続・物流回顧録:旬の生鮮食品等を全国から~中央卸売市場のこれから~
1.はじめに
資源エネルギ-をめぐる原油価格の高騰から、ガソリンをはじめとする燃料・石油製品の値上がりによる各種原材料・製品の生産コスト高の影響を受けて製品値上げが止まらない。すでに1万品目を超える食料品が値上げされた。追い打ちをかけるようにウクライナ問題に関連して小麦の流通が停滞して世界的な食料品不足の懸念が出ている。我が国では国の低金利政策による30年ぶりの超円安で輸入品の価格が高騰する事態が出現している。
生鮮食料品の大幅な値上がりは庶民の生活、家計に直結するので年金生活者である筆者には年金減額とのダブルパンチで厳しさがひとしお身に応える。令和4年4月の日銀統計によれば2%の物価上昇に対して、実質賃金は-1.2%の減少で、賃金が上がらず家計負担の圧迫要因となっている。消費者としては旬のおいしい生鮮食料品を、全国から、出来るだけ安く手に入れたいというのが願いであろう。卸売市場がその社会的使命を果たしている。卸売市場とは野菜、果実、魚類、肉類、花き等、生鮮食料品等の生産者と消費者を結び、社会全体で安定的に需要と供給の調整をはかる公共施設です。
2.卸売市場の現状
施設規模の違いにより、
- 野菜及び果実・生鮮水産物は1万㎡以上
- 肉類・花卉は1500㎡以上が中央卸売市場
とされ、それ以下の規模は地方卸売市場に区分されています。
3.市場の主要機能としては
- 集荷(品揃え)
全国各地から多種、大量に入荷し価格決定後分荷し配送。 - 価格形成機能
セリ等による公正、公明性の高い価格形成 - 金決済機能
販売代金の出荷者への迅速・確実な決済 - 情報受発信機能
川上・川下それぞれへ各種情報伝達
となっている。
ここで注目することは、花卉についてです。生鮮品であっても食品ではないので中央卸売市場では「生鮮品等」に分類され「等」が花きを表していることを理解する必要がある。
また価格形成機能としてセリ方式がありますが全国の中央卸売市場で唯一東京都中央卸売市場太田市場花き部として、コンピュータによる「機械ゼリ」で価格決定されています。「セリ下げ方式」をとり、一般的な「セリ上げ」方式とは異りオランダの花き市場で行っていた機械ゼリ方式を取り入れた影響と言われている。
令和2年中央卸売市場数は全国の40都市で65市場が開設されており取扱金額は3兆5700億円、地方卸売市場は全国で公設147市場で取扱金額は2兆7845億円となっており卸売業者数が158社、仲卸業者2,884社、売買参加者22,032社で構成され、取引が行われている。
4.卸売市場の歴史
生鮮食料品市場の歴史は、徳川家康が江戸に幕府を開いた慶長8年に魚河岸を開設したのが始まりとされており、その後大正12年3月中央卸売市場法が制定され、戦後は食の欠乏による闇市等を経て昭和47(1972)年卸売市場整備計画が策定され、5年ごとに見直しが実施され、現在第11次市場整備基本方針が策定され市場を取り巻く環境変化に対応しています。この間生鮮食料品等の流通の中核として国民に安定的に供給する役割を果たしてきましたが、時代の変遷による生産者の所得の向上や多様化し高度化する消費者ニーズへの的確な対応をするため、新たな需要の開拓・付加価値の向上を実現する為の努力等が実施されてきた。しかし市場を取り巻く環境変化は著しく、市場外流通の増大、セリ取引によらない相対取引の増加は止まらず、卸売業者・仲卸業者の経営は悪化の一途をたどっているという状況が続いているのが現実です。
その流れを数字で見てみると以下のようになっている。
食肉を除いて数十年間に渡って取扱金額は減少が続いている。この16年間でも野菜・果実は―16%魚がー42%と大幅な減少傾向にある。
上記の通り、卸売市場における卸売業者、仲卸業者とも社会的な役割を果たしているにも関わらず、経営的には殆ど利益がない経営状態に直面しています。国内の飲食料品卸売業者では売上高総利益率は13.1%経常利益率0.6%が平均であり、卸売市場における利益は半分以下の低利益です。従って令和1年までの十数年間で卸売業者数が青果で91社から67社へ
-26%、水産では87社から55社へ-37%減少し、仲卸業者は青果で1,677社から1,235社に-27%、水産では2,536社から1,512社-41%減少し、花き業者は102社から74社へ-38%減少と大幅な減少傾向が止まらない。
過去30年間にわたる我が国経済の長期低迷の影響や人口減少による市場縮小はこれからも卸売市場に大きな経営圧迫要因として続くものと考えられます。もちろん、これまでにも卸売市場の改革・改善の努力が実施され平成30年には「食品流通構造改善促進法」の改正が行われ、抜本的な改善策が示された。
その内容は、
1) 食品等の流通の合理化に関する基本方針
①流通の効率化に関する措置
②品質・衛生管理の高度化に関する措置
③情報通信技術等の利用に関する措置
④国内外の需要への対応に関する措置
