物流塾

物流業界におけるAI活用の方向性

生成AIが流行し始めてから数年が経過し、人々の期待と不安は年々大きくなっています。ガートナーのハイプ・サイクルによれば、現在は「ピーク期」と「幻滅期」の間にあるのかもしれません。

 

https://www.gartner.co.jp/ja/research/methodologies/gartner-hype-cycle

私は、AI開発スタートアップの一員として、物流業界をはじめとする多くの企業にAIの開発と導入を支援しています。物流事業者の多くは、「今後はAIの活用が必須になる」と述べています。

しかし、一方で「社内のデータが十分か?」や「投資の回収が見込めるのか?」といった不安を抱える声も少なくありません。本コラムでは、物流業界におけるAI活用の方向性に焦点を当てます。

1.物流におけるAI活用の可能性

現代の物流業界は、数多くの課題を抱えています。これらは、調達、生産、販売、回収といった各物流段階で異なる形で現れます。

特に、市場の不確実性、業務効率の向上、サステナビリティの追求といった多岐にわたる問題が存在します。

 

調達物流・生産物流の課題

・市場の不確実性

為替の変動や景気の波がビジネスに直接的な影響を与えることが増えています。

特に、近年は原材料費の高騰が顕著であり、これが製品コストへの影響として顕在化しています。

・業務効率

輸入時の通関手続きなど、多くの手順が煩雑で時間を要するため、これらのプロセスの効率化が急務とされています。

・サステナビリティ

環境保護や社会的責任を考慮した資源の調達が必要とされ、ムダのない調達や生産プロセスの実現が求められています。

 

販売物流の課題

・人為的ミス

アナログ管理によるミスは現場で頻繁に発生しており、誤ピッキングや出荷時の伝票の貼り付けミスなどが挙げられます。

・慢性的な人手不足

帝国データバンクが報告する『特別企画:人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)』によると、人手不足の割合は過去最高に達しており、物流業界においてもこの問題は深刻です。

・在庫の過不足問題

倉庫での適正在庫の維持は極めて重要ですが、多くの場合、需要予測が不正確であるため、在庫不足や過剰在庫のリスクが生じています。

2.AI/生成AIとは

AI(人工知能)は、データを基にして学習し、意思決定を支援する技術です。このプロセスでは、「学習データ」と呼ばれる情報を用いて、機械学習モデルの訓練およびチューニングが行われます。学習データとは、モデルの効率的な訓練に必要な情報のことです。AIは、学習と予測の繰り返しを通じて自身の予測精度を向上させています。

生成AIは、データを基にして新たなテキストや画像を自動生成する能力を有しており、複雑な問題解決や創造的なタスクに適しています。

この技術は物流業界においても重要であり、需要予測の精度向上や業務プロセスの自動化といった多方面での活用が期待されています。

3.物流業界におけるAI活用の方向性

AI技術の進展により、物流業界における様々な革新が進められています。具体的な活用方向性を、「画像系・管理システム系・予測/最適化系・バックオフィス系」4つのカテゴリに分けて、以下に示します。

 

画像系

・外観検査や異常検知

AIを用いて製品の外観を自動で検査し、異常内容及び異常箇所を識別します。

生産ラインにおける品質向上に繋がります。

・良品と不良品の自動判定

製品をAIがスキャンし、品質基準に基づいて良否を自動判定します。

・製品の自動分類

AIによる画像認識技術を用いて、製品をカテゴリごとに自動で分類します。製品画像と社内データの自動連携及び、作業員の確認作業を効率化します。

管理システム系

・倉庫管理/ 生産管理システム

AIを活用して倉庫内の物品の配置や生産ラインの効率化を図ります。需要予測等と連携することで、より高度な分析及び業務品質向上を図ります。

・貿易データ管理システム

輸出入のデータ管理をAIが支援し、部署やグループ間の情報管理を一元化します。

属人化されつつある貿易データの活用を行い、作業管理や案件進捗を可視化します。

予測/最適化系

・需要予測

AIが市場データや季節変動などを分析し、将来の需要を予測します。

輸送システムや在庫システムと連携することで、各担当者のアクションをレコメンドすることも可能です。

・ピッキングルートの最適化

AIが倉庫内のピッキングルートを分析し、作業員の動線を最適化します。

・部品調達の最適化

AIが供給チェーンを分析し、コストと効率のバランスを取りながら部品調達の最適化を図ります。

バックオフィス系

・発注書や請求書のOCR処理

AIが書類をスキャンし、テキストデータを自動で抽出してデータベースに登録します。

・紙帳票のデータ自動連携

紙の帳票からデータを抽出し、関連システムへの自動入力を実現します。

・顧客対応用のChatBot

AIが顧客からの問い合わせに自動で応答し、対応を効率化します。

具体的なAI活用事例と効果

AI導入により、一部の物流会社では人為的ミスが30%削減され、在庫コストの20%削減が達成されました。また、AIによるピッキングルートの最適化で、作業効率が15%向上するなど、具体的な効果が表れています。これらの成果は、物流業界におけるAIのさらなる活用への道を示しており、持続可能なビジネスモデルへの転換を促進する技術として、今後も注目されるでしょう。

 

この記事の作者
コラム記事のライター
平野 佑樹

株式会社QuackShift

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