物流塾

続々々続物流回顧録:古くて新しい「共同物流」の歴史

 物流関係者なら誰が考えても分かる「物流で成果を上げるには規模のメリットを追求する物流の共同化」がある。ところがこれが意外に難しいのだ。一口に「共同化」といってもその内容は複雑多岐にわたり、対応は様々になる。その永遠の課題は「トラックの積載率の向上」にあると言えよう。

 一般に、トラックが積んでいる荷物は最大積載量の50~60%と言われる。出発地で100%の貨物を積んで出発しても、配達先で貨物を降ろして帰るときは空車で帰るからである。従って物流事業者は出発前に、事前に帰りの貨物を確保して、できるだけ空車での走行を回避する戦略を考えることになる。これが意外に難しい。

 全国輸送を行っている大手運送会社などは、全国主要都市に設置されているトラックターミナルを使って方面別に仕分けされた貨物を集配する仕組みで往復輸送を実現しており効率的な輸送システムで営業出来ているが一般的には片荷輸送である。例えば、コンビニ・配送をみても、物流センターから各店に配送する場合に商品を満載して数店もしくは数十店に配送後、センターに帰る時は空車になるので、空のパレットやダンボール箱を積んでいる。

 我が国全体の物流をみても貨物量は圧倒的に大阪・東京間の東海道に集中しており貨物の偏在が顕著である。最大消費地である東京を中心とする関東周辺地域に貨物輸送された後、帰り貨物の確保は難しい。輸送は一方通行が常識なのだ。この困難な課題を解決するために様々な努力・創意工夫がなされてきた。

 最近の新しい共同化として、2019年4月から食品メーカー5社が協同出資して設立したF-ライン㈱がある。味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清製粉ウエルナ、日清食品オイリオグル-プが出資し、味の素物流とハウス物流サービス(事業の一部)、カゴメ物流サービスが事業統合した。資本金24.87百万円、従業員1,857名、年商827億円、車両512台を保有する物流企業である。事業の目的は物流の効率化と環境負荷軽減を掲げている。食品業界は利益率が低い為物流コストは大きな負担になっている。利益を確保するには物流コストの削減は必須である。規模の拡大をはかりながらスケールメリットを追求して大幅なコストダウンを実現することを目指すことは適切な方法であろう。今までの共同化は参加する各社は別法人で、物流は共同化しても、経営は別々であり、共同経営ではなかった。従って意志の疎通には問題があった。F-ラインは効率化を推進しやすい形態である。

 スタートして数年は順調に効率化が進むものと思われるが、その後の進捗が気になるところである。5社の効率化が進捗しても、Fラインは拡大発展出来るとは限らないからである。物流専門企業は常に顧客を増やし売り上げを増加させ続けている。特定少数の顧客だけでは永続的な発展は望めない。

 従って、Fラインも5社の顧客を基盤として食品物流のノウハウを活かした営業展開による拡大発展を目指すことになる。すでに、先行するキューソー流通システム、日立物流等の全国展開で大きな実績を持つ有力企業との競争が控えている。上場を目指した戦略展開が期待されるところであろう。

 筆者が経験した、トラックの積載率を大きく向上させた二つの事例を見てみよう。

 その第一は、20数年前から、ウイスキーをオンザロックで飲むとき入れるロックアイスのK製氷冷蔵(千葉県八千代市)が冷蔵車に規定重量のアイスを積んでも荷物室の上方部分に空間が出来てしまう非効率をなくす工夫を考えた。軽くて同時に輸送できる製品と企業を見つけ出したのが、肉まん、あんまんを製造販売する、三重県津市に本社がある有名なI製菓であった。配送先も共通するコンビニが多く、温度管理もうまくできた。最初は共同輸送だけでスタートした後、コンビニ業界の成長発展に乗って業容が拡大発展する中で、肉まん、あんまん専用の保管倉庫も製氷会社の敷地内に建設し更なる効率化を実現した。物流の効率化を図るには現場の創意・工夫が大切である。うまくシステムが軌道に乗れば長期間にわたってメリットを享受できる。

 第二は、「帰り荷斡旋」として物流業界では古くから実行されている共同物流の形態がある。昔は電話による帰り荷物の確保による売り上げと積載効率アップを目的とした戦術であった。個別企業が取引で知り合った同業社と連絡を取り合い輸送効率を追求し業績の確保をめざした。30年ほど前から、全国にある中小物流事業者が運営する「運送事業協同組合」が連携して、インターネットを活用したコンピュータシステムによる全国的な展開をスタートさせた。代表的なシステムとして「日本ローカルネットワークシステム協同組合連合会」がある。インターネットをフル活用して、事前にパソコンで配達先近くの事業者の帰り荷の貨物を確保してから出発する方法で効果を上げている。登録している運送事業者は1500社以上あり、2021年度は年間総取引高446億円、契約件数は57万件という実績をあげている。30年間にわたり毎年平均400億円以上の売上を確保し続けることの意義は大きいと言えよう。

 物流システムは経済社会の基盤を担う役割を果たしています。日常生活の中ではあまり物流のことを意識することは少ないですが、事故や震災などで物流が滞ると、生命の危険も含めて大きな不安を引き起こす存在であり一刻も早く復旧が急がれる。特に食品関連の物流はサプライチェーン全体の保全と危機管理が重要であり、物流の共同化は効率化と並んで普段から万一に備えた準備が肝要になります。

 我が国は現在も物価上昇が続いています。物流共同化・効率化を目指して更なる努力が肝要になると思われます

この記事の作者
コラム記事のライター
田中 徳忠 

(有)セントラル流通研究所

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