物流塾

新型コロナ感染症が変えた物流の世界

コロナが変えた私たちの生活と物流

五月晴れの最高の季節。のはずが新型コロナウィルス感染症(以降コロナ)により、今日も家に籠り最低限必要な生活物資(特に食料品)の買出し以外は外出を控える。ストレスたまり放題。コロナの影響により、私たちの生活がどの様に変化しているのか。ものづくり(製造業)と物流と言う観点から考えてみる事とする。

世界中の人達が、コロナ対策として社会活動を自粛している。人々が家に籠り、繁華街、生産現場から人が消えた。巣籠りしている人々は、生きていく為に最低限必要な食料品、医薬品、日用雑貨品等の商品のみを購入し消費している。この様な生産、消費活動の中、製造業では食品、医薬品、生活雑貨等の一般消費財を扱う企業は好調を維持し、他産業の業績は低迷している。コロナにより工場を停止せざるを得ないという事情もあるが、需要そのものの減少が主要原因と言える。これら製造業の状況に対し、物流業界では世界中の貨物量が減少し、船会社ではコンテナ貨物減により減収。航空貨物関連では、旅客機の減便により貨物スペースが減少し航空貨物運賃の高騰、減収。陸運業界では、企業貨物減により企業貨物を取り扱う物流事業者は減収。唯一増加している貨物は、スーパー、ドラッグストア、コンビニ等への食料品、生活雑貨の輸送と、ネット通販商品宅配等、巣籠り需要に対応した貨物のみである。

コロナ禍により社会の経済活動が激変する中、物流は社会インフラとして消費者の生活を支えている。

情報通信技術(ICT)だけでは解決できない物流業務

経済活動は生産、流通、消費で構成されている。消費者の消費行動(需要)に対し、売れるモノ作り(供給)が生産である。そして生産されたモノ(商品)を消費者(次の生産工程も含む)に届ける活動が流通である。この生産、流通、消費の連鎖(チェーン)をサプライチェーンと言う。今コロナ禍の世界では、このサプライチェーンが途切れ混乱状態にある。

流通には商的流通(商流)と物的流通(物流)があり、商流は商取引における情報の流れであり、物流はモノ(商品)の流れである。

商流はコンビニ、スーパー、ドラッグストアおよびネット通販等、販売サービスにおける取引、情報の流れであり、インターネット、情報通信技術(ICT)等、通信ネットワークを介し、瞬時にやり取りされている。

ところが物流は、モノの流れであり、そう簡単には行かない。「運ぶ」、「保管する」、「包装する」、「積卸する(荷役)」、「扱い易く加工する(流通加工)」という役割(機能)において、人手作業に負うところが多く、一昔前から本質的変化はない。

コロナ禍の中、食料品、医薬品、日用雑貨品等の生活必需品がどの様に流通しているのか?物流を事例として考えてみる。マスク、消毒液等一部商品の不足は、コロナにより世界中の需要が増加し、生産と消費のバランスが崩れたことによる現象である。トイレットペーパー不足は社会混乱時に発生する情報デマによる買い占めが原因であり論外である。食料品、医薬品、生活雑貨品の消費者一人当たりの消費量は同じであり、流通している総量に変化はない。    

ただし、行動の自粛により、学校の休校、仕事帰りに居酒屋で一杯、家族とレストランで食事等が無くなり、学校給食、居酒屋・レストラン需要が減少、その代わりスーパー、コンビニで食材を購入し家で食べる家食が増加、結果としてスーパー、コンビニの物量が増加した。一時的ではあるが生活様式の変化による流通ルートの変化である。

これら大手スーパー、コンビニの商品は、地域物流センターを経由し、各店舗に供給されるが、今この物流センターがピンチとなっている。

流通業における物流現場の実態

食料品、医薬品、日用雑貨の流れは、農業・畜産業・水産業、製造工場、問屋等からトラック輸送し、一旦各社の物流センターや市場に納品される。物流センターでは発注通りに商品が届いたかを検品し、一旦倉庫に保管する(物流センターを通過し、そのまま店舗に直納される場合も多い)。保管された商品を店舗からの注文に応じて商品を保管場所から取り出す(ピッキング作業)。店舗別に仕分、トラックに積込、店舗に運ばれ(配送)、納品される。

