限度額なしで2年据え置き15年返済)
『共同物流センターの減税措置』
・特別償却が認められる(初年度8%の原価償却率上乗せ)
・特別土地保有税、事業所税が減免される。
自治体・協同組合で高い関心
法律が施行されてからほぼ1年で認定第1号認可がおりる見通しとなり、中小企業庁取引流通課によれば、自治体・協組の熱心な取り組みが多いという。
茨城、栃木、長野、山梨、石川、和歌山、広島、徳島の8県が取り組みを開始した。
「調査研究事業」として10協組、「システム設計事業」として5協組、「モデル実験事業」として2協組が助成を受けている。
「中小企業流通業務効率化促進法」(中小企業物流効率化法)は業種を問わず流通業務に携わる中小事業者が対象。小売店に納品する卸売業者、親会社に納品する下請け企業、トラック事業者などさまざまな中小企業による共同事業が考えられている。卸団地を中心に全国50余りの協同組合で事業化の動きがあるという。
「中小企業流通業務効率化促進法」施行時のエピソ-ド
(1) この法律を企画、作成した中小企業庁指導部取引流通課の責任者であった成田課長によると、平成4年5月時点において我が国の法律用語には「物流」という用語は存在せず、正式名称は「流通業務効率化」に決定され、かっこ付で「物流効率化法」が付加された、という。
(2) 筆者としては1980(昭和55)年に我が国で初めて全日本トラック協会から物流情報システムが推薦を受け、1984(昭和59)年には首都圏の100社の顧客を組織化した「物流情報システム研究会」を立ち上げ、記念式典には当時の運輸省(現国土交通省)情報処理課長の高橋克彦氏が来賓としてご参加いただき、以来10年以上で物流業界の歴史的転換点に遭遇し、物流効率化法の認定第1号、第4号のシステム立ち上げに関与し、その後も1996(平成8)年沖縄県初の総合物流センターを立ち上げ、多少とも物流業界の近代化に貢献できたのではないかと、感慨深いものがある。
認定組合と事業内容
(1)認定第一号(1994年)茨城県土浦総合流通センタ-(卸団地)
組合形態:流通団地型組合
組合員:33社(共同輸送参加22社)
業種:日曜雑貨、食品、薬品、他
物流センター:500坪(組合所有地)
実験事業補助金:4000万円(1993年)
概要:①JANコードによるバーコードシステムで客先での検品レスを実現。
②コース別定時輸送の実施
総事業費:3.8億円(15年返済)
特徴:異業種卸売業による物流効率化
効率化の狙い:地方卸売業者の生き残り戦略、共同物流によるコストダウン、ローコスト・オペレーション、商物分離による営業力強化(配送業務からの解放)、リテールサポートの展開、品揃え機能強化、受発注オンライン(EDI)、クイックレスポンス
事業開始1994年1月認定、2月センター着工(鉄筋2階建て)6月完成・稼働
(2)認定第二号(1994年)北海道(協)ニイチ物流センター
組合形態:異業種6社の組合
組合員:6社
業種:贈答品卸、茶製造卸、米穀卸、そば製造、他
物流センター:敷地33,789㎡、建物8,214㎡(2階)
総事業費:14.3億円(15年返済)
特徴:異業種による物流効率化で商品配送、保管、流通加工等の物流コスト削減が実現。配送の一元化・迅速化。組合員間の情報共有によるビジネスチャンス拡大。
事業開始:1994年6月認定、5月センター着工、1995年2月完成・稼働
(3)認定第三号(1994年)(協)八戸総合卸センター
組合形態:卸商業団地組合
組合員数:組合員54社
特徴:共同物流センターで保管、仕分け、物流加工及び検品を行い小売店等に共同配送している。
成果:①積載率の向上(80%以上)による車両の削減
②多頻度小口配送、値札付け作業等の高度な物流内容達成
③機械化、電算化による作業効率化、労働力不足の解消対応
(4)認定第四号(1994年)(協)テクノポート総合物流
組合形態:卸・小売り・運輸の異業種共同物流組合による物流団地
組合員数:18社
特徴:同一団地内に卸協同物流センター、小売物流センター、運輸車庫配送センターを配置。
成果:卸・小売り・運輸のセンターとして集約によりメーカーからの物流が集積され必要な物流量を確保して、保管、仕分け、包装、流通加工、配送が効率化。荷役機器、コンピュータによるコスト削減と更なる効率向上を達成。
総事業費:24億円
高度化資金:無利子・15年返済
事業開始:1996年3月着工、1996年9月稼働
(5)認定第五号(1995年)(協)有村総合物流
組合形態:有村産業㈱(海運業)を中核とするありむら産業グループの組織
組合員数:6社
特徴:海運・陸運・航空・港運・倉庫・流通ネットワークの陸海空全ての物流業務に携わっており、沖縄県の物流センター稼働でこれらを有機的且効率的に繋げた複合輸送体系を確立した。
成果:自動倉庫、昇降機、垂直搬送機、パレタイザー等で出荷作業・流通加工業務の迅速化、効率化を図り物流と情報が一体化した付加価値サービスを提供。
物流センター:敷地面積6,120㎡、建物11,500㎡・4階建
総事業費:17億円
高度化資金:2年据え置き・15年返済
事業開始:1995年5月着工、1996年3月稼働
その後の経緯
2005(平成17)年10月に施行された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」(物流総合効率化法)は、高速道路や港湾など社会資本と連携した物流施設を起点に共同輸配送による配送ネットワークの合理化または輸配送・保管・荷捌き・流通加工などの各種業務を一体的に行い物流の効率化を図るもの。個別ケースに大臣認定し、許認可や税制、資金調達の面から物流会社を支援する。3PL市場への参入を強く後押しすると同時に、拠点整備に重点を置く法律となっている。
1992(平成4)年に制定された「中小企業流通業務効率化促進法」(「中小物流法))は中小企業の振興を図るとともに物資の流通の円滑化に資することを目的に制定されたがその後、環境問題が大きな政策課題となり運輸部門のCO2排出量は「地球温暖化対策推進大綱」に掲げられた削減目標を大きく上回っている。
また流通・物流業務の効率化を促進することによる国際競争力の強化及び消費者の利益確保を目的に中小物流法については、施策の骨太化、利用者にとっての分かりやすさ等の観点からこれを廃止し、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(新法)」に統合することとした。
この記事の作者
田中 憲忠
有限会社セントラル流通研究所