物流塾

続々々々々続物流回顧録:物流海外視察の効果

だいぶ以前のことで恐縮ですが筆者が所属する情報システムを販売する会社が、我が国で唯一、全日本トラック協会の推薦を受けた「物流情報システム」を開発販売しており、1984年に首都圏で100社を超える顧客を獲得した機会に、ユーザー会を結成して、会員のシステム効率向上と親睦を兼ねて研究会を開催しておりました。1985年、米国に於いて運送業界に向けて、規制緩和が施行され、1年間で3,000社以上の事業者が倒産する事態が発生しました。国内の運送業関係者や学識経験者等に理由を尋ねましたが、明確な回答は得られませんでした。なぜ、米国のトラック運送業者が「規制緩和」で多数の倒産が発生したのか原因究明と米国の先進的な物流情報システムの動向や発展している運送事業者を訪問し、今後の運送事業者の経営の在り方を研究するために、「物流情報視察団」を結成して、全米トラック協会をはじめとする代表的な物流事業者から直接考え方や意見を聞くチャンスを設けることにしました。視察に参加した運送事業者14社はトラック輸送が殆どであり、他の物流サ-ビス提供は無かった。

 全米トラック協会の説明によれば、規制緩和により競争が激化し、トラック運賃が低下し赤字の運送業者が続出し3,000社以上が倒産したということであった。同時に訪問した先進的な運送事業社は輸送だけではなく、保菅、梱包、据え付け作業等さまざまな物流サ-ビスを総合的に提供して競争力を高め拡大・発展をはかっていることがわかった。

 視察後1年を経過した時点で判明したことは、業態転換した2社を除いて12社全てが倉庫建設や保管施設を保有したことである。帰国後各社ともお互いに話し合いをしていないにも関わらず、貨物の確保の重要性を感じて業態を拡大する行動を取っていたのである。

 1991年には我が国も米国と同じく規制緩和が実施され、競争激化による運賃低下が問題になった。視察参加企業に於ける危機管理が功を奏したと考えられ、その後の発展と安定経営の推進に役だったように思える。その後の成果の一端を紹介すると以下の通りである。

その1

 東京都港区に本社をおく、M社は創業90年を超える老舗運送業であり関東地区を中心に食品輸送、家具輸送を得意とする事業を展開している。

 視察後に注目される輸送として実現したのは、有名百貨店が販売するスープ缶詰の共同配送を実現したことである。従来、百貨店各社は自社の食品売り場に著名なホテルブランドのスープ缶詰を個別に調達し、売り場に並べて販売していた。著名ホテルはそれぞれの百貨店の本支店の売り場に配送を行っていた。そこでM社は著名3社のホテルブランドのスープ缶詰をM社の物流センターで預かり共同配送することを提案して実現にこぎつけた。当初は各ホテルともプライドが高く、競合する相手と共同輸送することに難色を示していたが、物流コスト削減のメリットを根気よく進言しネバリ勝ちの形で了解を得ることができた。令和4年の現在もこのシステムは有効に活用され続けている。それまでM社は倉庫を保有していたが、個別荷主の貨物保管と輸送だけで、共同配送のための物流センターとしての機能はなかった。海外視察に刺激されて新しい挑戦が功を奏したと思われる。

その2

 

 N社は福岡県に本社を置く農産物の輸送を得意とする輸送業者である。群馬県で生産された高原野菜を中心に福岡中央卸売市場に向けて生鮮品輸送を行っていた。以前は、翌日行われるセリ取引に間に合うよう前日夕方に野菜を積み約10時間の時間をかけて翌日早朝に市場に納入していた。セリ前日の夕方、トラックに積み込んだ野菜類の品名・規格・等級・数量等の情報をFaxでM社の福岡本社へ送信し、翌朝送信されたFaxに記載された情報によりセリを実施してもらい、トラックが市場に到着後にセリの結果に基づいて貨物の振り分けをおこない、個別配送する方式に変更することになった。これまでは異常気象による影響や渋滞事故などの道路状況により度々セリの開始までにトラックが到着できず、市場関係者に迷惑をかけることがあった。もともとセリ取引は仲買人がセリを行う現場で事前に現品を確認してからセリを実施していたが、新方式ではM社の責任者がトラックに積み込み時に、仲買人と同じレベルで、品質を確認した野菜が輸送され納入されることを、市場関係者全体で情報共有されることで初めて可能になった。まだ現在のようにインターネットも普及しておらず、出来るだけコストをかけずネットワークシステムを構築・運用する手法としてはFaxの活用が最も効果的な手段であった。福岡県中央卸売市場では成功したが全国の他の市場には広がらなかった。輸送業者が仲卸業者と同レベルの品質評価能力を発揮する事の難しさと、市場関係者の取引慣行を変えることへの不安と抵抗が存在しているものと考えられる。

 令和4年現在、M社は冷蔵倉庫を保有し、冷凍倉庫業務も行っており、また近年は生鮮野菜販売に進出するなど業態を拡大させている。物流業に加えて食品販売業として今後の更なる発展が期待される。

 

この記事の作者
コラム記事のライター
田中 憲忠

有限会社セントラル流通研究所

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