2) 食品等の流通の合理化計画を大臣が認定
3) 食品流通調査 公取による調査・結果通知
食品等の流通の核として国民に安定的に生鮮食料品等を供給する役割を果たすとともに生産者の所得の向上と消費者ニーズに的確な対応をするため新たな需要の開拓や付加価値の向上を実現する共通の取引ルールを設定、高い公共性の維持を図るものとし、
①市場外にある生鮮食料品等の卸業者による卸売り
②卸売業者による仲卸・売買参加者以外への卸売り
③仲卸業者による卸売業者以外からの買い付けする「直荷引」
等の新しいル-ル設定を行った。即ち
- 流通の効率化
ハブ・アンド・スポーク(物流センタ-方式)の検討
- 品質管理
低温物流センタ-・・・・コ-ルドチェーン確保
高度な衛生管理 ・・・・HACCP
(3) IoTの利用
事務所にいながらリアルタイムで把握(出荷・発注状況)
効率的な商品管理
- 国内外の需要への対応
加工施設、小分け施設、パッケ-ジ施設。加工・包装・保管・輸出手続等を一貫して行う施設整備
- 関連施設との有機的な連携
市場から原材料を供給して加工食品を製造する等、市場の開設者である地方自治体及び農林水産省等の戦略対応や指導を実施してきた。それらの努力にもかかわらず、
と大幅に減少している。
更に青果などの大口需要者(ゼネラル・スーパ-等)の増加や産地出荷団体の大型化によりセリ入札方式が低下し相対取引が主流となっており卸売市場の重要度が低下している。
時代の変化に対応する更なる市場の近代化・機能の高度化が急務であり、仲卸業者の経営合理化・効率化により経営体質の強化・改善の具体策として「市場流通型ロジステイクス」の実現によるコスト・ダウン経営を実現し新しい協力・共同化で経営革新を目指した、筆者も一部関与の実証実験の取り組み事例を紹介する。
平成9年度農林水産省補助事業
(仙台市場水産物仲卸業者体質強化支援事業)
モデル仙台市中央卸売市場水産物卸協同組合(宮城県)
期間 平成9年10月~平成10年3月
調査事業 平成10年10月~平成11年2月
共同配送実証実験事業
対象 共配参加予定仲卸組合員33社中、実験参加組合員17社
車両削減効果 実験で目指す目標 30台以上
本稼働後に目指す目標 100台以上(組合員33社)
実証実験結果 配送期間 平成11年1月25日 ~ 2月20日
車両削減効果 14台
(配送コース設定が予定の20%程度の為、今後コースが増えれば目標達成は可能と思われる。)
★ ITを活用した共同配送システム
実証実験での共同配送の実施に当たってはITの活用よる効果が確認された。配送コース・配車計画の支援、カーナビによる配送順路の誘導支援、配送車両の位置確認、配送データの現場入力、OCR送り状による入力作業の軽減とスピード・アップ、組合員ネットワークの構築等により短時間・集中する水産物配送処理の効率化と正確性の確保に必須のシステムであり、本稼働後もそのまま活用でき今まで卸売市場が遅れていた情報システムの高度利用と高度物流システムの併用による経営体質の強化・改善が確実になり、利益が出せる仲卸経営が可能になった。
★共同配送事業の先進事例
コスト削減効果による利益経営で、地域の発展に貢献している。
- 協同組合 八戸総合卸センター(青森県)
共同配送2年目に収支トントン初年度貨物量1,270ケ-ス/日から6年間で2,640ケ-スと2倍以上に増大し、その後8年間で14,100ケ-スと当初に比べ11.1倍に増え続けている。
配送車両(スタート時)11台 (15年後)47台(4.3倍)
(効果)貨物量が大幅に増加しても車両台数は抑えられている。
共同配送の成果は経営体質の強化に大きく貢献している。
- 福島市水産物協同組合 共同配送センタ= (福島県)
期 間 調査事業開始から4年後に配送センターオ-プン
配送台数 共配スタ-ト前 45台
現在 26台 19台削減(43%減)
(効果)コスト削減効果は大きく、車両台数の削減はもとより配送に付随する作業員やドライバ-の人件費削減等に威力を発揮している。
前述したように卸売市場を取り巻く環境は時代の変化とともに厳しさが増している。変化への対応が遅れれば市場の存在価値が低下し、関係する卸売業者・仲卸業者の経営は少子高齢化の進行と相まってジリ貧から抜け出せなくなる。卸売市場の大きな強みである、豊富な品揃え機能等の強味を活かした新しい展開、全国ネットワ-クの活用による高度・付加価値サ-ビスの開発等まだまだ成長・発展する可能性があるように思われる。
3年間、支援事業に関与した経験から卸売り業者・仲卸業者が一体となって共同配送の実施とIT活用によるネットワ-ク・システムの構築は経営体質を大きく改善する効果が明確となり、全国の卸売市場に同様のシステムを横展開することで画期的な利益創出可能な市場体質構築が期待できるものと思われる。世界一を誇る「東京中央卸売市場」に匹敵する新たな卸売市場の出現を期待したい。
この記事の作者
田中 徳忠
(有)セントラル流通研究所