物流塾

物流回顧録<続々10回>物流革新の進展

 我が国に「物流」という概念が導入されてから30数年が経過した。以前は輸送・保管・梱包・荷役等の物流機能を表現するものとして扱われ、現在のように物流機能全体を意味する概念は存在しなかった。

 わが国では物流とは、主として作業現場における効率化、合理化、省力化等を目的とする近代化が模索され、効率アップに基づく物流コストの低減が中心課題であった。もともと我が国の企業は、ある限られた工程の生産性の向上を得意としていた。しかし、物流改革は全体最適の業務改革が必要であり、「モノの流れ」に注目した販売・生産・物流など、全社トータルに見て、コスト・サービス・時間価値などを改善する業務改革である。

 企業体質を利益志向に転換することにより低成長経済に即した戦略展開が期待される。現在では、組織横断的に顧客への対応によるサービス向上とコスト削減によって収益性の向上・利益拡大を実現するための取り組みが行われている。

物流革新事例1

 一般企業(製造業・卸売業・小売業)等が実施する物流革新少数の例外を除いて一般企業に於いては、生産管理、販売管理、在庫管理等の業務管理を中心として一部、保管・梱包・発送業務等の物流管理業務を行っているが、輸送等は直接自社で輸送免許を取得して配送まですることは少なかった。物流は物流専門の子会社等が担当することが多かった。社内に物流の専門家はいないため、全社的な物流革新を実現すことは難しく、在庫を削減する事で精一杯で、部分的な物流改善しかできず全社的なコストダウンは期待できないのがこれまでの我が国企業の実態であった。

 物流の全体最適による革新は、企業の経営全体を体質改善し、売上高営業利益率を、我が国企業の平均3~5%の状態から、少なくとも10%以上にアップして、海外の優良企業並みにレベルアップする事が期待されるのである。実際、ここ数年、10%以上の利益を実現している企業の多くは物流革新に成功している。

数例を上げると、

 等がある。共通点を上げると、経営トップが自ら物流革新の中心を担った活動を行っていることである。特に業績好調のEC通販においては、物流サービスの優劣がダイレクトに競争優位の根源として、企業業績に反映されている。実際、アマゾンは創業時から間もなく、企業の競争力を決定づける最大要因として、経営が赤字になっても巨額の物流先行投資を重ね、競争障壁を築いて圧倒的な強さを発揮している。

 2022年12月期には世界で70兆円の売上高を達成し、20兆円を超える物流センター投資を駆使してより優れた物流サービスレベルを提供。即ち

  • 受注後即日配送
  • ITを駆使した大型物流センターでのフルフィルメント(注文受付・問い合わせ対応から決済、在庫管理、物流(ピッキング・梱包・配送)アフターフォロー(サポート・返品・交換対応など)一連のプロセスのこと。
  • ロボティクスによるローコストオペレーション(無人倉庫を指向)
  • 世界に君臨するクラウドシステムサプライヤーとして、1億品目を超える品揃えで消費者の利便性を向上させる等、顧客に対して付加価値を生むサービスを提供することにより競争相手を圧倒し、物流システムの差別化により、楽天、ヤフー他に対して徹底的な優位を確立している。

 昔は「物流は縁の下の力持ち」と言われた時代が長かったが、アマゾンによって、物流概念の大転換が実現したと言えよう。物流システムが経営合理化の為だけではなく、競争戦略の強力な手法として確立されたのである。

 アマゾンは米国では顧客サービス向上のため、航空機40機による航空貨物輸送を実施して全米の航空貨物事業者の手薄な地区を自社便で補強し生鮮品輸送も冷蔵車による配送サービスを行っており物流企業としての要件も具備するに至っている。

物流革新事例2

 物流企業は、一般企業と比較して長時間労働で賃金も2~3割は低く、6万社以上存在する運送事業者の2社に1社が赤字という実態がある。少子高齢化の進展とも相まってトラックドライバーの不足が進展し、2004年には労働時間の規制が予定されている。

 更に事態を深刻化させるのではとの懸念が出ている。このような状況の中で、ダントツに好業績を上げている物流業態が荷主の物流業務を一括して受託するサードパーティ-ロジスティクス(3PL)システムがある。

 30年ほど以前から「複合一貫輸送」という受託事業の形で3PLと同様の物流サ-ビスが提供されてきた。現在の佐川ホールディングス(以前の佐川流通サービス)(SRC)に代表される業態である。

