物流塾

複雑社会をシステムで〜エピローグ〜

世の中には唯一最高の方法がある

 と信じていたのがアルフレッド・テイラーで、彼が確立した手法がIEでした。生産工場での効率化とアウトプット極大化を目指すためには、誰もが同じ方法、誰もが同じ考え方、誰もが信じて疑わない理論として一斉を風靡しました。そして、今もなおその偶像は生き続けています。人は手と足を持つ生産道具であると規定したからこそ、行き着いた理論と生産システムです。

 ベターウェイを追い求めることは間違えではありません。業務は改善されるべきだし、私たちは「愛と時間と健康」のために人生を仕事を通じて生きています。より良い方法があるのは確かでしょう。けれどもIEの過ちは「人を部品とみなしている」ところにあります。誰もが標準化という記号で示され、人数や手の数で計算されているのです。

1900年科学的管理手法と呼びました。<科学的>だったのです。現在でも多くの信奉者がいて、黄金率が残されています。

ところが、反論と逆説が全く同じ時期にあったことは、案外知られていないのです。1920年頃、本当に作業者は「生産システムの部品」なのか、という素朴な疑問から始まった実験会場がホーソン工場というところでした。

 唯一最高のアウトプットを果たすための方法は、働く職場の空調環境や出身地の似通ったチーム編成など、人間関係の暖かさに大きく依存している、ことが証明されたのです。人は「手と足のある生産のための部品」ではなく、「心と頭のある考える手段」ということが明らかになったのでした。最高のパフォーマンスを得るためには、職場の一人ひとりの感情と意見に従った職場環境が重要だということの真理が見えたのでした。

計画されたシステムは無敵なのか

 正しい目的に対して必要な手順と要素を列挙してゆくと、システムが完成します。時々起きてしまうエラー条件も加味しておけば、バイパスやリカバリー・ルートで回帰、復旧できるでしょう。しかも、機械だけでなく人が左右する状況では、人間関係論や感情心理学を上手に組み入れば、安心のシステム環境が整うはずです。

 そう大切なことはシステムを支える人の心理と感情なのです。

 2001年には新たな世紀を迎えた素晴らしい未来が始まったはずなのに、日付データによるコンピュータパニックが予想され、企業家は『時価会計』という未来の利益予想に従った経営計画で株価を吊り上げる犯行が行われて、2万人が突然解雇されるというエンロン事件が起きました。資本主義の頽廃が始まったとも言われたのです。システムエラーが目立つようになったのも、この頃からでした。信じて疑わなかったものが足元から崩れてゆくさまは、未来がディストピアとなるのではないかという不安が織り込まれたものです。

 社会システムが様々な障害やエラーを引き起こし始めて、競争美化から競争回避へ転換し始めたのもこの頃です。ブルーオーシャン戦略という、競争回避の新市場発掘経営が噂になりました。資本主義の原点である競争を真正面から否定し、行道を探し出す知恵経営を示唆していたのでした。

 経営や社会の基盤となっていた競争真理が危ういのもだ、競争なくしても存続や成長がありうるのだ、気づかない世の中の真理や法則がまだまだ発掘できるのだ、というインスパイアを私たちに与えてくれたものです。目的が明らかでも、プロセスにはまだまだ選択の余地が残されているという命題が示されたのでした。

しょせん我々は自然界の生き物なのだ

 どれだけ厳格な規定や罰則があっても犯罪が無くならないように、不純な動機もふつふつと湧き上がります。人の心理は弱いもので、倫理を失うし、プライド無くして安易な道に進むことを非難することはできません。人は弱いものだからです。そこで生まれたのは、エコシステムという世界観です。食物連鎖は良くできています。命の連鎖でもあり、共存共栄のしくみにつながります。自然界に生まれたシステムは無理がありません。不純な動機もありません。数万年も続く安定したシステムだったと言えるのですが、これが危機にあります。自然環境が崩れ始めているからです。自然と人とが共存できない環境が生まれつつあるのですが、もっと私たちは謙虚に振り返る時期になっています。

 共存こそ人類が数万年を生き続けた真理であり、ルールでしたから、システムも共存を目指すべきなのでしょう。ライオンはシマウマを襲うけれど、満腹になればその場を離れるものです。聖書で述べられた7つの大罪はエコシステムそのものでした。

 資本主義の強欲さは独占を追求して、市場を食べ尽くすことを目指してきました。経営は最高の利潤追求を目指して、外部経済や社会のフリーライダーも見逃してきました。エンロン事件に始まった資本主義破綻の経営活動は、地球資源や自然への尊厳を失ったために様々な病魔を人間界に引き込んでしまいました。鳥豚牛ウィルスを予兆として、呼吸器症候群が変異を続けてコロナ19型となって拡散したのです。予兆を察知していたのは限られた人々でしたが、確実に対処を進めていました。それが世界種子倉庫を建立したビルゲイツとロックフェラーの末裔達というエスタブリッシュメントです。

 彼らにはシステム破綻が予測されていたのでした。エコシステムにも不完全さがまだ残されていることを見通していました。

周辺への貢献と外部評価

 公式も規則も明らかです。競争を回避してもとの生活に戻るのです。7割経済程度の80年代まで戻れば、スタートを開始できるでしょう。膨張しすぎた経済をバランスに戻し、自然や地球環境とも持続可能性を探りながら7割経済に落ち着かされば、それでも成長は可能です。なぜならば今はロスが多すぎるからです。膨張は余剰となり、廃棄物まで生産過剰となっているからです。

 システムの目的を再び原点に戻し、「愛と時間と健康」に据え直せば良いのです。効率ではなく成果でしょう。経営活動の目的は、他への貢献と良い影響を与え続けることをガイドラインにするのです。仕事も人生も全く同じ次元で捉え直せば、日々の幸福感も満たされることでしょう。

 

この記事の作者
コラム記事のライター
花房賢祐

ロジスティクストレンド株式会社

お問い合せ

コラムやセミナーなど、お気軽にお問い合せください

お問い合せ