多くのスーパー、コンビニの物流センターは、稼働開始後15年~20年が経過し、建屋の老朽化、導入された自動倉庫、コンベア、仕分機、ピッキング設備等の老朽化、現在の商品特性に合わない陳腐化等の問題があり、人手作業で対応しているケースが多い。そこで要員不足を補うために、多くのパート社員、外国人労働者等を雇用し、どうにか日々の作業をこなしている。現在のコロナ禍の中、各物流センターではコロナ感染防止対策、安定操業対策で大変な苦労をしている。もし万が一、感染者が出てしまい物流センターを閉めざるを得ない状況になった場合、店舗供給ができなくなり、社会生活に大きな混乱を与える可能性がある。流通業の使命として許されざることである。

物流改革の重要性

これまで物流事業者は日々の業務を確実にこなす事(指示された事を確実に行う)に専念し、物流改革にはほとんど取り組んでこなかった。結果、現在の物流業務には沢山のムダがあり、作業生産性、物流品質、安全、コスト、働き方改革、雇用問題等々多くの問題を抱えている。商品特性の変化(商品ライフサイクルの短縮)、商品の多様化、少量多品種化、多頻度化等の流通業の変化に対し、現在の物流作業は十分に対応できていない。

コロナ禍の中、物流が果たす役割の重要性が見直されているこの機会に、コロナ終息後の社会を見据え、物流改革に取り組む事が重要である。

また、確実に日本の労働生産人口は減少し、物流従事者は、ますます雇用困難となる。今回のコロナ感染症や、いつ襲ってくるか分からない自然災害(地震、津波、台風、噴火等)への対応等を考えても、物流改革の緊急性は高い。

このままいくと、社会インフラとしての物流が機能しなくなる恐れがある。

今後取り組むべき物流課題と未来

物流改革を推進するために、

(1)物流の社会的認知度を高める。

物流の社会的認知度は低い。物流は下請けであり、安くて、納期・品質を守ってくれればそれで良いとの感覚の企業が多い。一部の先進企業を除き、残念ながらこれが現実である。これからの社会、ロジスティクスが事業戦略の要であるとの認識は高まっているが、総論賛成各論躊躇(反対までは行かないが)が現実である。

物流側から、一般社会、製造業、流通業の経営者等へ、物流・ロジスティクスの重要性をアピールし、物流の社会的認知度を高めなければならない。

(2)物流人材の育成

ロジスティクス戦略を構築できる物流専門家、ロジスティクス・物流システムを設計・構築できる物流技術者の育成が急がれる。

物流技術者に求められる知識・技術は、物流の基礎知識、実務経験、科学的管理技法(IE、QC、VE、OR、統計学、経済性工学、人的資源管理等)、システム設計技法、プロジェクト管理等である。日本ではまだまだ数が少ない。

(3)物流現場改革の具体的推進

①働きたくなる現場に変える。
物流現場で働く人たちの作業から、重労働、長時間労働をなくす。他業界と遜色のない賃金・福利厚生とする。若者、女性、高齢者、外国人労働者等、誰にでもできる作業、働きたくなる職場を作ることである。

②改善を進めムダを無くす。
常に現場は改善活動に取り組み、ムダな仕事、ムリな仕事を無くすための検討と実施、PDCAを廻す。

③自動化を進める。
今後の生産労働人口減少問題を考えた場合、どうしても少ない人数で業務を行える作業現場作り、つまり自動化・機械化、全体最適物流システムの構築が必須である。

社会がどのように変化しても、物流が社会から無くなる事は無い。社会インフラとしての役割を果たし物流が輝く為に、変革すべき課題は多いが、物流の未来は明るい。

この記事の作者
コラム記事のライター
青木規明

生産ロジスティクス研究所 代表
技術士(経営工学部門、総合技術監理部門)
aokilog.lab@kch.biglobe.ne.jp

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