物流塾

続々続物流回顧録:ランドセルは消えない~公立小中学校の教科書供給につい て

1.はじめに

 例年9月~10月は、来年度の新学期向けランドセル商談が活発になるシ-ズンです。人口少子化による新一年生児童数は減少の一途をたどっています。1955年には約250万人いた児童数は文部省・学校基本調査によれば2020年度には101万8315人となり6割減少しています。それにも関わらずランドセル出荷数は(経済産業省・工業統計)事業者数61社合計で2020年に155万4580個でした。この中には小中学生用以外のものも含んでいますが。
 2001年度は新1年生児童数が約123万人、2006年度は約120万人に減少しましたが、ランドセルの売上高は359億円、2018年度は約106万人に対し546億円、2020年度の101万8315人でも売上高545億8000万円と好調ぶりを示しています。ランドセル一個当たりの平均単価が上昇し、5万3千円を超えています。
 一方、教科書の供給に関する供給手数料、供給方法等、各種の課題がおきています。義務教育教科書の無償給与制度は憲法に掲げる義務教育無償の理念をより広く実現する施策として実施されています。無償給与される教科書は、特約供給所や取次供給所と呼ばれる供給機構によって各学校の生徒に手渡されています。教科書の供給は、明治時代から行われ、その後現在の供給機構が確立されて継続されています。一方で、宅配便に代表される原材料や商品の物流やロジステイクスの高度化、情報化の進展は目覚ましく顧客満足の向上と物流コストの削減がなされてきています。教科書の供給においても、高度化した物流・ロジステイクスシステムの導入などによる業務の効率化や供給コストの削減に向けた取組が求められています。

1) 特約供給所は管内の取次供給所を選定し教科書の過不足調整、教科書代金の回収等の事務を行う。
2) 取次供給所は教科書を学校に直接供給する機関。書店がこの業務を行う。

2.教科書の供給における問題点・課題

 人口出生率は年々減少傾向にあり、2022年度は98万人台となりこれからもこの傾向は止まらないと予想されています。現行の教科書供給システムでは人減少により教科書供給予算が減少し、供給手数料減少で、完全供給の存続が危ぶまれる状況が予想されます。

 このため文部科学省は教科書の供給業務や供給機構に対し、業務内容及びコストの両面から分析・検証を行い、供給手数料総額や手数料比率の妥当性と新たな手数料体系を考察することを目的として調査、研究を実施した。

1) 調査・研究
 学識経験者、教科書業界関係者、流通・物流事業関係者からなる検討会議を設置・運営し、専門的かつ詳細な分析・検証を行いながら
1 供給手数料の在り方(方向性)を示すこと
2 現況の供給形態以外の手法による試験的な教科書供給を実施することを
想定し、そのためのモデル地区の選定、供給形態、経費の試算、実施ス
ケジュール案を示すことを目的として調査研究を実施した。

2) 調査研究の体制
大学教授を座長に、全国教科書供給協会、教科書供給㈱、教科書供給所(書店)代表者、物流事業(運送事業)責任者等に財務省主計局主査と物流専門家として筆者を入れて14名の委員による検討会議を実施した。
 同時に発行者や大取次における供給実態や、非効率になっている地方の取次供給所における供給実態を把握するためのヒアリング調査を実施。

3) 教科書供給費用のシミュレーション
現況再現モデル、単純モデル、取次直送モデル、バッファ送本モデル静岡モデル、拠点集約モデル等による試算を行った。

また、
①給手数料総額の算定方法
②新たな供給手数料の設定・分配方法

3  業務・効率化・現況ルールの見直し、について検討した。

 その結果は、ヒアリング調査、各種供給パターンにおけるシミュレーションの試算結果、特約供給所及び取次供給所による顕在化調査などを通じて、無償教科書における供給手数料の在り方として、新たな手数料体系を提案し考察を行ったが、実現可能性が低い提案、あるいは課題が多く、さらなる検討が必要である提案が多い、という結果となった。さまざまな改善案やモデル事業案が提案され、議論されたが現段階において一つの方法に決定するには困難があり、中長期的な視点に立ち、供給体制も含め、供給手数料の在り方についてより具体的に議論を深めていく必要があろう。特に、現行の教科書供給を担っている特約供給所や取次供給所は特有の問題を抱えている。
・少子化に伴い自動生徒数が減少することにより、教科書の取扱冊数が減り、供給手数料収入も減少する。
・完全供給を達成するための安全在庫の予測が難しい(確定注文、納入指示数、受領冊数の制度向上に務めているが、大型マンションでの3月集中引越による児童生徒数の確定数の把握等)
・供給時期が3月に集中しているため業務の平準化が難しい。
・学校へのサポートや柔軟な対応が常に求められている。
・教科書供給の複雑性(学校、学年により使用する教科書が異なる等、組み合わせが複雑であり、物流事業者では対応不可能)
・本業(書店)の採算性悪化。全国で廃業が大幅増加(35%減少)。
・災害時の補給及び事務手続き(災害時は救助法適用と摘要外で提出書類が異なる。
・供給困難地域の問題。
教科書予算の縮小により通量が減少しても離島・山間僻地・豪雪地域など供給が非効率になっている地域においても、完全供給しなければならない義務を負っている。
 平成18年より特別供給費は廃止されているがこのような地域の存在と完全供給の重要性を鑑みれば、都市部とのメリハリをつけながら該当する地域には特別に手当てすることも考慮する必要があります。

3.おわりに

 教科書貸与制度にして、学校のロッカーに保管管理する方式に変更すれば問題解決に近づけるが、以前中央教育審議会等で議論されたが我が国では、個人所有以外はデメリットが多く、貸与制度は難しいとの結論であった、ということで今回も議題に載らなかった。従って、国内ではランドセル市場は縮小必至ではあるものの、海外から引き合いも多く、まだまだ工夫次第で希望が持てる市場のようである。

この記事の作者
コラム記事のライター
田中 徳忠

(有)セントラル流通研究所

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