物流塾

投資意欲再燃で物流企業は買いか

 岸田政策の新資本主義社会実現の骨太方針で、資産所得倍増方針が出された。給与所得が最低賃金上昇すら公約できないからだ。全世帯民間貯蓄1600兆円のおよそ6割1000兆円が現金預金となっている。タンス現金貯金、銀行定期預金から株式投資へ転換させようという目論見である。目的には景気浮揚策としての企業の投資喚起であり、日本独特の溜め込み習性からの離別であって、決して悪いことではない。

 しかし株式投資をするなら、証券会社の情報信用度を上げねばならない。企業も正直な業績開示をするように、公認会計士もきちんと指導しなくてはならない。

 毎年毎年、いい加減な経営状態が報じられ、それを見過ごしていた監査法人や知っていても隠していた証券会社などがやっぱり株屋だったかと悪口の対象ではよろしくない。

 更に、ではどんな株式投資をどの企業に向けたら良いのをガイドするための信頼度や信用度の問題がある。脱税 粉飾決算 経営者の怠慢 新興企業の寿命の短さや経営赤字でも株式の公開が許される公開基準の曖昧さもリスクを踏みそうで怖い怖い。決してうかつに呼び込みに応じてしまうのは、自己責任とはいえ投資ビギナーにはリスクが高すぎる。

 証券市場の基礎知識を学んでから、様々な情報を獲得して自己判断による意思決定が欠かせない。言われたまま、進められたままでの投資で勝ち目はなく、資産所得倍増どころか、自己破産の方があるかに現実的なのだ。

物流企業は投資の対象か

 物流企業は買いか売りか、よく知っている業界だから、情報収集も容易であろう。投資候補に上がるのも当然だが、公開企業の業績はどこもそこそこであり、まず企業数がビックルするほど少ないことに気づくだろう。

 物流業界ポストには、航空海運倉庫運輸が並ぶが、企業業績は景気動向にもろに左右されており、独自の経営を行っているとは言い難い。

 資産デフレによる原油高騰から運賃は高止まりしており、海運では輸送コンテナの手配がつかずに船が遊休化しながらも運賃が倍増して、結果的に海運企業は最高益を稼ぎ出している。ならば投資先として「買い」一択とも見えるが、そうではない。景気動向に揺すぶられる業界は他にも多く、日本では内需が最大産業となっているために、消費財動向が景気と直結している。資源価格が高騰すると業績が上がるのは、資源消費産業であるから電気ガス石油元売などが好業績になるのは自然の成り行きである。

 物流企業は人手不足と原料高騰よって、物流料金への転換が進めば「買い」産業となるのだが、荷主様のご意向には逆らえずに値上げコストを自社で急せざるを得ずに青息吐息の状態である。「売り」一択のはずである。 

 注意しなくてならないのは、物流企業のセグメント構造である。どのような事業を手掛けているのか、それぞれの事業からの収益構造はどうなっているかを知る必要がある。

 財閥系倉庫企業は、物流事業ではなく、貸ビル業で多くの収益を獲得している。いわば不動産業とも言えるのだ。低金利化にあっての不動産業は「買い」一択である。借りて建てて貸す、という事業構造ではよほどのことがない限り、イールドギャップがプラスであり、時間とともに収益が上がる構造がビジネスモデルなのだ。

物流企業はトランスフォーメーションなりうるか

 物流活動は専業者であれ、自営物流であれ、本業の手段である。物流によって本業が大きく転換しているのは、EC通販のように店舗コストを低減して、店舗顧客の数倍の顧客にアプローチしている小売の大転換、いわばトランスフォーメーションの成功モデルと言えるだろう。

 このような、物流が企業のトランスフォーメーション足りうるかどうか、そのような物流のソリューション開発ができる企業が登場するかどうか、ソリューションとして物流を実装できるかどうかが今後の企業業績を全く左右するに違いない。

 「数えます、運びます、早くします、安くします」を売り物にしては、自己都合もどこにもなく、ただ疲弊するだろう。「確実に売れるものだけを作り、届け、完全燃焼消費させる」これこそが、資源の有効活用であり、事業継続性の高いビジネスとなりうる。

 消費大国の日本では、毎年100万人の労働者が産業から流出することとなり、同時に100万人の消費者が小売店から消えてゆく。地方のコンビニは毎年5000店舗が無用となり消滅する。

 自治体も単独では行政サービスを提供できずに、町村合併が頻発するだろうし、同時に消滅産業も多発することになる。

 素材に足かせをはめられたメーカーは、需要不足の中での競争に耐えることはできず、業種転換や異業種への進出ができる発想が柔らかい経営者だけが生き残るだろう。みずからトランスフォーメーションできる企業だけが生きられるのだ。

 物流でトランスフォーメーションできるとは、一体どのようなモデルを示すのか。昭和時代のうさんくさい通信販売会社が、ECとして世間からの信用と支持を取り付けられたのは、実際には金融サービスと物流の成果と言えるだろう。店舗という長期高額な投資を避けながら、数兆円を売り抜けているECのような、新たな産業の転換を物流でなしえるには何が必要か。

そのソリューションサービスを「物流」が行えるなら、「買い」一択となるのだが、如何や。

 

この記事の作者
コラム記事のライター
花房賢祐

ロジスティクストレンド代表

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