物流塾

学生が見た物流 ~物流当事者が物流PRで気を付けるべきこと~

学生の眼から見た物流

 筆者は毎年某大学で物流管理講座を担当している。今期も14回の講義を終え、その中で学生と対話して感じたことや学生のレポートから読み取れたことを記してみたい。

 学生の多くは「物流」という言葉すら知らない。日常生活の中で宅配やアルバイト先での納品や在庫管理、材料発注なども物流であるという説明をすると授業に対する姿勢に変化が見られた。授業を通して徐々に「ああこれも物流なんだ」という気づきが学生の興味をそそり、熱心に聴き、考え、発信する学生が増えていく。この「気づき」を学生に与えていくことも教える側のタスクだ。本音を言わせていただくと、学生には何かしら物流に関わる仕事に就いてほしいという思いがある。物流そのものを生業とする企業に限らず、メーカーや卸、小売でもよい。IT業界に行って物流を支援するしくみづくりに携わってもらってもかまわない。要は事前知識と若干の技術を身につけて社会に出て欲しいという教える側の願いもある。

学生は昨今のコロナ下で自宅にものを届けてくれる物流に対する感謝の念を持っているとともに、自分たちの身の回りのものがすべて物流を介して入手出来ていることについても認識している。
 しかし大半の学生は就職先として物流を本業とする企業を希望しない。それは物流に対するイメージが大きな壁となってしまうから。授業を進めていくうちに学生に物流に対するイメージを聞くと以下のような回答が返ってくる。

  • 道端にトラックを止めて寝ているドライバーをよく見かけるが、それほど大変な仕事なんだと思う
  • トラック運送は強面のおじさんのイメージが強い
  • 全産業の中でも労働時間が長く、賃金が安いので就職先としてはちょっと・・・
  • テレビのワイドショーで宅配員の仕事が昼休みも取れないほど大変だと知った。そのような業界に行きたいとは思わない

若者の印象はずばりこのようなものだ。いくら物流が社会インフラとして重要で貢献度が高いといってもネガティブなイメージが強ければ人材採用は極めて難しいと考えざるを得ない。

物流の魅力の伝え方

 学生はインターネットやテレビなどのほか実生活で見かける実態で物流をイメージしている。そこで学生のレポートから見えてきた物流のイメージ向上策について触れてみたい。

  • テレビコマーシャルでは主に運送に関する内容のものが多い。しかし私たちはサプライチェーン・マネジメント(SCM)という幅広い領域を学び、その中には魅力ある仕事も含まれていた。たとえば生産と物流をつなげたデータ管理で在庫を最適化するような仕事などをPRしても良いのではないかと感じた。
  • 私たちは大学に入って初めて物流というものを知った。これだけ社会で重要な業務なのでできれば小学校や中学校の教科の中で教えていくべきだと感じた。
  • 物流のイメージを上げるためにドラマ化すると良いと思う。今までも航空業界や医療業界、行政書士業界などでドラマがあったが、その直後にその業界を希望する学生が増えたと聞いている。

多分このコラムをお読みになっている皆さんも同じことを感じていらっしゃると思う。でも実際には思うだけで行動には移せていないのではないか。これらの方策は確かに「アリ」で、私たちが行動しない限り実現は不可能である。ぜひ今後の課題としてお互いしっかりと認識していきたいものだ。

私たちが今すぐやるべきこと

 一方で私たちにはすぐできることもある。物流の魅力とともに重要性について知らない人たちにPRすることが必要。PRする相手はまず社内の人たちかもしれない。筆者がいたメーカーでは筆者が物流担当になった30年以上前は社内の物流の地位はとてつもなく低かった。メーカーでは「ものづくり」が本業であり、物流はノンコア作業と認識されている。日本らしい考え方だが、まさに「ものを加工する」作業以外は本業ではないとされアウトソースされる。SCMの視点が欠けているのが日本のメーカーだ。一方で物流は改善が進んでいない。もっと努力せよと号令がかかる。物流なんかに人材は投入できないと言われる。もちろん物流担当部署の努力不足は否定できない。しかし物流だけで改善できないさまざまな現象が物流に現れる。その典型が「在庫」だ。

  • 調達部が市況で有利と考えて不要な量の材料を買い付け、倉庫が置ききれないほどの在庫であふれかえる
  • 製造部で段取り替えが面倒だからと言って、来月分までをロットまとめして生産し、大量のロット在庫の置場不足に苦労する
  • 生産遅れが発生し、出荷担当者が共連れ残業するとともにトラックを待たせる
  • つくりすぎの影響で容器が不足し、物流担当者が非正規容器に詰め替える

このようなことはメーカーでは日常茶飯事。すべて物流の責任にされる。しかしここできちんと物流への悪影響を数値化し、要因を発生させた部署に是正を促す行為が必要だ。これこそ私たちがすぐやるべき重要なPRなのだ。

対外的にはメディアを使ったPRの改善を挙げたい。先ほどの学生の意見にもあったが、物流の負の側面をこれほどまでPRする意味がどこにあるのかと疑問に思う。

  • 宅配に行っても不在のため再配達が大変
  • 配り終わるのが午後9時。昼休みもろくに取れない
  • 長距離運送の仕事では家に帰って子供の顔を見られるのは月に数回しかない

確かにこれらはすべて事実だろう。本当に苦労に苦労を重ねて社会インフラとしての使命を果たしていることは間違いない。その大変さを国民の皆さんに知っていただきたいという気持ちは筆者も同じだ。でも私たちはもっと冷静になって伝え方を注意する必要がある。大変なのはどの仕事でも同様だということ。ことさら物流だけが大変のようにPRすると逆に人材確保に苦労することは目に見えている。そんな業界に行きたくないと思うのは当然のことだ。

いかがだろうか。物流の将来を考えると優秀な人材に参加してもらい、より高品質・高効率のサプライチェーン構築を実現したい。そのために私たちは「今すぐやること」「近い将来の課題として行動に移す体制を築くこと」の2つについて実行に移していきたいものだ。

この記事の作者
コラム記事のライター
仙石 惠一

・物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。
・自動車メーカーでサプライチェーン構築や新工場物流設計、物流人財育成プログラム構築などを経験。
・著書 「みるみる効果が上がる! 製造業の輸送改善~物流コストを30%削減~」
・日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術など連載多数。
http://www.keinlogi.jp/ 無料メルマガ 「会社収益がみるみる向上する!1分でわかる物流コスト改善のツボ」 https://www.mag2.com/m/0001069860

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