物流塾

続々々々続物流回顧録:「銀行と物流」について

 一般的には銀行と物流についての関係は結びつきにくい感じがする。
しかしながらよく考えてみると、一国の経済を司る金融は銀行による活動によって支えられているのである。国立印刷局で発行された紙幣(銀行券)・造幣局で製造された硬貨(貨幣)は日本銀行を通して民間の金融機関(銀行)へ流通されるのである。その量は膨大なものであり、更に加えて約束手形・小切手の決済も銀行の主要な業務処理になっており、その物流もかなりの量に上っていた。

紙幣とコインの流通量

 2021(令和3)年の大晦日、企業・一般家庭・金融機関で年を越したお札(銀行券)の残高は122兆円で、枚数にして182億7千枚にのぼり、これを積み重ねると1,827㎞となり、富士山の高さの484倍になり、横に並べた場合約2億8千万㎞(月までの距離の7倍)に達する量になる。
 ちなみに、2021年度の銀行券(お札)の受払高としては、受入高78億3千万枚、支払高83億2千万枚、償却高17億3千万枚であり、貨幣受払高は受入高32億2千万枚、支払高20億6千万枚となっている。
 これだけ膨大な銀行券・貨幣を毎日全国で流通させるには主にトラックを使用しての輸送が行われているが詳細は明らかにされていない。主にセキュリティ対策の必要性の理由からと考えられる。数十年前に引き起こされた輸送中のトラックが襲われた未解決の3億円強盗事件の経験からもより慎重な対応がなされている。


現金流通のトレンド

 我が国のクレジットカード、電子マネー等のキャッシュレス支払は、個人消費に占める割合は増加している。一方で、現金流通量は一貫して増加基調にあり2020年は119兆円と20年前の2倍となっている。特に1万円札の発行が増加している。これは低金利によるタンス預金化の傾向による、かさばらない一万円札が選好されやすいためであると考えられる。2013年以降ゼロ金利のためタンス預金のメリットとして、ATM故障等のシステム障害や停電の恐れがないという利便さと危機管理のやりやすさ、手元にある安心感が相まって現金が手放せ
ないと思われる。

現金輸送の実態

 現金輸送における問題点の一つは、「貨幣の受払い」が指摘できる。即ち「貨幣(釣銭)」の返却問題である。毎日各地の銀行に戻った釣銭は銭種ごとに分類され、日銀から支給された麻袋に入れ、まとめて日銀の各支店へ返却されるのだが、一袋の重量が60Kgに決められているため、取扱が大変であり、受取る日銀職員が腰痛になる可能性が高い。また、麻袋が取扱い中に「破れ」が発生すると日銀側で受取拒否になるので取扱い注意である。戻されてしまうと、袋の代金がかかることと1日分の金利が付かなくなる。
 第2の問題点は、銀行の合併・吸収に伴う輸送効率低下の問題がある。大手三行は何度か吸収・合併を繰り返して現在の銀行名になっているが「釣銭」の返却ル-トが吸収・合併以前の輸送ル-トがそのままになっていることである。合併すると支店同士の距離は短くなり、新しい輸送ル-トを効率的に回ることが出来、トラックの必要台数も減る筈である。しかし、実際はそうなっていない。合併以前と全く同じル-ト・同じ台数で返却作業を行っている。
 輸送企業としては、銀行の吸収・合併が行われても生き残った銀行側からの指示がない限り、今までと同様の作業を継続する。数十から数百店舗の支店を最も効率良く集配するルート・ネットワークを立ち上げることは容易ではない。日銀側にはそのノウハウもない。新しいルートを設定しても何か問題を起こしては大変である。今までのルートを継続すれば若干効率は低くても安心して運用出来るのである。
 使い古した紙幣の償却高も毎年相当なボリュ-ムに上る。日銀の職員が償却するため、製紙会社に立ち合いで、溶融作業を確認する。万一の事故が起こらないよう、焼却ではなく溶融するのである。

約束手形・小切手への対応

 紙幣と並んで企業を中心とする顧客からまいにち大量の手形・小切手が持ち込まれます。お互いの銀行が支払うべき手形類を相互に交換し受取額と支払額の差額を日本銀行で一括して決済することで効率的な決済を実現する制度である。従来銀行では個別の債権債務をいちいち決済することに比較して、各金融機関は手形類を全国各地にある(2022年現在179ケ所)手形交換所に持ち寄って交換をしてきた。手形交換制度は現金輸送リスクや手形業務の煩雑さ、決済に必要な準備金の額を減少させるメリットがあった。東京手形交換所や大阪手形交換所では、担当者がデ-タを持ち寄るスタイルで決済が行われていたが神戸手形交換所では64の金融機関の担当者が平日午前9時前に集まり手作業で手形決済を行い125年間、現物で決済していた。
 2022年11月4日から、手形類のイメージデータを各金融機関の間で送受信して交換・決済を完結する「電子交換所」に移行した。これに伴い各地の手形交換所は廃止されました。
「電子交換所」は手形等の健全な利用を確保するため、6ケ月間に2回、手形・小切手の不払い(不渡り)を起こした者に対して、その後2年間参加銀行との当座預金取引や貸出取引を停止する「取引停止処分制度」を運営しています。

おわりに

 今後の課題としてATMの対応が課題です。顧客サ-ビスとしては大変便利で好評ではありますが、銀行経営から考えると経費や手間が掛かり過ぎ大変な負担となっています。支店・営業所のように人員配置があるところは対応もできますが、無人の店舗ではセキュリティ対策も含めて対応が難しい面があります。現実に銀行ATMの台数は減少する方向で動いているようです。コンビニに設置されているATMとの共同利用によりメリットが出せると考えられます。物流面からもコストの削減になると思われます。

 

この記事の作者
コラム記事のライター
田中 徳忠

有限会社セントラル流通研究所

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