 物流のプロとして専門知識を活かしながら、荷主業態に対する各種課題を解決する実践的な取り組みを通じて全社的な物流改革を実現するサービスを提供する。物流ノウハウの活用によるコスト削減と利益獲得体質への改善が図られるとともに、物流事業者としても売上高営業利益率の向上が期待できるのである。

(1)佐川ホールディングス

 2022年・売上高営業利益率 9.8%。同時期のヤマトホールディングスの4.3%、日本EXPRESSホールディングスの4,9%と比べ、2倍以上の好業績となっています。

 2021年度の宅配便取扱実績は、ヤマトが全体の46.6&、佐川が28.0%と市場占有率はヤマトが圧倒しているが上述のように利益率は逆転している。安売りだけでは勝てないのである。

 わが国の上場している大企業の平均売上高営業利益率は5%前後なので、佐川の実績は物流事業者として評価できると言えよう。

(2)ハマキョウレックス

 2022年・売上高営業利益率 8.88%。2023年・東京証券取引所1部上場、サードパーティロジスティクス(3PL)による「物流センター」、業務のトータル管理システム受託を全国展開しており、現在130以上のセンターを運営している。1990年神奈川県相模原市に開設したイトーヨーカ堂物流センターの受託から3PL事業を開始。2010年にJAL(日本航空)ロジを買収、2012年にJTB(日本旅行)物流サ-ビスを買収、2018年にJP(日本郵政)ロジサービスを買収。大須賀会長は日本3PL協会の初代会長を務めた。

 物流業界では、当初「物流センター」の受託事業は利益が出ないと言われていた。それを「日替わり班長制度」という仕組みで生産性向上に成功し、同時に「収支日計表」という日時決算が可能になるコスト管理システムを開発。月毎の決算も締め日の2日後には終了出来る。上場企業の中では「日本一決算の早い会社では?」と言われ視察に来る企業もいる。

(3)丸和運輸機関

 2022年・売上高営業利益率 6.5%。2015年に東京証券取引所1部上場。1990年前半から、小売業に特化した3PL事業をスタート。マツモトキヨシの首都圏における店舗で「ノー・検品、納品率100%、ノー・在庫」という小売業界日本初のシステムを開発し、ダスキン、レコードの新星堂、イトーヨーカ堂等、他社ではマネが出来ない高付加価値ビジネスを実践している。

 創業当初から人財育成に熱心に取り組んでおり、1997年から社内に「丸和ロジスティクス大学」を開設。14年間で400名が終了。その他、㈳日本ロジスティクスシステム協会の研修(6ケ月コース)終了者・92名、中小企業大学校終了者・79名他等々人財育成の環境整備と教育制度の充実を促進している。

 物流企業では珍しく数年前から新入社員は新卒だけを募集し2018年は195名の新卒100%で殆どが大学卒であった。

(4)日立物流㈱

 2022年・売上高営業利益率 5.2%1990年・東京証券取引所1部上場。1986年3PL事業開始。我が国の3PLではNo.1の規模と実績を持つ。当初は日立製作所の物流子会社として日立グループの物流を担っていたが、その後他社の物流業務を受託する事業を開拓し現在は日立関係の業務は全体の20%以下である。

 2006年資生堂物流サ-ビスを買収。その後コーセー化粧品、チフレ化粧品等の物流を受託し、化粧品・トイレタリー等の物流プラットフォーム事業を展開。2009年内田洋行の物流子会社買収。2011年DIC(大日本インキ)の物流子会社を買収。ホーマック(ホームセンター)の物流子会社を買収。2012年バンテック(自動車輸送会社)を子会社化。2012年日立電線の物流子会社を買収。

 「デジタルトランスフォーメーション銘柄」(DX2022)に、佐川ホールディングスとともに選定された。DX銘柄とは、東京証券取引所に上場している企業の中から企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用をしている企業を業種区分毎に選定する。

 上記4社に共通する特徴は、物流のプロとして専門性の高いノウハウを駆使して高付加価値サービスを提供して顧客の信頼を得ている。即ち・衣料品・EC通販主力の総合物流と宅配物流センタ―受託に特化したサービス提供・小売業だけに限定した総合物流を展開・化粧品物流他プラットフォ―ム化の総合物流大手の物流事業者でも達成できない売上高営業利益率5%以上の高い利益を実現している。

 変化の激しい、先行き不透明の時代には、経営者自らが「物流革新」の重要性を十分に認識し、率先して行動し、事業戦略の中核として取り組むことが期待される。

この記事の作者
コラム記事のライター
田中 憲忠

有限会社セントラル流通研究所

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