物流回想録<続々16回>安心・安全の物流を目指して
物流は止められない
日常生活で「物流」が止まることは殆どないことは幸せである。30分でも、一時間でもモノが不足すると生活が乱され混乱する。
通常、事業活動は計画に基づいて実施されているので予定が狂うことは許されない。しかし我が国のような火山国は常に噴火や地震災害が発生しているので自然災害を含めた災害対策を考えて行動することが要請される。
物流の問題に絞って考えると、自然災害に関しては多くの場合社会インフラとしての鉄道・道路・港湾・橋・河川などへの災害が該当し、一般的に見て被害も大きく、復旧に時間が掛かることが多い。社会生活全般にダメージが及び、国や地方自治体等も「災害対策本部」を設置して、復旧に関与することになる。
阪神淡路大震災や東日本大震災のような大規模災害では、国全体での対応が必須であり、単なる対策ではなく根本的な国の在り方まで考慮がなされることになる。過去に発生した100年単位の大災害の教訓を参考にした対応策が求められる。
中でも最も重要なことは、「事前対策」であろう、過去に発生した災害に関する多くの情報とデ-タを集めて、出来る限りの予防対策を用意し、「想定外」にならないよう衆知を結集することが重要になる。
リスク管理(リスク・マネジメント)
事業体としてはリスクを組織的に管理(マネジメント)し、損失等の回避又は低減をはかることが要請される。企業が経営を行っていく上で障壁となるリスク及びそのリスクが及ぼす影響を正確に把握し事前に対策を講じることで危機発生を回避するとともに危機発生時の損失を極小化するための経営管理手法をいう。
危機事象が発生しても重要な事業を中断させないか、または中断したとしても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順などを示した事業継続計画(ビジネス・コンテニュイテイ・プラン=BCP)を策定しておくことが必要である。
将来の予測が困難な時代に入り、多様化するリスクをいかに見出し、分析し対応するかが問われている。ここ数年にわたるコロナ・ウイルスの感染大流行による影響により大規模集会の消滅や会合自粛、会社出勤日の削減によるリモート勤務等かつてない働き方への対応等が求められ新しい仕事のやり方が模索されている。会議や打ち合わせなども事務所に集まって行うだけではなく、リモート開催により、出社する移動時間をなくす方法もとられている。
本社事務所も省スペースにより小規模事務所へ移転したり、都心から離れた地方へ移転する事例も増えている。混雑する電車による出勤の苦労がなくなることは省エネとも絡んで喜ばしい。
一方で、事業を取り巻くサプライチェーン環境はますます広く深く激動している。気候変動による自然災害の多発化・激甚化等による災害時におけるサプライチェーンの混乱を示す事例が増加している。
部品や資材の購入先に被害が発生して納品に支障が発生しても、間髪を入れずに代替品が納入できるよう調達先の複数化、共通部品化の検討等常日頃から組織体制を考え準備しておくことが望まれる。
今までのような在庫を持たない、ジャストインタイム経営を継続するのか問われている。拡大する取引の輪が広がることで一層複雑化するサプラチェーンに対応するリスク管理が求められる。新しく策定されたシステムの情報共有も怠りなく実施することが肝要。
多様化するリスク管理も少子高齢化による人員不足に対応し、AI(人工知能)を活用した生産性向上によるデジタル社会への対応が必要であり、働く人たちのリスキリング(学び直し)も必要になる。
地政学リスクの高まりは、事業環境の不安定化につながり昨年、自動車産業では、米国と中国による輸出規制等による世界的な半導体の部品不足によるサプライチェーンの混乱から製造遅延による納車遅れが半年以上続くなどの影響が出る等の過去に経験したことがないような、多様なリスクが発生することを考慮にいれた対策を講じることが望まれる。我が国企業も海外進出が通常化しており、工場建設や進出先国でのM&A等でグロ-バル化が進展しているので災害の危険だけではなく、政治的なリスク管理も重要な要件になっている。
阪神淡路大震災・東日本大震災等の地震や津波、国内各地で発生した豪雨災害等により引き起こされるサプライチェーンの分断による物流の混乱は社会インフラの破壊による大規模で長期にわたる被害になるためリスク対策も広範囲に及ぶ。組織として、いつ災害が発生しても即対応可能な組織体制が出来ていることと同時に避難訓練等を実施し危機情報ネットワークを整備して全社で漏れが無いように準備することで被害が最小限にとどめることが可能になる。
実際に、阪神淡路大震災と東日本大震災の発生時に効果を上げた事例を参考にしてこれからの災害対策の参考にしてほしい。
日本IBMが実施したリスク管理調査
約2,000社を対象に2回にわたってのコンピュータの障害復旧とメンテナンスに関するを行ったリスク管理の調査結果である。
この記事の作者
田中 憲忠
有限会社セントラル流通研究所