物流回想録<続々14回>ロジスティクス今昔
物流は社会生活の基盤である
物流は昔から社会生活に密着して存在していた。それは運送・保管等の用語で表され、主として生産現場・倉庫や工場、建設現場で用いられ、永年補助的な役割を担う存在として認識されていた。ようやく三十数年前に「物流」という用語が使われるようになった。それまでの物流という仕事に対する一般的なイメージとして言われていたのは、きつい、危険、汚い、いわゆる3Kと表現され、敬遠される仕事として考えられてきた。企業内でも営業も経理もできなければ倉庫係でもさせれば、という差別的な取り扱いが普通に行われていた。
現在も運送業界ではドライバーの平均賃金は他の業界平均と比較して20%以上の低い賃金に加えて、長時間労働が問題で、国内全体で深刻なドライバー不足の状態が永年続いており、労働時間短縮に向けた国の対応が問題になっている。「2024年問題」である。
近年、EC通販の成長が著しく多頻度少量輸送が激増し、1990年度の宅配個数が10億個であったが2000年にアマゾンが参入して25億個に増え、2023年には50億個に到達する見込みであり、そのうちの2割が再配達の対象になっている状況である。宅配便要員の不足が目立っている。ドライバー一人の1日の配送個数が増加してオーバーフロー気味に加え、受取人不在による再配達対応で深夜までかかることもあるという。再配達を有料にする制度の確立が望まれている。宅配便を利用する消費者の協力が必須であろう。
物流業界を取り巻く環境は厳しく、現在の国内トラック運送事業者約6万3千社のうち、半数以上が赤字経営に苦しんでいる状態である。それでも、1976年にヤマト運輸が開始した「宅配便」(宅急便)が第二次大戦後の物流業界に画期的な「物流革新」をもたらし、業界全体のレベル・アップに貢献し近代化を実現するとともに、通信販売業界の発展を支えるインフラとして力を発揮しており、更にコロナ禍の渦中でもEC通販の売上拡大に寄与し、国内経済の発展に貢献している。
更に、物流に温度管理の概念を取り入れた「クール宅配便」の開発により今まで難しかった「生鮮食料品」の輸送が可能になった。産地直送による取れたてのおいしい食料品が直に家庭の食卓をにぎわす、正に「離れ業」が実現した。このシステムは今や社会生活を営む上での重要なインフラになった「コンビニ」を支える重要な役割を形成している。日本を飛び出して世界に大きく羽ばたく「日本のコンビニ文化」は「三温度帯物流」という他の国々ではマネできない、強力なシステムの支えが大きい。国内ではコロナ禍の影響で、外食もままならない状況が続いたが、家庭に食事を宅配する「宅食便」の利用者が特に高齢者所帯に多く支持され業績を伸ばしている業者が目立つようになった。
企業内物流の近代化・合理化の取組
わが国の企業内物流の担い手は、大企業に於いて、その多くは物流子会社が担ってきた。戦後の混乱から復興を遂げた重厚長大産業の担い手として鉄鋼・金属・非鉄金属、石炭等の大型・重量品の輸送・保管をはじめとする基幹物流の中軸を物流子会社が担当した。重量物・危険物を処理する職場は、永年、力のある男の典型的な仕事であった。
そんな中で新しい取組として登場したのが、「戦略物流」という考え方による物流システムである。開発したのはカネボウ化粧品・カネボウ食品の物流子会社であるカネボウ物流㈱であった。親会社の製品の化粧品・食品に関する物流の近代化・合理化の為のシステム開発で効果を発揮した事例を基本に、他の一般企業でも利用可能なシステムを構築し、戦略物流システムとして販売を開始した。
そのシステムが「カネボウ・トータル輸送管理システム」である。輸送会社(路線業者・貸切業者・宅配業者等)とコンピュータ・オンラインで接続し、
① 最も安い運賃の検索による最適輸送手段の選択が可能
② 運賃計算及び運賃管理の自動化
③ 統一した荷札・送り状の発行(西濃・佐川・第一貨物が了解し、カネボウ用の独自送り状番号を制定・運用)
④ 貨物追跡情報・検索(未着照会・異常情報問い合わせ)、朝、電源を入れると、昨日までの未着情報が表示される。
⑤ 運賃分析統計資料等が作成される。
メリットは次の点にある。
- 輸送コスト削減
- 貨物追跡が可能となり、未着照会、異常情報検索
- 統一送り状・荷札の発行により路線・区域を問わず一種類の様式になったため自動化され出荷現場の省力化メリットが大きく、運送会社側も入力の手間がなくなり合理化の効果が大きい。
- 最適輸送手段の選択システムで発着地・個数・重量を入力するだけで、所要日数と最も安い運賃がわかり適切な輸送手段が選択できる。カネボウ物流では新人の女性2名で処理している。
全日本トラック協会の会館を借用して、システムの発表会が行われ物流業者及び一般荷主企業の30社以上の参加を得て、好評に終始した。その後も広く普及活動が行われた業界のIT化に貢献した。
現在の物流業界の動向
コロナ禍の厳しい試練を乗り越えて、EC通販業界が好調に成長をしている。その中心を占めるのがアマゾンの存在である。20数年前に書籍の通販からスタートし、今や世界一の通販業者としてだけではなく、情報システム業界大手(GAFA)としてアマゾン全体の利益の50%近くを占めるのに加えて生鮮食料品の配送(アマゾン・フレッシュ)や航空機を40機を擁する航空貨物輸送等のロジステイクス・カンパニーとして、「物流革命」を先導する存在であり、物流センターを受注から配送まで一貫した運用を図るフルフィルメント・センターとし、更に貨物の保管・移動・ピッキング・梱包までロボットによる無人倉庫化を実現しローコスト・オペレーションで利益を挙げ、戦略の中心として、競合他社に差別化を実現している。
「世界で最も顧客に奉仕する」という理念、物流戦略を成功させ、物流に対する考え方を革新して付加価値を創造する主役が物流であることを実証してみせた。
こらからの物流を展望する
冒頭に述べたように、物流は社会生活に密着しているので、人々の物流サービスに対するコスト負担増を受け入れる考え方が普及しない限り、宅配便における人手不足の解消は難しいと考えられる。物流サービスが付加価値の源泉であるという考え方が広がることが重要である。
因みに、物流業は儲からないといわれる中で、物流ノウハウを結集した総合物流受託サービス(サードパーティー・ロジステイクス=3PL)を実行している企業は生産性も高く付加価値を付けた物流サービスを提供することで顧客ニ―ズを満足させる事業により、業界平均を大幅に上回る売り上げ・利益を獲得している。社員のドライバーの賃金も平均以上で、大学卒業生も毎年数百名単位で入社しており、離職率は低い。
近年、大手不動産業者が展開している、物流センターを軸に、物流プラットフォーム事業として、地域開発事業に組み込んで、倉庫・商店・工場・公園等が一体となった街づくりで、大阪市や千葉県流山市などで活性化を図る事業が展開されている。災害発生時の避難所としての役割も果たせる仕組みも整っている。サプライ・チェーンの要としての役割も果たせる施設になっている。
社会の安心・安全で便利・快適な生活にますます物流が重要性を高めてくると考えられる。
この記事の作者
田中 憲忠
有限会社セントラル流通研究所