物流回想録<続々17回>物流インフラの変遷
物流と文明
物流は文明の進歩・発展とともに進展したと考えられている。我が国では江戸時代の昔から、農業生産に基礎をおく経済システムであり国の生産力は米の生産量(石高)として把握され各地の大名は米の増産に努力した。周囲を海で囲まれた我が国は昔から海上交通、海運が普及しており、特に流通経済が発展した江戸時代を支えた、菱垣廻船・樽廻船等による廻船航路の整備拡大と近距離輸送を担う、河川舟運輸送及び街道整備による陸上物資輸送が存在した。その移動は主として「千石船」に代表される海上輸送が中心であった。陸上では「塩の道」や「鯖街道」が有名であるが輸送量は船に較べて圧倒的に少なかった。
江戸時代の物流インフラとしては、1671年から山形県の酒田から東廻りで江戸への御蔵米の輸送を廻送する廻船航路を開発し、翌年西廻り航路も酒田から能登、下関、大阪経由下田、江戸までの交通施設整備や交通管理が実現した。明治時代に入ると、近代的な交通・運輸・通信と鉱工業生産が中心になり必要な社会資本の整備・充実が急がれた。中央集権を促進する方策の一つが、鉄道交通による全国市場の統一が必要とされた。同時に、公共土木工事の全国的な整備・拡充による道路や橋梁の進展は、自動車の登場による貨物輸送の発展につながっている。現在では巨大な輸送力と全国ネットワークを有する鉄道輸送は長距離輸送を担当し、融通が利く近距離輸送にはトラック輸送に役割が分かれている。輸送量全体としては9:1の割合で圧倒的にトラック輸送が占めている。
経済社会を発展させ人々の生活を豊かに便利にする物流インフラの整備は重要であり必要とされるが、長期にわたるシステムの運用は社会の変化とともに設備の老朽化による補修が必要となりそのコストが大きな負担となって跳ね返ってくるのも事実である。
鉄道輸送インフラの問題
鉄道輸送する貨物の変化による輸送方法の変更、使われなくなった線路の更改や路線の廃棄等に多額の費用が必要になり人員輸送の面では上場JR4社のうちJR九州だけが黒字経営で残りの3社は利用者減少による赤字経営で路線廃止が相次ぎ、公共輸送としての役割が完全には果たせなくなりつつあるという問題に直面している。
道路輸送でも開通した高速道路のメンテナンスで、当初計画された利用料金の無償化は実現せず、利用者と国の財政負担は大きい。
鉄道開始から150年経過し、人口減少も進み地方の過疎化による利用者が減少し運賃利用料が大きく減少し鉄道輸送に必要な設備(駅や線路)の維持が困難になり廃線、廃車の危機が到来。鉄道インフラは縮小の方向にむかい、今後はバス輸送等の代替輸送に頼らざるを得なくなる状況になりつつある。
航空インフラの動向
低迷する鉄道輸送に変わって航空輸送の将来は明るい兆候がある。
鉄道輸送市場規模 現在 3兆8016億円
2028年予測 3兆4734億円
縮小率 -8.63 %
航空輸送国内市場規模 現在 1兆3726億円
2028年予測 1兆4486億円
増加率 +5.54%
総合物流グループ 現在 18兆808億円
(トラック他) 2028年予測 18兆6703億円
増加率 +3.26%
2019年からのコロナ禍による世界的なパンデミックの影響による景気後退から2021年には回復し、以後市場は拡大傾向にある。航空貨物輸送は地政学上のリスクを受けやすいため、地域によってバラツキが発生しやすい。世界的なグローバリゼーションの広がりにより全体としては上述のように今後5年間の航空貨物輸送市場増加予測では+5.54%の増加が見込まれている。
空港民営化の動き
世界の航空貨物輸送市場規模は2023年が21兆4155億円から2028年には28兆5450億円へ増加すると予測されている。しかしヨーロッパ各国を中心として中東・アジアを含めて空をめぐる競争は厳しく、パンデミックの影響もあって黒字確保は容易ではない。各国とも運航の効率化とともに、空港インフラの効率的運営に力を入れている。その一つとして、空港の民営化の実現があげられる。
世界の空港民営化は、もともと1986年にイギリスの35空港のうち33空港が民営化により着陸料を大幅に引き下げることに成功して世界的な流れが出来上がった。行政側もニーズとして
1 行政のスリム化
2 売却・リース等による巨額の歳入、税金収入
3 優れたサービスの提供
というメリットが生まれ、民間側のニーズとしては成長産業への参入が可能になり、空港経営はインフラ機能を使った独占事業であり魅力が大きい。国管理の空港は、着陸料など使用量を国がほぼ一律に決め、滑走路は国、空港ビルは地元自治体出資の第三セクタ-会社が所有している。これを民営化することで、空港ビルの物販収入などを使い、着陸料を下げるなど様々な工夫で可能になり就航路線の拡大などが期待できる。設備の初期投資が必要ないことも民間が参入しやすい。
わが国でも2013年施行の「民営空港運営法」を制定し空港の民営化の枠組みにより、滑走路などの所有権を国に残し、運営権を民間会社に与える、「コンセッション方式」による民営化を実施した。施設への所有権を移転せずに民間事業者にインフラの事業運営に関する権利を(20~30年間)長期間にわたって付与する方式である。
他に、民営化の形態には
1 株式公開・・・・・・・欧州、中国、東南アジア
2 売却・・・・‥・・・欧州、豪州
3 コンセッション・・・日本、中南米、インド等
4 プロジェクト・アライアンス
(民間企業が建設、経営し、一定期間後に所有権が政府に戻る)
5 経営委託
(政府が空港を所有、空港の経営責任は民間企業が負う)
等が存在する。
日本の空港民営化実績
①2016年 関西空港・伊丹空港、(+神戸空港・2018年)
受託者 オリックス(40%)、VINCI空港公団(フランス)(40%)(新幹線の開拓・LCCの誘致担当)期間 44年間 支払総額 2兆2千億円(年間490億円)支払先 新関空会社(国100%所有)に支払う関空の整備費 1兆円 (借金の解消)
②2016年 仙台空港
受託者 東急、前田建設 期間 30年間 支払総額 660億円 設備投資 341.8億円
2018年以降
順次民営化 高松空港、福岡空港、南紀白浜空港北海道内7空港、熊本空港、広島空港
世界の民営化実績
イギリスは35空港、フランスは25空港、オーストラリアは2空港、アメリカは空港民営化は進んでいないが、公社・公団方式による地方政府が運営する方式。アメリカは1996年に空港民営化プログラムを制定し10空港の民営化を図ったが停滞。
有料高速道路の民営化
カナダトロント市の有料高速道路(108Km)、オンタリオハイウエイ407ETR、スペインの建設会社フェロビアル社が運営している。ちなみに欧米では下水道施設等の社会インフラに関わる各種の民営化が進められている。
この記事の作者
田中 憲忠
有限会社セントラル流通研究所